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海外マグネットは形にこだわりがち

海外でもご当地マグネット市場は活況です。むしろ海外の方がマグネット集めが盛んで、日本のご当地マグネットも、外国人観光客が買うことを目当てに、観光地側で充実させている説すらあります。
世界的に広がっているご当地マグネット文化ですが、日本のマグネットは、四角い標準形からあまり逸脱せず、その中での緻密さや立体感にこだわったものが比較的多い一方、海外は、マグネットの形で個性をアピールしたものが多い

…という気がしないでもありません。
なんとなく。

船の舵輪(だりん)形マグネット
(サンフランシスコ)

船のハンドル、舵輪の形をしたサンフランシスコのご当地マグネットです。中に描かれたサンフランシスコの街は、やや雑。家並みと、奥にビル群。
デザインの力の入れ方は、形>絵柄ですね。

ゴールデンゲートブリッジ形マグネット
(サンフランシスコ)

こちらもサンフランシスコのマグネットですが、名所のゴールデンゲートブリッジがモチーフになっています。日本語で金門橋。高さ227m、全長2,737m。金色でなく赤いのは、ゴールデンなゲートブリッジではなく、ゴールデンゲート海峡に架かるブリッジだから。
この橋は徒歩でも渡れる観光名所ではありますが、物騒なことに投身が多いことでも有名。1937年竣工以来、確認できているだけで約2,000人が亡くなっています。年間約30人、10日で1人。実際には、数えに入れていない行方不明者を含めるともっとずっと多そう。費用や景観の点で防護ネットを付ける計画が長らく難航し、2024年1月にようやく設置されたそうです。

話が重くなったので、次へ。

ビッグベン形マグネット
(ロンドン)

ビッグベンは、正確にはウェストミンスター宮殿に設置されたエリザベス・タワーの、時計の鐘の愛称です。だからこれは本当はエリザベス・タワーマグネット。自分も知りませんでした。8,000万ポンドを掛けた2017年からの大規模改修が2022年に終わり、時計が再始動。装いも刷新されています。時計の中は最先端のデジタル技術が盛り込まれているそうです。マグネット的にはアナログ技術のミニ温度計付き。

リンゴ形マグネット(シアトル)

ニューヨークの愛称が、比喩としてビッグ・アップルなことはよく知られていますが、シアトルを含むワシントン州はリンゴの産地として有名です。日本のリンゴ生産量の約5倍がワシントン州で生産されています。シアトル自体はリンゴの大農産地からは200kmくらい離れているようですが。
マグネットはそのリンゴの中に、シアトルの町並みです。シアトルタワーやマウント・レーニア(山)が確認できます。アマゾンやコストコやボーイングの拠点として知られる経済都市シアトルですが、スターバックスやタリーズなどシアトル系カフェ発祥地としても有名です。森永乳業はマウント・レーニアというチルドコーヒーを発売していますが、シアトルから見える山をイメージして作ったブランドです。コーヒーはコーヒーベルトと呼ばれる赤道付近で栽培が可能な農産物ですので、当然コーヒー産地ではありません。
脱線しました。

チマチョゴリ形マグネット(韓国)

韓国の民族衣装チマチョゴリ。上着がチョゴリで、巻きスカートがチマ。チマとチョゴリの2ピース1式でチマチョゴリです。男性が着用する上着も、チョゴリです。
チマチョゴリマグネットの中に描かれているのはソウルの圜丘壇(えんきゅうだん)という建物で、旧来儀式を行っていたという史跡だそうです。

パン形マグネット
(サンフランシスコ、ボウディンベーカリー)

サンフランシスコで有名なボウディン・ベーカリーのマグネット。紙袋の中から、サワードゥという名物のパンが顔をのぞかせています。紙袋は、本当に紙でできています。折ったり破いたり濡らしたりしないよう、気を遣うマグネット。
サンフランシスコは、丸いサワードゥをくり抜いてクラムチャウダーを入れた食べ物が有名で、その代表的レストランが、フィッシャーマンズ・ワーフのボーディン・ベーカリーです。

トカゲ形マグネット
(バルセロナ、グエル公園)

サグラダファミリアを設計したことで有名な建築家、アントニオ・ガウディの作品群が見られるバルセロナのグエル公園。その大階段の途中にあるのがこのトカゲ(ドラゴン)で、全長2.4mあります。このトカゲはグエル公園の泉の守り神です。実物は、不規則な形のモザイクタイルでカラフルな色彩の外表面が造られていて、マグネットでもそれがよく再現されています。

サグラダファミリア形マグネット
(バルセロナ)

そのガウディの設計であるサグラダファミリアのマグネットです。正確には、サグラダファミリアの前部4塔だけを再現したマグネット。サグラダファミリアは1882年に着工。ガウディが没したのが1926年ですが、いまだ建設中の姿です。なお着工から137年間、サグラダファミリアは違法建築とみなされていましたが、2019年バルセロナ市によって無事に正式な建築許可が下りました。
そのサグラダファミリアが、ガウディ没後100年にあたる2026年、ついに完成します。完成すると観光人気がさらに増大しそうです。
長期に未完成な建造物のことを「○○のサグラダファミリア」などと呼んだりします。日本のサグラダファミリアは例えば横浜駅がありますね。

ノイシュバンシュタイン城形マグネット
(ドイツ、バイエルン州)

ドイツの名城、19世紀のロマネスク・リバイバル建築の代表ノイシュバンシュタイン城です。日本語では白鳥城。山の上にそびえ立つその美しい姿は、ディズニーのシンデレラ城のモデルになったとも言われています。マグネットでは足元の山は表現されておらず、屋根のとんがり方もややマイルドなので、あまり美麗な感じではありませんが。

エディンバラ城形マグネット
(スコットランド)

同じくお城。お城は洋の東西に限らず、マグネットにされがち。観光客が訪れる名所になりがちだからってことですね。このエディンバラ城は、一時スコットランドの王宮でもありましたが、軍事要塞としての性質が強く、キャッスル・ロックという岩頸の上にどっしりと建っています。マグネットにその岩の感じはありません。
今でもエディンバラ城には、スコットランド陸軍がセレモニー目的で城衛兵を駐留させていますが、マグネットにたたずんでいるのは現代の城兵ではなく、実際戦闘をしていた当時の、ガチのスコットランド兵のようです。

鳩時計形マグネット
(フランクフルト)

ドイツといえば技術、技術の粋を集めた機械、機械である時計が有名で、こちらはドイツの鳩時計のマグネット。時計を駆動する錘が鎖でぶら下がってブラブラ揺れて可愛いです。
鳩時計の歴史は、フランクフルト南方の「黒い森」(シュヴァルツヴァルト)と呼ばれる場所で17世紀ごろ始まります。
なお日本ではなぜか「鳩時計」といいますが、世界的には「カッコー時計」です。時報の音も、カッコーの鳴き声がモデルだそうで。なぜカッコーの鳴き声かというと、「機械としてカッコーの鳴き声が一番真似やすかったから」。

ビールジョッキ形マグネット
(フランクフルト)

ドイツといえばビール。8世紀誕生当時のビールには、ホップは使われておらず、苦味はありませんでした。中世になり、税金が課せられていなかった修道院で盛んに製造されて各地に広まりました。ドイツでは400年以上「大麦、ホップ、水しか使ってはならない」というビール純粋令が定められており、今も伝統が守られています。その理由は「パン用小麦の供給量に影響を与えないため」。結果的には現代ビールの美味しさにつながっており、ナイス判断です。ただし現在は、小麦を使ったヴァイツェンビアもあります。
ドイツの伝統的ビールジョッキは、このマグネットのような陶器製で蓋が付いたビヤマグが有名。実物のビアマグも代表的なお土産アイテムです。重いですけど。この蓋は、炭酸抜け防止効果と誤解されがちですが、実際には14世紀ごろペストが大流行し、蓋をつければ感染を防げると考えたからだそうです。役に立ったのでしょうか。あと個人的には、材質は泡の比率が見えるガラスの方がありがたい。
マグネットの絵柄はフランクフルト市庁舎ですが、ビアマグはそもそも紋章など美しい図案で装飾されているので、それでもよかったかも(それもありそう)と思います。

家屋形マグネット(サンノゼ)

サンノゼはサンフランシスコ南部に位置する都市で、シリコンバレーの南。マグネットはこの地域の典型的なビクトリアン様式の家屋。サンノゼは2024年現在、不動産価格が高騰し、全米で最も家の値段が高い地域になっています。平均的な一軒屋で、2億円~3億円とか。

水差し形マグネット(ドバイ)

アラブの国の水差しの形をしたマグネットで、中には近代的なドバイのビル群が描かれています。伝統的な水差しの実物は銅製が多いです。しかし、蓋のあるものが一般的で、注ぎ口は下部ボディからにゅっと上に長く伸びているものの方がよく見かけるので、もしかすると同じくアラブながら、コーヒーポットかもしれません。いやコーヒーポットも蓋がついているものが一般的だから、違うかも。するとこれはなんでしょう。

電話ボックス形マグネット(ロンドン)

観光資源が豊富なロンドンで、その一つが街角にある赤い電話ボックス(wikipediaでもRed telephone boxが見出し)なわけですが、このマグネットはなんと、「白い、赤い電話ボックス」です。いかに、絵柄的表現より形状的表現が重視されているかという極端な事例です。この際、色はどうでもいいと。ちなみに、内部に描かれた二階建てバスも、色は赤であることがアイデンティティなわけですが、白。
もしかすると、ポリレジン製作工程は白いポリレジンで成形してから着色されるため、着色工程が面倒になったか忘れちゃったまま納品された
という可能性が、なきにしもあらず。

二階建てバス形マグネット(ロンドン)

こちらは無事に赤く塗られたロンドンの二階建てバス形のマグネットです。中に描かれた建物の奥が穴あきになっているのが特徴。赤い電話ボックスも入れてくれれば一つ上のマグネットとペアで、「バスin電話ボックス」と「電話ボックスinバス」になったのになと。
ニューヨークのタクシーは黄色と決められているのと同様、ロンドンのバスは赤と決められています。このマグネットの形になっているルートマスターというボンネット型バス車両は1956年に走り始め、爆発的な人気を得てロンドン名物として有名になりました。しかし、2019年にヘリテージルートを走行していた車両を最後に、残念ながら全車引退となりました。
現在は、2012年当時ロンドン市長(その後英国首相)だったポリス・ジョンソンが熱い想いで導入を企画した、前面は平坦なニュールートマスターという車種が走り回っているそうですが、ご当地マグネット界で、ニュールートマスターがロンドンの主役として認められるのは、まだまだ先のようです。

ビーチサンダル形マグネット(フロリダ)

最後はフロリダのビーチサンダル型マグネット。ビーチサンダルの中にビーチサンダルが描かれていて、クスっとなります。できればそのビーチサンダルの中にもビーチサンダルを描く洒落心が欲しかったところです。
「ビーチはどこにでもあるからフロリダ名物じゃないだろう。そもそもFLORIDAの文字がシールだし」という点は大目に見ましょう。(逆に、ハワイ、グアム、バリ、モルディブ、湘南などのビーチサンダルマグネットも集めてみたい。)

以上、形状にこだわった海外マグネットご紹介でした。