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無思想町徘徊紙 Pしんぶん その9

今日も銀座に行かなくちゃ


街一番の貴重品

 飲食店やブランドショップや喫茶店は沢山あるし、ありとあらゆるお店がひしめく銀座ですけど、どんな街にも、そのひとつしかない店やスポットってのがあるから、きっと銀座だってあるはずなんです。
 そう思ってパッと思いつくのは、一丁目の青汁スタンド。戸建ての小さな店で、売りますものは青汁オンリー。実は僕もご贔屓でして、青汁が美味しいこと、季節で甘味や風味が変わることをここで知りました。なかなかの人気店で、早朝、店先に大きな外車を停めて、ササッと飲みに来る紳士、出社前に立ち寄る人も多いんですよ。
 本屋さんも教文館一軒時代が続いたけど、さくら通りにお洒落な中国系書店ができた辛うじて活字文化を死守しています。そうそう、乾き物おつまみの有名店がありましたね。たまに買いますよ。その近くにお米屋さんもあった!軒先に銀座米って印刷された米袋が詰まれてて、現役バリバリです。
 昭和通り沿いで頑張ってたガソリンスタンドも無くなって、銀座でガス欠したら大騒ぎ。一方で日本一の地価を誇る街なのに意外と公衆トイレは点在してて、さすがだなって思います。

 街一番の貴重な唯一物件といえば、やっぱり消防署でしょうね。京橋消防署の支所みたいですけど、滅多に開かないシャッターの奥には、はしご車も常駐してて、小さいけどパワフルな消防署です。
 消防車っていつもピカピカですよね。この消防署の磨き上げた消防車も見事です。しかも車体に「銀座」ってプレートが付いてたりね。でも緊急車両は暇な方がいい、街が安全な証明ですもん。
 この近所にもあったなぁ、ガソリンスタンド。くすりの福太郎だって、ニコンフォトサロンだってありました。銀砂消防署は、唯一物件の星!


いつもピカピカ

幸せの円盤甘味


東西王者の貫禄

 ホットケーキの美味しさは郷愁とリンクする。きっとプリンもだ。どちらも店で食べるものというより、家で作って貰うイメージがあるせいかも知れない。作っている最中に漂う甘い良き匂いと黄色い円形は、頬を緩ませる最強アイテム。

 千日前のアメリカンを知ったのは、大阪歩きを始めて数年後、菊水丸さんの本だったと思う。道頓堀界隈に芝居小屋や演芸場がひしめいていた頃、近所の小屋に出てる役者や芸人が、休憩中に来店しても食べやすいように、あらかじめカットしてあるのだと。
 先ずその佇まいに圧倒された。美しい意匠の内装と照明、レジ前の吹き抜け階段の更に上から咲き誇るシャンデリア、そしてウエイトレスさんの制服、そのどれもが長い歴史を重ねた上での昭モダンの粋に溢れてた。莫大な品数のメニュー、冷蔵ケースに並んだケーキの懐かしき正統派。
 その趣に違わぬ優しく柔らかなホットケーキは、深煎り浪速ストロングスタイルのコーヒーにベストマッチするのだ。開店と同時に来店し、デイリースポーツに目を通しつつ味わう甘味&苦みは、ミナミの朝のお約束となった。

 大山のピノキオを教えてくれたのはマギー司郎さん。とある取材をした時に指定された喫茶店だった。仕事を終えての雑談中、ここはね、ホットケーキが美味しいんですよ、銅板で焼いてますからねって。それが気になって改めて再訪した際、その姿に驚いた。分厚いまん丸!しかも型も使わずに作るのだ。ホットケーキはふんわり柔らかいという概念を打ち砕く、しっかりした仕上がりもまた新鮮だった。
 パリっとしたという表現が似合う表面にナイフを入れると、しっかりしっとりした密なケーキが現れる。あと一歩でホットビスケットと言っても過言ではない仕上がり。他所の物とは次元が違う逸品なんだ。
 黙々と銅板に向かう御主人と気さくな接客の奥さんの二人三脚。ジャズが流れるロッジ風佇まいに心和む。

 アメリカンとピノキオ、この東西二軒さえあれば、僕の黄色く茶色く甘く丸い生活は安泰なのだ。

さらば国際&帝劇ビル


皇居お濠側の勇姿

 次々と建て替わっていう丸の内。有楽町ビルと新有楽町ビルは既に閉鎖され、国際ビルと帝劇ビルの解体も決定した。

 有楽町ビルに比べると、僕にとっては若干馴染みが薄い。帝劇で芝居を見た記憶は無く、通い慣れたのは出光美術館だけ。でも好企画多く、いち早く若冲や白隠、仙崖を見せてくれたし、皇居と周辺ビル群を見渡す休憩エリアの絶景は、正に東京の美術館の代表格と言えよう。美術館には珍しくお茶が飲めるのも嬉しい。

 しばしの休館を前にした総集編の趣もある今年の企画、名残惜しみに出向いた時の展覧会も、出光興産の創業者にして初代館長、佐三が愛した波山と放庵の作品群も素晴らしかった。

 考えたらじっくり歩いたことの無かったビル。そもそも国際ビルはコクサイビルではなく、クニギワビルなんだ。仲通りの正面玄関から入ると、大きな柱の向こうに吹き抜けの二階、真っ直ぐ伸びた一階の床のモダンなモザイク、地下に向かう階段の踊り場で、ガラスオブジェ壁が、内側からの照明を受けてじんわり琥珀色に浮き立つ。床のモザイクは一階同様にビルのシンボルデザインの如く、そこここに出現する。エレベーターホール奥の壁の美しさも素晴らしい。

外観からは想像できないモダンな内装

 地下に降りると飲食街が迷路のように広がっている。入れ替わりも多いのだろう、チェーン店も見受けるけど、やや照明を落とした通路は落ち着きが漂う。

 国際ビルと帝劇ビルの区別は分からないけど、帝劇楽屋入口って看板を見ると、この上は劇場なんだなって分かる。すぐそばに蘭という喫茶店があって、サンドイッチが美味しくてね。でも喫煙可だから、サラリーマンだらけの店だったっけ…。

 歩いたことのない通路に出た。立ち食いそば屋があるなんて知らなかった。階上で働くおじさん達に混じって、帝劇スタッフさんらしき人々も蕎麦を手繰っている。「汁は関西で」の一言が気になって、ビル閉鎖前に確認しないと、一生後悔しそうだ。


関東と関西の謎


北口番外篇 P横丁的日乗

「おはようペンギンさん、いよいよ夏が来ますね」、「鐘ヶ淵さん、おはようございます。暑苦しい街が一層暑苦しくなる季節です」。緑一杯の公園も涼しい日陰もない大塚の夏は、屋内蟄居しか手がない。

「喫茶店はチェーン店ばかりですもんね」、「ボギー、いちこし、永田珈琲店。考えてみりゃ、三軒あるだけでも優秀なのかも知れません」、「昔は個人の喫茶店の宝庫でしたから」、「ボギーの隣には、えんどう豆でしたっけ?」、「二軒ならんでました」、「ベルクラシックの坂道には鹿鳴館」、「そうそう、アタシは好きでしたよ。壁に高そうなギターが沢山掛かってて、割と広くてね」、「僕が好きだったのは北口の濱。大塚一番のコーヒーでした」、「確かサイフォンで淹れてた記憶が」、「勉強堂って洋品屋の二階にはロアール」、「今は名前も雰囲気も全く違う店になりましたね。一階は生麺屋さんに変わって」。

「そういや鐘ヶ淵さん、宮仲公園通りの左角にあった喫茶店、憶えてます?」、「あ~、ありましたねぇ。名前は忘れたけど、ローマ字表記でした」、「僕も店名の記憶はないんですけど、あの店の御主人は元競輪選手だったんですよ」、「ほほう、話を聞いたんですね?」、「選手を辞めてから店を始めたそうです。有名選手じゃなかったけど、家二軒分儲けて、一軒分遊んで、残ったのがここだって教えてくれました」、「ふふふ、そりゃ面白い。それで肝心のコーヒーの味は?」、「それだけは聞かないでください!」

 カフェじゃない普通の町の喫茶店が大塚に戻って来る日はあるのか?

編集後記のようなもの

 何ヶ月も広告欄を占拠してますが、七年振りにバンドライブを決行します。メンバー全員還暦を越えてもなお、相変わらずバカバカしい曲を作って歌い続けて四十数年。コロナ禍も腰痛も高血糖も乗り越えてのライブです。8月24日(土)、大塚駅近くのウェルカムバックで開催しますので、よろしくね!

  大感謝配布協力

池之端・古書ほうろう、雑司が谷・旅猫雑貨店、法善寺横丁・洋酒の店 路、目黒・ふげん社、浅草・珈琲アロマ、平井・平井の本棚、神宮前・シーモアグラス、大塚・山下書店、深川・エンミチ文庫。 

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