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書評:シェイクスピア『オセロー』

シェイクスピアが描いた「猜疑」の毒性とは?

今回ご紹介するのは、イギリス文学よりシェイクスピア『オセロー』。

『オセロー』はシェイクスピア四大悲劇の1つとされる作品である。

大まかなあらすじは、オセロー将軍が信頼する腹心の姦計にあい、妻を疑い、妻を殺し、自らも滅亡してしまう、というもの。

しかし本作には、他の悲劇作品に比べた時にかなり際立った特徴がある。

他の悲劇作品では、主人公を含む複合的な野心や権力欲が絡み合いながら全体としてスパイラル状に悲劇に向かうようなプロットが特徴的である。

対してこの『オセロー』では、全てはたった1人の腹心の野心に周囲が振り回されるという展開を見せるのだ。

一見、ストーリー構成としては成熟度が低いように思えるかもしれない。しかしながら、悲劇の原因として表現されている人間の性質が他の悲劇とはそもそも異なる、と捉えることもできよう。

オセローを含む登場人物達は、皆一様に「盲目」だ。

腹心の姦計によりちょっとした「猜疑」を抱き始めると、その「猜疑」に飲み込まれていき、「猜疑」の虜となってしまう。そしてその「猜疑」をあたかも信念のように貫き通し、自壊していってしまうのだ。

ここには、人間の脆さの1つの形を見るように思える。自身の欲や野心に惑わない実直な人間、そして事実誠実に振る舞う人間であろうとも、この「猜疑」という病巣を一度抱えてしまえば、それに抗うことは難しいのだ。

そして、本作が描く登場人物達の最大の特徴は、皆共通して「盲目」で「賢さ」を伴っていないという点にある。自分の「猜疑」を自省することができないのだ。

裏を返せば、「猜疑」を手懐けるには「英知」「理知」が必要だということではないかと思う。

「猜疑」の毒性は強力だ。一瞬で脳内を埋め尽くす浸透力がある。冷静に状況を判断する英知を持ち合わせていなければ、一気にその虜となり、飲み込まれてしまう。そして、「猜疑」を動力とした発想・行動は全て否定的な色彩を帯び、自他もろとも傷付ける凶器性を帯びていくのだ。

『オセロー』には、英知を持たぬ人間にとっての「猜疑」の恐ろしさが表現されているように思われた。

因みに、「猜疑」の脅威をテーマとした作品に、ブラジル文学のマシャード・デ・アシス『ドン・カズムーロ』という作品がある。本ブログでもいずれ近いうちに紹介したいと考えているので、是非比較対象としてご覧いただきたい。

読了難易度:★★☆☆☆(←戯曲慣れは必要)
ストーリー構成複雑度:★★☆☆☆
猜疑の脅威度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★☆☆

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