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書評:ドストエフスキー『虐げられた人びと』

ドストエフスキーによる中期恋愛作品

今回ご紹介するのは、ロシア文学よりドストエフスキー『虐げられた人びと』。

ドストエフスキーによる中編の恋愛作品である。ドストエフスキーの特徴である精緻な心理描写、就中、葛藤の描写が非常に巧みながらも、それでいて恋愛問題がプロットということもあり、読みやすい作品でもある。

ドストエフスキーの後期長編作品群にあまり興味の無い方は、この作品から読み始めてみてもよいかもしれない。

この作品は、恋愛に絡んで様々な登場人物の愛情や功利、エゴが複雑に絡み合うあらすじが特徴的だ。これは、ドストエフスキー自身の恋愛体験に負うところが非常に大きいだろうとされている。実はドストエフスキーは、妻を持ちながら他の女性を愛し、その女性はドストエフスキーを一時愛しながらも結局他の男性へと向かっていく、という錯綜した恋愛経験を持っているのだ。

こうした経験そのものは当時決して珍しいものではなかったそうであるが、そうした錯綜を描き切る構成力はさすがとしか言いようがない。

埴谷雄高はドストエフスキーに見られた複数の男女によるこうした錯綜した様子を「恋愛の平行四辺形」という面白い言葉で表現している。おそらくは、関係の歪みを「平行四辺形」が持つ傾いた形状に重ねて表現したものだろう。面白い表現だ。

初期から中期にかけてのドストエフスキーには、こうした恋愛劇(悲劇が多い)が多く見られる(例えば『白夜』など。その他の初期の短編は中々入手し難く、私も読めていないものが多い)。

後期の大文学に比すれば見劣りのする作品と感じられるのかもしれないが、後期の深遠な描写の片鱗が十分に見られるため、もしドストエフスキーファンとなった暁には是非この時期の作品にも触れてみてはいかがだろうか。

読了難易度:★★☆☆☆
恋愛ものとして切ない度:★★★☆☆
ドストエフスキーの筆力片鱗度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★☆☆

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