【SS】雪降る夜に(861文字)
身に積もる
雪を感じて
独り言つ
美しきまま
いかせておくれ
***
まったく、なんて滑稽なんでしょう。
昨晩から続く大雪。
今夜も続けばさすがに大変なことになると思い、夫の帰りも待たずに雪下ろしを試みたのが間違いでした。
足を滑らせ、まるでコントの一場面のように屋根から落ちた私はいま、雪に埋もれています。
これはジ・エンドかもしれません。
雪なんてかき分けいいて脱出すればじゃないか。
それがだめなら大声で叫べばいいじゃないか。
そう思っているあなた。
あなたは巨大な雪の塊の中に勢いよく落っこちたことがありませんね。
もちろん試みました。
高く積もった雪の塊は思いのほか水分を含んでおり、重く私にのしかかっています。
1時間ほど雪かきをしたあとの身体は冷え切っていて、手足を動かそうにもその感覚すらすでに無いのです。
助けを呼ぼうと口を開ければ、ここぞとばかりに雪が侵入してきてそれを阻みます。
頭がキンと痛む中、冷え切った口内で雪を溶かすのもまた難儀です。
ああ、せめて甘いシロップでもあれば。
昔、幼馴染と行った沖縄が思い出されます。
一緒に食べたブルーハワイのかき氷は、最高に美味しかった。
あのとき貴方の手を取っていれば、こんな寒い地方に来ることもなく、常夏の沖縄のように温かい家庭を築いていたのでしょうか。
考えても意味のないことですね。
その手を振り切ってでも夫と一緒になることを望んだのは、他でもない私ですから。
頭がぼんやりしてきました。
私は助かるのでしょうか。
夫があの女性のところに寄らずに帰って来てくれたら、あるいは間に合うかもしれません。
でも、助かることを望んでいるのか、今となっては分かりません。
こんな最期でよかったのかもしれない。
雪のように冷たい目をした無表情な夫が、少しでも罪悪感でゆがんだ顔を見せてくれたとしたら、それだけで幸せだと思ってしまうのです。
その顔を見ることはできないけれど。
それに、凍死体はもっとも美しいというでしょう?
最後に夫の目に映る姿は、やはり綺麗な私でありたいのです。
まったく、なんて滑稽なんでしょう。
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