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書評:ロバート・A・ダール『デモクラシーとは何か』

デモクラシーの理念と現実の基礎を包括的に捉える案内書

今回ご紹介するのは、ロバート・A・ダール『デモクラシーとは何か』という著作。

ダールは、現代におけるデモクラシー(民主政治)の理念型を「ポリアーキー」という名の下に精緻にデザインしたことで、現代政治学に多大なる功績を残した政治学者である。

※「ポリアーキー」についてはいずれ別途、岩波文庫のダール『ポリアーキー』をご紹介できればと思う。

本著は、ダールがアカデミックなものにならない形でデモクラシーについての道案内を行うことを企図して著したものだ。民主政治の初学者にとって、この上ない入門書であると評価できるだろう。

今回は本著の魅力的な特徴を3点ご紹介してみたい。

①理念と現実を包含する網羅性

本著の特徴の1つ目は、デモクラシーという理念と現実について、偏りなく触れられている点である。

具体的には、以下のような質問に答える内容を含む著作であるとお伝えすれば、イメージが湧きやすいのではないだろうか。

<理念に関する質問>
1-1.デモクラシーとは何か
1-2.なぜデモクラシーなのか

<現実に関する質問>
2-1.デモクラシーにはどんな政治制度が必要か
2-2.デモクラシーに相応しい条件とは何か

こうした質問にバランス良く答えることで、デモクラシーに係る価値判断と経験的判断を具体的な内容とともに理解することができる。

②比較政治型の説明の手厚さ

これは①の2-1、2-2に付随する特徴と言える。

例えば国政選挙を例に取ると、大きく民主政治を採用している国は多々あれど、選挙制度の設け方は国によって千差万別だ。

小選挙区制の国もあれば、中・大選挙区制の国、比例代表制の国、それらを併用する国、と様々である。投票方式についても、1回の投票で完結する制度の国もあれば、徐々に候補者を絞り込んで行く複数回投票制を採用する国もある。

また統治機構の設け方を例にとっても、大統領制、議院内閣制を筆頭に、それらを併用する国もあレバ、議会も一院制や二院制など、国によって異なる。

更にはこうした制度には憲法の規定にも反映されるものがあるため、民主主義国家間でも憲法レベルで規定の差異が相当程度あるのが現実だ。

こうした国による制度的な差異は、制度のメタ次元を形成する当該国家の政治文化や歴史、民族や言語、宗教の多様性などの条件に依存して生まれるものであると言うことができよう。

デモクラシーの理念だけを語る中からは、こうした現実における差異、即ちデモクラシーの現実におけるバラエティを巡る道案内はなかなか生まれてこない。また余りにも入門過ぎる著作だと触れることも難しいトピックとなりがちだ。

本著は現実にどのような制度的差異が国家間に存在するかという紹介と、差異が生まれる原因系についての議論が充実している。

そしてその結果、政治学が持つ「何が正解とは一概に言えない」という特徴を感じ取ることができる著作となっている。

③民主政治と資本主義の微妙な関係論

昔テレビCMで、何のお菓子だったかは忘れたが、「ナッツとウエハースの〜、『微妙な関係〜』」というフレーズが、『微妙な関係〜』の言い方がキショくて耳に残るものがあり、一時期友達らと誰が一番『微妙な関係〜』をキショく言えるかを競い合ったことがあった。

雑談ついでに、昔のCMで耳から離れない代表格と言えば不二家の「ペコちゃん千歳飴」で、「食〜べても食〜べても」というフレーズが映画『ジョーズ』のサウンドバリににグイグイ迫ってくる感じが忘れられない。

まあそれはどうでも良いのだが、民主政治と資本主義には間違いなく相関関係がある。

しかもそれは、「正の相関」と「負の相関」が混在したものであるという、複雑で正に微妙な関係だと言うことができる。

本著の中でも、植物の世界に見られる現象に例え、「敵対的共生」と表現されている。

ほんの一例だが、資本主義が要請する「自由」を民主政治は担保しやすい反面、資本主義が生み出す格差は民主政治の安定性の基盤となる市民の同質性を解体し得る、などが典型的な話題である。

この辺りの議論は専門的・学術的に取り組むと、現在進行形で問題が益々複雑化している話題でもあるため、難しいテーマなのであるが、基本的な「敵対的共生」の関係、即ちどのような点においてそうした微妙な関係が生まれ得るのかを捉えることができるように記述されている。

民主政治と資本主義の関係は21世紀の政治経済における最大の課題と言っても過言ではなく、誰も無関係でいることはできない重要な話題であるため、本著のこの③の特徴は極めて有益な道案内であると評価できると思われる。

デモクラシーに生きる私達にとって非常に有益な著作としてオススメだ。

読了難易度:★★☆☆☆
理念と現実のバランス度:★★★★★
比較政治的な視野の広さ度:★★★★★
トータルオススメ度:★★★★★

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