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見えない力 【詩・ショートストーリー】

地方小都市に
ついに現れた超高速鉄道

寂れていく街が
一気に再生する
そんな期待が湧き立ったのは
わずかの間だった

それからというもの
街は砂漠に侵食されていく
これはどういうことなのか
市長に直談判にいくが
彼女のお住まいはニューヨーク
市民たちが騒ぎ出した

(落ち着いてください
 あなた方はみな
 砂漠に現れた幻なのです
 刻々と現れては消えていく
 幻に過ぎないのです)

(そんなカバナ
 あなたは我々を騙したのか
 誰のおかげで市長になれたと思っているんだ)

すると市長の立体映像は
ムニャムニャになって消えてしまった

いま
その街に地名はなく
だから
市民は存在しない

(まあ
 そんな経緯ですが
 記録が
 2年で廃棄されるこの国には
 歴史はないのです
 空間だけがあるのです
 この地形図をお渡しします)

一枚の地形図を頼りに
歩いていくと
幻の市街が僕の眼に浮かぶ
黄色い砂が舞い
おんぼろバスがたまに通り過ぎる
すれ違う人々の眼はみな
空洞になっていた

超高速鉄道は
あまりにも高速なので
目には見えない
だが確かに存在しているようだ
30分おきに気圧が動くので
それと知ることができる
目には見えない力の働きが
地形図上には
わずかな標高の差異として
表記されているようだ

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