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黄泉路 【幻想詩】

真夜中
青白い照明のコンビニ
単四電池を探すが
見当たらない
クリームパンを買い
夜道で頬張る
喉元が冷えてくる
暗渠の川をわたり
宿を探す
電柱の影しか見えない
鈴虫が鳴いている
停留所にバスが止まっていた
200円払って乗り込む
運転手は靄の中にいた
車内は薄暗く
全ての窓が開け放たれている
乗客は僕だけだった
生ぬるい風が運んでくる気配は
骨を焼く匂いに似ている
バスが揺れる
気分が悪い
さっき嚥下したパンが
喉元に込み上げてくる
降ろしてほしいというと
バスは暗闇に停止した
僕は降車口から崩れ落ちていき
叢に身をかがめ
ひとしきり吐いた
バスは行ってしまった
蛍が舞っていた
水音のする方に進む
山麓に来ていた
叢に腰を降ろして休む
水の音がする
数匹の蛍が舞っている
鈴の音が聞こえました
チリン チリン
規則正しい音色
チリン チリン
山の上から何かが降りてくる
一列になって
蝋燭の灯を持って
とても規則正しく
ゆっくりと
チリン チリン
狐が降りてくるのだった
ああ
もうこんなところにまで
来てしまったのだな
僕は
寂しく 懐かしく 
思いました
皆さん
僕を迎えに来てくださったのですね
たくさんの白狐たちは
叢にあつまってきて
橅の一本樹を囲み
円になった
チリン チリン
右前脚
左前脚
順番にかざし
静かに舞った
チリン チリン
僕も踊りの輪に加わり
静かに舞いました
このうえなく静かな心持ち
チリン チリン
どのくらい
そうしていただろうか
長い 長い時間
遠くの空が
薄っすらと
明るんでいこうとしている
狐たちは
また一列になって
山へ戻っていこうとしています
僕も列に混ざって
山路を登っていきます
チリン チリン
僕にも戻る場所がある
そう思うと
不思議に静かな気持ちに
なりました
長襦袢を身にまとった僕は
顔を白く塗って
山路を登っていく
チリン チリン
天の川が薄っすらと見え
僕は
天頂に着くまでに
この世の全てのことを
忘れていくのだと思いました

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