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書評:山本正『我々人間とは何か』

在野の賢人が遺した人間の本質を巡る思索の体系とは?

今回ご紹介するのは、山本正『我々人間とは何か』という著作。

本著は、私がInstagramでつながったある方のお父様の遺稿を書籍化したものだとのことで、読ませていただいた。

著者は生前、建築業を営みながら在野の思想家として、人間の本質とは何かを巡る独学と思索を重ね続けられた方だったとのこと。

そしてご自身が至られた結論を遺稿の形で残しておられた。

私のインスタの友人は亡きお父様の意思を継ぎ、様々な方のご協力を得ながら昨年遂に1冊の書籍の形で出版するに至られたのだそうだ。

父子を紡ぐ美しい愛のハーモニーに想いを馳せながら、今回本著を拝し、著者の哲学を学ばせていただいた。

著者が至られた結論は、「人間とは他者に生きる存在である」という明解な定義であった。

著者は本著の中で、「他者に生きる」とは何か、即ち人間の関係性とは如何なるものか、どうしてそのように定義できるのかを論証しつつ、このような人間観に立つことで、人間の社会性や自由・正義といった諸問題、更には物質論から宇宙論まで、遍く現象を説明することが可能であることを論証していく。

論理的な拠り所には、宗教、思想・哲学から生物学や物理学に至るまで、幅広い学術的分野の歴史と最新の成果を丁寧に踏襲されておられた。

私は読者として、僭越ながら2点感想をご紹介させていただきたいと思う。

1つは、圧倒的な教養とそれを上回る思慮深さへの驚嘆である。

極めて専門的な学術的成果を丹念に辿り適切に理解しつつ、現代の高度に専門化(即ち細分化)された知恵を、言わば「統合知」として1つの体系に紡ぎ上げていく粘り強い思考の営みが、本著の隅々にまで行き渡っている。

一見人間の本質論とは直接関係のない無機質な学術的成果でさえも、著者によって息を吹き込まれたかのように相互に紡がれることで、「他者に生きる存在」という人間理解が正に血の通った生きた哲学として昇華される様は感動的ですらある。

また本著は著者のお子様によって著作の形に大成されたものでもあることから、著者の理解する「人間の生」そのものであるかのように、著者とお子様の絆が1つの躍動する生命として本著に結実されているとも感じられた。

2点目は個人的な感想となるが、手前味噌ながら私自身の人間観と極めて近い、親和性の高い人間理解をなされていたことに、強い共感を覚えた。

先般、昨年末のことだが、私はAmazonのKindleのサービスを利用し、『現代に生きる世界文学10選 グローバル時代の他者との交わりを求めて』という著作を出版した。

不肖私も実は、人間の本質には他者との関係性がなくてはならない要素として存在すると捉えており、そうした価値観に基づき著作をまとめた。

そして私は、「人とのつながり、人との絆が人生を豊かにする」という言葉を自身の座右の銘としている。

私の価値観は結論が先行しており、事物の説明や判断の拠り所となるほどには、1つの確固たる体系として練り上げられるに至っていない。

だからこそ、本著は私自身の思索の方向性を受け入れてくれ、そしてそのまま進むことを支え励ましてくださっているかのようで、勇気と愛を受け取ったと言っても過言ではない温かさをいただいた次第である。

私も一介の在野の読書人でしかない存在ではあるが、著者、そして著者のお子様のように「人と人を紡ぐ」ような思索と執筆に挑戦して生きていきたいと、強く決意させていただいた。

本著に出会うことができたことに対し、著者とそのお子様へ至上の感謝を表させていただきたい。

トータルオススメ度:★★★★★

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