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Pしんぶん その7

確定申告への道すがら思い出すことなど
 旧聞で恐縮ですが、正しき個人事業主として確定申告に行って来ました。豊島税務署は西池袋の立教大学近所にあるので、池袋駅から歩いて行くんです。西池通いはもう四十数年前のこと、そりゃ街も変わります。

 池袋駅から北口を出ると、かつて何軒もあった洋服屋は激減し、読めない看板の食材店やガールズバーの呼び込み女子が増え、そうだよ、池袋演芸場だって一番街の通りじゃなくて、その裏の細い道に入口があって、無限に続く階段を登って行ったなってね。その細道の横にあった瀬戸物屋は、物凄い量の商品を店先に並べて、この出し入れを毎日やるのか…っていつも思っていました。


蔵王はこのビルの地下にあった、はず

 ロマンス通りに大した変化を感じないのは、ロサ会館が健在だから。今はインディペンデント映画の牙城とも言うべきシネマ・ロサだけど、その頃は怖くて入れない映画館でした。平気で煙草吸ってる人いたし。そのまま六又交差点に向かうと、今は劇場通りと呼ばれている道の向かい側にあった立ち食い蕎麦屋・君塚、まだ学生時代にはありませんでしたが、無闇に多いお品書きは魅惑的でした。

 それよりは喫茶蔵王でしょうねぇ。僕らの中ではわんこトーストと呼ばれた無限お代わりのランチです。ひとつ食べるとふたつ来る恐るべき店でした。それは今はとり鉄という店があるビルの地下だと思いますよ。


元マルイ

 六又交差点のランドマークたるマルイの消滅は、時代の趨勢を思い知らされます。鳴り物入りで誕生した旗艦店は、学生時代の昼休み休憩所でした。屋上にあったラジコンカーのサーキット場をぼんやり眺めながら、デパ地下で買ったパンを食べる昼下がりは、なかなか快適でした。まだ芸術劇場も無く、広い空き地だったので、友人とキャッチボールをするのと双璧のゆったり気分です。

 その頃から激安極美味だったドリームコーヒーも遂に閉店し、なんだ、残ってるのは豊島税務署だけか…と、溜息が止まらない西池巡礼です。


西池の良心

焼きそば定食って……


穏やかな側の中崎町

 世の中の大抵の料理は定食化できる。全ての単品メニューにご飯と味噌汁付けられますと、ときわ食堂のお品書きにも書いてあるし。なので飲食店で見掛ける◯◯定食の文字に違和感を持ったことは一度もなかった、大阪を歩くまではね。

 環状線か阪急電車の高架下の店前に掲げられた「お好み焼き定食」は、なかなか衝撃的だった。それ自体がご飯でおかず、いわば一品で定食な料理だと思っていたので、これで白飯が食べられるんだろうか?と思うと同時に、その風景に凄まじい違和感を覚えた。しかし大阪巡りを続けるうち、粉物文化とソース愛を知るに至り、僕らがもんじゃを食べるようなものかも知れないと思うことにした。

 もうひとつ解決しなければならないのが「焼きそば定食」だ。既に立派な一品料理である焼きそばにご飯はどうなの?一緒に口に入れたらモサモサしないの?疑問は謎となり、このメニューを見るたびに店内を見渡すのだが、食してる人も見掛けない。これは一般的じゃないのか?

 中華屋の半チャンラーメンは炒飯だし、汁麺類にライスを頼んで、スープを掛ける人は見たことがある。初めて名古屋の味噌煮込みうどんを食べた時にご飯が付いてて、濃い味噌味の汁麺はおかずになることも知っている。刻んだ焼きそばとご飯を炒めたソバメシも知ってる。でも大阪に来ると、他に食べたい物が沢山あるんで、優先順位が一向に上がらないのだ。いや、意図的に上げてないのかな。

 しかし時は訪れた。数年振りに訪れた中崎町がどんどんお洒落に激変してて、その手の店でお昼はちょっとねと思ってたら、ありましたよ喫茶レインボー。見るからにご近所さん御用達な町の喫茶店の佇まい。そして数少ない食事メニューに、焼きそば定食の文字がね。

 甘み控えめのソースで炒めたキャベツと豚肉と麺の上で、花鰹が踊ってる。差し色の控えめな紅生姜が美しい。そうか、具を中心にご飯を食べて、麺は麺で食べるのもありだ。串カツやお好み焼き同様、ソースが決め手かと思いつつ、焼きそば定食は中崎町に限ると決めた。

やきそば定食の雄姿

今日も銀座に行かなくちゃ…


王道の花見

 いつも思うんですけど、銀座で咲き誇る桜に出会うのは、意外と難しいんです。旧京橋のたもとの京橋側、江戸歌舞伎発祥の地と大根河岸青物市場跡の記念碑がある辺りには寒桜がありまして、この木の花が結構長々咲いているので、これを見るのは簡単なんです。ただ小さな花が桜だと気が付くかどうかは微妙ですけどね。

 この桜の木を横目に高速道路高架下を潜っての右側、銀座一丁目と高速道路の間の道がさくら通りです。この桜並木の品種のせいなのか、それとも単なるへそ曲がりなのか、世間の桜の開花時期よりちょいと遅いのです。開花宣言くらいじゃ微動だにせず、東京は満開ですと言われてもまだまだな年が多くて、どうせまだに違いないと思い込んでると、はいお終いって風情になってる。もう意地悪なんじゃないの?って思うこともしばしばです。まぁ野暮用続きで行きたくても行けないって年もありましたが。


身の丈の花見

 銀座には花が咲く並木が殆どありません。並木通りに紫陽花が頑張ってるくらいかしら。そうだ、マロニエ通りもありますねぇ…。でも葉っぱの存在感の割に花が小さいから気が付かないのかな?僕は見た記憶がないし、実がなってるのも見たことが無いんです。それはそれで不思議ですけどねぇ…。

 だからこそ満開の桜並木に出会えると嬉しい!ホントはあのこれ見よがしな風景に入り込めないんです。でも銀座は特別な街なので桜も特別。なんだ依怙贔屓じゃないかと言われるけど、そう依怙贔屓、どうせ贔屓の引き倒し。数寄屋橋交番周辺の桜よりもこっちに惹かれるのは、あっちより人通りが少ないからかも知れません。


美味なる花見

 でもなぁ…四丁目の美味しい桜が僕を呼ぶんです。一年中パンの中にしょっぱい桜が隠れてるあるあそこですよ、ふふふ。お店の両端にも桜がディスプレイされてね、ショーウインドにも舞い散っています。結局花より団子じゃないかって?いやいや花よりあんぱんです! 


ペンギン堂雑貨店咆哮

「今年も満開になりましたねぇ、大塚の桜」、「おはようございます、鐘ヶ淵さん!」。いつになく笑顔の鐘ヶ淵さんは、朝七時から営業する謎のバーKのマスター。「東福寺の山門とこも綺麗でしたよ」、「あそこが大塚で一番風情がある桜じゃないですかね」、「そういや天祖神社の社殿工事もまだ時間がかかりそうですね」、「及ばすながら少しですが寄付しました」、「アナタはお宮参りも七五三も、天祖神社のお世話になったのですから、まぁね」。

「寿司常会館も工事中ですね」、「かなり本格的な工事みたいだから、時間かかりそうで」、「お陰で大宴会できる場所がなくて困っていると聞きました」、「その斜前にあった小さなビルは解体しました」、「ホルモン焼き屋が入ってたとこですね」、「何が入るのかなぁ?」、「と言えば随分前に閉店したCDショップ聖楽堂はドラッグストアでしたね」、「大小ホテルや民泊も多い大塚で物販なら、妥当な選択でしょうね」。

「近頃はラブホテルにも観光客が泊まってますから」、「玄関前で時は記念撮影してる人たちを最初に見た時はビックリしました」。観光スポットはないけど、昔からホテルだけは多い町に、こんな需要が生まれるとは思わなかった。

 「あなたの店があるビルの地下も、ピンポン飲み屋さんが閉店したけど、その後はどうなるんです?」、「ですよね、どうなるんだろう?」、「パン屋さんならいいですね」、「こらこら鐘ヶ淵さん、人をぬか喜びさせないで下さい」。過剰な期待はほぼ叶わないのが、この街のお約束だ。

編集後記のようなもの

 久し振りで大阪に行ってきました。観光客が激増しても、繁華街のお店が様変わりしても、あの独特の空気感は健在です。十年くらい前に大瓶ビール三百九十円だった天満の立ち飲み屋さんが、今も値段据え置きだったのには感激しました。休日の如く大混雑&大行列な千日前界隈で、変わらぬ佇まいを守る純喫茶にもホッとしました。また来るよ!

 

 大感謝配布協力

池之端・古書ほうろう、雑司が谷・旅猫雑貨店、法善寺横丁・洋酒の店 路、目黒・ふげん社、浅草・珈琲アロマ、平井・平井の本棚、神宮前・シーモアグラス、大塚・山下書店。まだ募集中!

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