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オンラインで大学院を修了した私が思う、オンライン授業のメリットと今後の課題

前回の記事で、私が人生で初めて受けたオンライン授業の様子を振り返ってみました。

私が人生で初めて体験したオンライン授業は、2014年当時にしては様々な面で革新的なものだったと思います。この授業を受けたおかげで、オンライン授業というテーマに対し深い洞察と様々な気付きを得ることができました。この経験が、後々フランスに渡ってEdTechを専門に学ぶきっかけになったことは間違いありません。また、出版業界でのその後のキャリアにもつながっています。

今日は、私が教える側と学ぶ側の双方から経験してきたオンライン授業を例にとり、オンライン授業のメリットや今後の課題について個人的な視点から考えていきたいと思います。

メリット①:距離をなくすオンライン授業の力

オンライン授業が飛び越えられるものの中で一番インパクトが大きいものは、間違いなく距離でしょう。私は過去に、日本にいながらオンラインでイギリスの大学院に通い修士号を取りました。まさにインターネットのなせる業です。オンライン授業のおかげで、私は日本に暮らしながら海外の大学院教育を受けることができました。

私が大学院で学んでいた当時、同じく仕事や家庭等の制約を抱えた人々が世界各地からオンラインで授業を受けていました。イギリス国外からの受講者だけでなく、イギリス国内に暮らす人々も、フルタイムで働いているため現地の授業に参加できない等の理由からあえてオンラインコースを選ぶ人たちがいました。教育大学院だったため、現役の教員や教育に関わる方々が多くいました。聞けばイギリスも日本と変わらず、教職はかなりの激務のようでした。それでも学び続けたいという情熱を持った先生たちにとって、オンラインコースは魅力的な選択肢のようでした。

このように、インターネットさえあれば国境や距離を超えて自由に学びにアクセスできるのがオンライン授業の魅力です。これは、なにも国境を超えるほどの大移動に限ったことではありません。

日本国内でも、大都市と地方の間での教育格差が深刻な問題になっています。住む場所によって教育の質が左右されるというのは、令和の現代でもある種の現実です。私自身、西日本の片田舎の街で子ども時代を過ごしたため、特に受験には非常に苦労した思い出があります。

しかし、近年テクノロジーが教育の地域格差を縮小しつつあります。例えば現在、スマートフォン一台あれば日本全国どこからでも質の高い学習にアクセスすることができます。私のように西日本の片田舎で受験時代を過ごした人間にとっては、とても羨ましい時代になりました。

メリット②:オンライン授業は「時間の魔術師」

オンライン授業が自在に操るのは、距離だけではありません。時間に関するあらゆる制約を超えられるという点で、オンライン授業はまさに「時間の魔術師」と言えるでしょう。

時間という観点から見たとき、オンライン授業には二つのメリットがあります。一つ目は自分のペースで学習時間をやりくりできること、もう一つは復習や課題により十分な時間をかけられることです。

自分のペースでの学習を可能にする
多くの場合、オンライン授業では決まった時間に決まった場所で授業を受ける必要がありません。授業そのものは決まった時間に始まりますが、何らかの事情でその時間に授業を受けることができなかった場合でも、後々録画を見返してキャッチアップできることがほとんどです。このフレキシブルさのおかげで、仕事や家事などの制約を抱えた人でもより容易に学び続けることができます。

課題や復習により多くの時間をかけられる

また授業を後々見返す中で、ある箇所を何度も見返したりなど、より自由なスタイルで授業を受けられるのも大きなメリットです。自分が完全に納得できるまで、授業を何度でも見返し内容を反芻できるのは、オンライン授業ならではの利点です。

同様に課題や予習にも十分な時間をかけて取り組むことができます。ディスカッションに参加する際もテーマについて熟考したり、時間をかけて自分の意見をまとめたり、他者の意見を吟味したりなど、一つ一つのアクションにじっくりと時間をかけることができます。これにより、学びがより深まっていく実感を得られます。これは
「その場勝負」を求められることが多い教室内の授業ではなかなか味わえない感覚です。

メリット③:所得格差の縮小に貢献する

もう一つ、オンライン授業のメリットとしてよく取り上げられるのが経済格差の縮小です。オンライン授業は、受講者一人当たりのコスト負担を下げ、より様々な層の人々が学びにアクセスすることを可能にします。

最近テレビを見ていて、海外の街角でピアノで上手に演奏していた少年が「独学でピアノを習得した」と言っているのを聞いて衝撃を受けました。幼少期からピアノ教室に通って習得してきた人間からすると、とても考えられないことです。一体どういうことかと思い、インターネットで色々と調べてみると、最近は初心者でもスマホアプリ等を使ってかなり本格的にピアノを学習できるということがわかりました。61鍵以上のキーボードとスマートフォン、そしてインターネット接続さえあれば、基礎から上級レベルまでかなりしっかりとした学習ができるということなのです。アプリの利用料金はだいたい日本円にして月々1,000円前後です。初期投資にしても、今時キーボードだけなら数万円から購入できますし、かなり費用を抑えて学習を開始できそうです。

かたやピアノ教室に通う場合、地域格差を考慮しても、子供料金でおおむね月々7,000円~10,000円くらいの費用がかかるはずです。またピアノ教室に通う場合、自宅でも練習ができる環境があることが前提となりますので、多くの家庭でアップライトピアノ等の購入を検討することとなるでしょう。この場合、さらに数十万円の初期投資がかかります。

このようなアプリが登場したことで、経済的理由によりピアノをあきらめる子どもたちの数はぐんと減るでしょう。もちろん、ピアノ教室で直接プロの講師に学ぶことのメリットは数えきれないほどあります。しかし、それが無理だからといってピアノ自体をあきらめなければならないというのは、あまりに酷なことです。仮にプロの講師に直接教えを乞うことができないとしても、何か代替案のようなものがあってもいいのではと思います。このようなアプリは、未来ある子どもたちにとって救世主のような存在となるでしょう。

メリット④:ノンネイティブにこそ有利なオンライン授業

メリット②の中で、オンライン授業は「時間の魔術師」だとお話しました。時間を味方につけて学びをより深めることができるのは、オンライン授業の大きな魅力と言えるでしょう。

このメリットは、実は外国語で授業を受ける場合にさらに有利に働くと個人的に考えています。例えば、あなたが英語で授業を受けているとします。英語に不自由のない方なら問題ないかもしれませんが、少しでも英語に不自由がある場合、一度で授業の内容を完全に理解できなかったり、言いたいことがパッと口をついて出てこなかったりといったことがあるかもしれません。その点オンライン授業なら、聞き取れなかった部分を巻き戻したり、発言する前に自分の言いたい内容を準備したりすることができ、授業参加へのハードルが下がることが考えられます。

メリット⑤:学びをどこまでもオープンにする

オンライン授業では、文字情報がとても大きな役割を果たします。

例えば授業中、講師に質問する場合にテキストチャットを利用することがあります。授業内のディスカッションにもオンラインのスレッドがしばしば活用されています。また講師・生徒間の普段のコミュニケーションにも、SlackやGoogle Classroomといったコミュニケーションツールが活用されます。こうしたオンライン授業特有のテキスト文化は、人々のコミュニケーションを円滑にするだけでなく、「学びをさらにオープンにする」という副産物をもたらしました。

2014年の夏、私はロンドンに飛んで現地で授業を受けることを選びました。しかし現地でオンライン受講の生徒達の様子を見ていると、「オンラインで参加した方が得だったのでは?」と感じる瞬間が多々ありました。というのも、オンライン組の受講生達がチャットを通して発言した内容は、どれだけささいなものでも講師にすべて目を通してもらえるからです。同時に、彼らのチャットの内容は常に教室前方のスクリーン上でも公開されているため、彼らのディスカッションの内容は常に全てが「筒抜け」の状態でした。逆に言うと、自分の発言を現地の教室に届けたいと思えば、容易にそうすることができる環境でした。

そもそも、テキストによる発言は、教室内で発言する場合と比べて色々な面でハードルが下がります。他の生徒と発言のタイミングが被ることを気にする必要もありませんし、講師が話をしている最中でも自由にコメントすることができます(もちろんタイミングや発言内容はある程度考慮すべきですが)。しかも、それらの内容が直接講師に届くわけですから、考えてみれば非常に贅沢な環境です。

私が受講したオリエンテーションでオンライン受講生の対応をしていた女性講師も、「彼らは本当に積極的(”They are really vocal.”)」だと言っていました。彼らのディスカッションを教室のスクリーン上で追っていた私も、全く同じ印象を受けていました。オンラインだから消極的になるのではなく、むしろ積極的になれるというのは、あまり認識されていないオンライン授業のメリットかもしれません。

また、オンライン授業ではコースウェア等のオープンスペースに課題を提出したりシェアしたりすることが多々あります。教室で授業を受ける場合、互いの課題の内容をじっくり読み合ったりすることはあまりありませんが、オンライン授業では課題の進捗を含め全てをオープンにする風潮があります。結果、生徒間で互いに学び合ったり、新しい議論が生まれたりといったことが起こりやすくなります。

一方、これだけ多くのメリットを誇るオンライン授業ですが、課題も山積しています。ここからは、今後検討していくべき課題について考えていきます。

今後の課題① IT環境によって学びの質が左右される

言うまでもなく、オンライン授業の効果は受講者と運営側双方のIT環境によって大きく左右されます。特に、受講者側のIT環境は格差が生まれやすいところです。

私がロンドンでオリエンテーションに参加していた際にも、IT環境が原因でうまく授業にアクセスできないクラスメイトが複数いました。特に、ミャンマーから参加していたとある女性は、自宅のインターネット回線が不安定で、毎回自宅近くのホテルのロビーから参加を試みていました。しかし、ホテルのwifiもしばしば不安定になり、脱落しては戻ってくるということを繰り返していました。

上記は少し極端な例に思われるかもしれませんが、2020年の日本でもコロナ禍以降、同様の問題が指摘されています。小中学校では、子どもたちの自宅インターネット環境の格差が原因で、授業への均等なアクセスが確保できないという問題が発生しています。自宅に有線インターネットとwifi
両方が完備されている子もいれば、通信制限付きのポケットwifiしか持っていない子や、そもそも自宅にインターネット回線を引いておらず、携帯電話の4G回線が唯一の通信手段という子もいます。これら環境の異なる子どもたちに対し、いかに教育へのアクセスを確保していくかは、オンライン授業の今後の普及を考えるうえでまず検討すべき課題です。

アメリカのカリフォルニア州の貧困地帯の街で、スクールバスにwifiルーターを搭載して街全体に常時wifiを届ける試みが行われ注目を集めました。社会状況も異なるため、日本がそのまま参考にできる例ではありませんが、コロナウイルス禍の応急処置という観点で見ればこのくらい大胆なスケールの発想があってもいいかもしれません。

今後の課題② 学ぶ側のモチベーションをどう管理するか

モチベーションは、学習の質や継続性を左右します。特に学期や年間を通して長期間オンラインで学習する場合、いかに学習者のモチベーションを保っていくかが学習の成果を分ける鍵となります。

教室で授業を受ける場合、教師や周りの友達からサポートを得ることは容易です。一方オンラインの場合、直接そばで学習をサポートしてくれたり、「おしりを叩いて」くれる存在がいるわけではありません。自分で自分を鼓舞し、学習を継続していくほかありません。それには学習者本人の意思の力や、モチベーション管理能力が大きくものを言います。

私がオンラインで大学院に通っていた間にも、いつしか授業を離脱してしまった人達をたくさん見かけました。元々オンラインで進学するよう人たちは、仕事や家庭などで多忙な日々を送っています。私自身もその一人だったので、何故そうなってしまうかは痛いほど理解できます。二年間という長期間にわたって学業と仕事との両立生活を送っていくことは、よほどの意思の力がないとできないことです。途中で学習へのモチベーションを見失ってしまったり、孤独を感じたりして学習から離脱してしまうのは珍しいことではありません。

今後の課題③ 人と人とのつながりをどう補足するか

学習へのモチベーションを保ち続けるうえで重要になるのは、やはり人間関係です。遠隔教育について長年研究をしているペンシルベニア州立大学のMichael G. Moore氏によると、学習者間の活発なつながりは遠隔教育においては特に重要なファクターであるため、オンライン上などで学習者間のアクティブなコミュニティ(Active Learning Community)を形成することが有効だと述べています。

人と人とのつながりが希薄になりがちなオンライン授業において、講師や仲間と人間関係をうまく構築できず、授業から離脱していってしまう人々がいます。私がこれまでに経験したオンライン授業でも、実際そのような人々を多く見てきました。

しかし私個人の経験から言うと、この部分においてテクノロジーが補足できる役割はたくさんあります。代表的な例がメールやSNSです。これらのツールをうまく活用することで、講師や仲間たちとの人間関係をより深めることは可能です。

私がオンラインで大学院に通っていた当時、講師やクラスメイト達とはメールやSNS等でこまめにやり取りをするようにしていました。修士論文の担当教授には、研究の進捗状況を自分からこまめに報告するようにしていましたし、研究室のアドミニストレーターとも事あるごとにメールでやりとりをして感謝の気持ちを伝えるようにしていました。

メールやSNSで定期的にコンタクトを取り、互いの名前や顔写真を頻繁に目にしていると、普段から互いに顔を合わせているような感覚になります。その上で実際に顔を合わせると、久しぶりに会ったような感じがしないということがあります。対面で直接会うことが叶わなくとも、人間関係を補足してくれるツールが山ほど存在する現代です。それを活用しない手はありません。

一方、年齢等が原因でSNSを利用できない人々もいます。例えば多くのSNSでは、13歳以下のユーザーの利用を制限しています。これら年齢の子どもたちを対象とした授業の場合は、運営側が積極的にコミュニケーションのサポートやお膳立てをしてあげることが必要となります。例えば私が過去に在籍していたフランスの小学校では、普段の授業からGoogle Classroomを採用し、子どもたちが授業時間以外でも自由にオンラインスペースで交流できるよう配慮していました。学校側が用意したプラットフォームをどれだけ活用してくれるかは未知数な部分もありましたが、ふたを開けてみると、夏休み期間中も互いの写真を送り合ったりメールを送り合ったりしながら有効活用してくれている姿が見られました。

ここ数年は、大人向けのコースでも、FacebookなどのSNSに非公式の交流グループを用意するなどして参加者間の交流を促すケースが多くみられます。今後オンライン授業が普及していくにつれ、人と人とのつながりを促すための工夫がよりいっそう求められていくことでしょう。

最後に

コロナウイルス禍でより注目を集めるオンライン授業のメリットと課題について、個人的な経験をもとに考えを整理してみました。オンライン授業は間違いなく、今後の教育のスタンダードとなっていくことでしょう。一方で、後半で述べたような課題もまだまだ山積しています。教える側と学ぶ側双方の工夫によってある程度補足できるものもあれば、IT環境など一朝一夕で変えられないものもあります。

これらの課題と今後どう向き合い、オンライン授業へのアクセスをいかに保証していくことができるのか、自分自身の立場から今後も考えていきたいと思います。

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