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猥歌 【詩/幻想詩】

この雪深い街の
裏道に入っていくと
哀歌と愛歌のあいだに
ごく薄っぺらい猥歌が挟まっていて
薄暗い硝子を透かして
顰み笑いが漏れてくる。

その先は迷宮になっていて
小動物の死骸が腐臭をたてる。
廊下の隙間から
とても悲しい気持ちが
滲み出してくるので その扉を
つい開けてしまうのだった。

ごく控えめな幸福が
電柱をグラグラさせる。
この雪深い街では
看板のはげた鯨料理の店が
ネオンをギラギラさせている。
隣の踊り場では
シッカロールに蒸せた娘が
片脚で踊っている。

夜も深まってくると
片目の潰れたこわいお坊さんが、
さあもう閉店の時刻だ
とっとと出て行きやがれ、と
鉢を叩きはじめる。

トンチトテ
トンチトテ

側溝から立ちのぼる靄が
全てを曖昧にするのだった。
だから鹿も猿も同じように
僕たちの隣に座っていて
時々は猥歌を口ずさみながら
四肢を胸元に走らせるのだ。
その中には八本の脚を持つ者もいて
そのふいの撹乱に動悸が激しくなる。

トンチトテ
トンチトテ

もう日付を越える頃になると
見知らない路地にいて、
ますます激しくなっていく雪に
途方に暮れる。

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