元海の街
有明界隈の埋立地は草茫々の時代からたまに訪れていた。まだホンダレブルという250ccバイクに乗っていた頃だったので、日曜日はゴーストタウンになる豊洲から新木場や有明方面は、信号も少ないし、近所で快適に走れるエリアだったんだ。秋になるとススキを取りに行ったりもしてた。
ただ当時の有明は革の上下でまっちり決めた走り屋たちがビュンビュン走ってて、結構なギャラリーも集まって、そしてちょっと離れた陰にパトカーも待機してる、アメリカンタイプのバイクなんか鼻にも引っ掛けない、そんな隠れサーキット場でもあった。
そこら中にテレビやエアコン、自転車やステレオ等の粗大ごみの山もあったし、怪しいバンの不法駐車場と化している所もあった。
どっか無国籍な世間離れした異空間が、銀座築地から10分ちょっと走った所にあるのが面白かった。晴海だって十分不思議だったから、有明なんてもう東京の最果てって感じ。
そこに臨海副都心が出来たわけだ。海を臨むんじゃなくて海を埋め立てたんだよ、元海なんだよ、海は望んで埋め立てられた訳はないんだよ〜。とか言ってもまぁ、江戸の昔から東京は海を埋め立てて広がってきたんだから、ある意味伝統文化かも知れないけどね。
東京ビッグサイトが竣工したのは1995年の秋らしい。その時、もしくは翌年の春前かな?東京には結構な量の雪が降って、雪が降ったら銀の輔と銀座に繰り出すのが習わしなので、出かけたんだろうね。その頃、ミニ四駆みたいなバンに乗ってたんで、足を延ばしていっそ有明の出来立て新都市にと思ったのかな。
案の定誰もいなくて、ガードマンもいない。だ〜れもいないの。東京の隅っこのごちゃごちゃした街に生まれ育った僕には、荒涼と茫漠の埋立地にも感動したけど、コンクリとガラスでできた無人の出来立て巨大建造物にも驚いた。まるで僕らのために点灯してくれたような照明の下に、雪がそっと降っていた。
今だったら24時間警備だろうけど、まだ緩かったんだと思う。これに味をしめて何度か通った。確かカラーフィルムでも撮ったと思う。
下町や都心の路地や古い家なんかばかり追い掛けていた僕に、今の東京を歩くのも悪くないって教えてくれたのは、もしかしたら有明かも知れない。
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