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虐待対応で必要なのは「腹くくり感」。

映画『MOTHER マザー』(大森立嗣 監督)を鑑賞した。一言で言うと…見事だった。

特に、主演の長澤まさみさんの演技。本当に素晴らしかった。(コンフィデンス・マンに、MOTHER。最近の彼女の演技の幅は目を見張るものがある。どこまで魅力的な女優さんになってしまうんだろうか…?楽しみで仕方がない!)

この映画のことを少しでも調べた方がいたら、大体の内容は分かっていると思う。少しでも興味のある方がいたら、STAY SAFEを徹底した上で是非劇場で鑑賞していただきたい。

これまでも、虐待について描かれた作品はあった。『誰も知らない』『きみはいい子』『万引き家族』など。

私は心理士として虐待事例にも関わっているから、こういう映画を観る時には、どうしても、一歩踏み込んだ観方をしてしまう。なぜなら、映画というフィクションをとおして頭の中に浮かんでくる、実際の子どもの姿があるからだ。

その点『MOTHER』で描かれている周平は、私が実際に関わっている子どもの姿に非常に近いものがあった。(周平を演じた奥平大兼くん、素晴らしかった!心からの拍手を送りたい!)

この映画の着想となった実際の物語については、きちんと事実を調べたわけではないので触れることは避ける。しかし、この映画だけではなく他の虐待を扱った映画にも言える共通点がある。

物語のなかに「オイオイ‥‥!」と突っ込みを入れざるを得ない人物が必ず登場するのだ。それは「そこで救わないでどうすんじゃ、ボケ~…!!」と、思わずヤクザ口調(※関西風)で突っ込まざるを得ないような人物だ。

まぁ、そういう過失(過失と言っていいと思う)を犯す人物がいないと、映画になるような展開は起きないのだから仕方ない。現実に起きた悲しい事件をみても、この過失が点在している。(言うまでもなく、それらはゼロを目指さなくてはいけない。)

児童虐待は、この世にたしかに存在している。

医療機関では、過去にうけた虐待の影響で心の不調や精神疾患を患っている方に出会う。学校現場では、児童相談所と連携しないといけないケースに出会う。

だからだろうか…。私は、学校現場では彼らの10年後、20年後を想像し、襟を正しているようなところがある。将来、心の不調を抱えてもいい。(それは仕方ないとも言える。)でも、なるべく重症化しないよう、取り返しのつかぬことにならぬよう…今できる最善を尽くさないといけないと思っている。大げさでも何でもない。人の命がかかっているのだ。

学校現場では、スピード感ではなくスピードが求められる場面にも遭遇する。そういう時は、「傾聴」とか「共感」だけでは意味がない。私の中でも、カチッとスイッチが変わるのを感じる。

それは、例えるならば「子どもの弁護士」として機能するような感覚だ。

情報を集めながら(子どもの視点から見た)事実を明らかにし、管理職と話し合い、適切な機関と連携する。

この時に大事だと感じているのが、「腹くくり感」だ。

「腹くくり感」…私の感覚に無理矢理名前をつけた感じは否めないが…言うならば、ちょっとやそっとのパンチを食らっても倒れない、体幹と覚悟のことだ。これは通常でのカウンセリングでも欠かせない大切な感覚だが、虐待事例の危機介入はそこに少なからず"戦闘態勢"が加わる。

何となく、”まだ大丈夫でしょ?”という空気が周囲に蔓延していたら、自分の見立てに誠実に従い「いえ。全然大丈夫じゃないです。ダメです。(児相に連絡してください、一時保護も検討した方がいいと思います、など)」と言える体幹だ。これは(スクールカウンセラーは基本一人職場なので)孤独だが、打たなくてはいけない一手だ。

子どもの方が、劣悪な環境に慣れてSOSを発せない場合もある。いつもどん底だから、どん底に慣れきって「(困っていることは)特に、ないです。」という場合もある。支援者として、これには注意が必要だ。

もちろん、実際のケースは多様で、虐待じゃなく”親子間の性格の不一致から争いが起きている”場合もある。そして当然、やってしまう方のケアも考えなくてはならない。

連携を取る上でも、足並みがそろわない時や、個人間で生じる危機感の差に葛藤を感じるときもある。

ただ、いかなる場合でも諦めてはいけない。その子を、見放してはいけない。個人個人が精一杯動きつつ、チームで力を合わせ、最善を尽くさなくてはいけないのだ。

『MOTHER』の中にも、「"今”を逃したらダメでしょ?!なんで警察と児相を呼ばないわけ?」というシーンがある。

このシーンで描かれたことが、実際起こったことなのかどうかは私には分からない。
ただ、現実には起きてはならないことだし、起きてしまったことなら、繰り返してはいけないことだと思う。

素晴らしい映画を観た後の心の震えに酔いしれながら、これからも「腹をくくらなければいけない、その時」に備えて体幹と覚悟を鍛え続けたい…そう思ったし、そういう強さを持ち合わせた治療者でいたい…と、これまで出会った子どもたちの顔を思い浮かべながら、思った。


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