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恐竜図鑑 【幻想詩】

この部屋に閉じ込められて
十年が経った。
もう雨は止んだようだ。
生あたたかい風が吹いている。

陥没した街道の脇から
恐竜の骨が見つかった。
雨に磨かれて
蝋燭のように輝いた。

そういえばあの少年たちは
もう十年も姿を現さない。
ポテトチップスの匂いと一緒に、
押し入れの奥の
見えない部屋に籠ったまま、
もう変声期は過ぎていることだろう。

また雨が降り始めた...
その音を聞いたのは
私ではなく
私の耳の中にいるカミキリ虫
まだ雨が降っていた...
その音を聞いた少年たちは、
温もりが消えていくのを感じ、
寒々とした気持ちになって
友達の耳をかじるだろう。
きっと
長い時間をかけて、
貝のような塩気が滲み出すだろう。

長い年月が流れ、
変色した耳の骨と
甲虫の死骸の底に
恐竜図鑑が一冊。
それだけはありし日の輝きをとどめ
いつの間にか止んでいた雨の底で
腐敗をくぐりぬけて、
生き残ったもの。
市立図書館の暗い書庫に収められた
失踪者の痕跡

消防車のサイレンが
雨上がりの街を走っている。
まるで遊んでいるみたいに、
いつまでもぐるぐるまわっている。

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