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書評:ホール・ケイン『永遠の都』

世界文学と呼ばれるべき大衆小説 〜ロマンス、人間共和の凱歌、誇りと恥辱、そして生命〜

今回ご紹介するのは、イギリスの小説であるホール・ケイン『永遠の都』という作品だ。

この作品についてであるが、ネットで検索しても「ホール・ケイン」も「永遠の都」もWikipediaにすら出てこない。
本作は20世紀初頭のいわゆる大衆小説で、当時イギリスでは人気作だったのであるが、未だ世界文学の一角として認められるには至っていないというポジションにあるという。

ところで、本作をネットで調べると創価学会系の記載のあるページが並ぶ。
恐らく同会でよく読まれる作品なのだろうと思われる。

蛇足ではあるがこの点に関し、もし気になる方がいて手に取る足枷になってしまったとしたら、素晴らしい作品なだけに大変残念に思うため、少し私なりの考えに触れておきたい。

本作の出版社は「潮出版社」というところなのだが、ここはいわゆる創価学会系の出版社となっている。
潮出版社の著作を購入することで同会のような宗教団体にお金が流れることを懸念する方も正直いるのではないかと思った次第である。

もしそう感じられる方は、古本などで手にされてはいかがだろうか。
作品の魅力は保証する。

さて前置きはこのくらいに、作品のご紹介に入りたい。

本作は、19世紀末期のイタリアを舞台に、恋愛、政治、革命、宗教など様々な要素を体現した登場人物達が活き活きと活躍する冒険活劇だと言えよう。
その迫力や躍動感は、さながらアレクサンドル・デュマの世界観を彷彿させる。

あくまで非暴力を前提に人間共和という理想社会の実現のために邁進する主人公ディビット・ロッシュと、彼と運命的な再会を果たす女主人公ドンナ・ローマのロマンスを軸に、権力政治、権威宗教を鋭く描き、それらの配下で貧困に喘ぐ庶民の現実を明らかにしながら、物語が加速度的に流転していく、続きが気になって仕方がない作品である。

ディビットの訴える人間共和の理想の気高さはさる事ながら、私が特に素晴らしいと思ったのは、ドンナ・ローマの人物描写出会った。

彼女は当初、富と権力の体現者として登場するのであるが、革命家ディビットが実は幼少の頃イギリスの家で共に暮らした孤児であったことがわかると、ディビットに恋し、ディビットの理想に共に生きるという、言わば誇りに生きることを人生の第一義とするようになる。

しかし、彼女はこの人生を捧げるに相応しいと決意した誇りを手にしたことで、毀誉褒貶の世の中に泰然と臨むことができるようになったのだろうか。

否、決してそんなことはなかった。
それまで生きた富がどんどん失われていく哀れさ。
浮薄な栄華の界隈に生きる人々からの嘲笑の的となる惨めさ。
彼女の誇りは常にそうした恥辱と隣り合わせであり、文字通りいつ挫けてもおかしくない程に不安定なものに思える。
しかし彼女は、ディビットとの恋、互いの信頼、それだけを頼りに、誇りにかじりつくように懸命に強く生きていくのだ。

ここには、「誇りある生」なるものが本来如何に難しいものであるか、厳しいものであるかが伺われる。
「誇りある生」の真実である。
そしてだからこそ、誇りに生きることの高貴さが逆に輝いてくるように思われるのだ。

ところで、冒頭でこの作品は未だ世界文学としての認知には至っていないと紹介した。

私が思うに、世界文学の要諦は、生きることの意味を強烈に読者に問う要素が含まれているか、という一点に尽きるのではないだろうか。

正義を巡る問題。
幸不幸を巡る問題。
人生の目的を巡る問題。

このように考えれば、本作はいずれイギリスを代表する世界文学の一角に名を連ねることになると、信じてやまない。

世界文学に相応しい度:★★★★★
大衆小説としての興奮度:★★★★☆
現時点で日本語で読めるのは結構奇跡度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★★

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