吉本ばなな「ミトンとふびん」
つい最近まで転職活動をしていたのですが、読書にあまり身が入らない状況でした。
自分の生き方や、働く先があるかなと、漠然とした不安があったりして、一度読んだ文を読み直すことも多々ありました。
そんな時にふと、彼と出かけた先の近所の本屋さんで、吉本ばななさんの「ミトンとふびん」の背表紙を見つけました。
「あ、これ」
様々な色が混じった美しい装丁に魅了され、その本を手に取って、表紙と裏表紙の帯の文言を読んだり、ぱらぱらと中のページを捲ってみたりしました。
吉本ばななさんの本は「TUGUMI」や「悲しい予感」、何作品か読んだことがありました。死や愛がテーマの、じんわりと心にしみる澄んだ世界観が魅力。
「ミトンとふびん」は谷崎潤一郎賞を受賞したことでも話題になり、ずっと気になっていた本の一つ。
読んでない本がいくつか家に溜まっていたのですが、
この本になんとなく魅かれて、購入しました。
その時に読んでいた別の小説は一旦休憩することに。
今の自分には、心の栄養となる本が必要なのかもしれない。
それがこの本な気がすると思って、翌日から読み始めました。
読んでみると、この本はいくつかの短編集になっていました。
皆、それぞれ過去に傷ついたり、大切な人をなくして泣いたりしているけれど、きちんと生きている。
たしかにいなくなってしまった人には会えないし、生きている限りは時折、
過去の傷が疼くときだってあります。
でも、他の人からの愛や、温もりを感じて、静かに手を取り合って生きて行こうと、
そう思える作品たちでした。
出勤の朝、澄んだ冷たい空気の中を、柔らかい日が電車の中に、まっすぐに入ってきます。その日に当たりながら作品たちを読んでいると、ふっと心が軽くなるのです。
この作品に出てくる、好きな文章があります。帯にも書かれてありますが、いざ小説を読んでいる中で目にすると、何度も、読み返したくなるのです。それが、
ふっと、すとんと、分かっていたつもりだったけれど、
改めてしみじみと、そこにある愛へのありがたみを感じました。
寒い冬に飲む、あたたかいポタージュを飲んだ時の安心感に似た感覚です。
ほっと、肩の力を抜いて、前を向いて歩きたいなあと思えます。
でも悲しいことって、これから先も嫌だけれど、起こるかもしれない。
すぐに立ち直れないときだって、あるはず。
そんなとき、私はこの本をまた開きたいです。
長く、自分の心の中に残る灯を、この本は持っているのだと思います。
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