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映画<怪物>21回目はティーチインだった。~1秒の湊~

21回目の「怪物」鑑賞は、是枝監督と黒川想矢さんのティーチイン付きという華やかな思い出となった。
私は二列目の一番端の席で、質問の挙手は当てられなかったが、席の位置角度的に、横顔の綺麗な黒川くんの横顔+横全身像がずっと視界内にある、という多幸感あふるる状況に置かれていた。
「初めてのティーチインなので緊張しています」と挨拶した黒川くんの立ち姿も話しかたも、湊そのままで、直前まで映し出されていたスクリーンから抜け出してきたかのよう。

もし質問ができるのなら私は、15回目の鑑賞のときのティーチインで是枝監督に話していただいた、<黒川くんに”心は頭以外にも宿る、身体の一部に心が宿ると感じて演じてごらん”と伝えた>という内容に関して、そのアドバイスは、身体の型から入るアクションの演技にも生きていますか?と黒川くんに質問したかった。(おそらくアクションのトレーニング中のはずだから)
でも、ほぼ冒頭に是枝監督がいきなり、なぜかその答えに値することを自ら話してくれたので、それで答えをもらったようなものだったのかな、と不思議な気分。
(「精霊の守り人」の舞台に挑むにあたり、とても役立っているとのこと。黒川くんは皇太子チャグム役。舞台のチケットも獲得できたので来週観にいく予定。)

会場からの質問に、いろいろ素敵な答えがあり。動画録音は禁止だったので、正確な言葉通りに拾えてはいないけれど、記してみる。
・スタッフの竹〇さんと依里と湊と三人で”竹〇ハウス”と名付けてしばらく一緒に生活をするということがあった。そのときに依里くんと二人でオニオンスープとオムライスを作ったのが印象深い思い出。
(監督「美味しかった?」黒川くん「・・・・・・」会場笑)
・性的マイノリティについての受け止めかた。
「男の子が男の子を好き」なのは「リンゴが好き」というようなもの。理由を求められたり疑問を起こすものではない。
(カンヌでも聞かれたけど・・・と前置きして、黒川くんの答えの入りがどの質問よりも早くて答え方もスムーズ。今まで何度も何度も聞かれてきた質問だったのだろう。)
・湊の隣の席のクラスメイトの女の子が「麦野くんが猫で遊んでいるのを見た」というセリフについて
「この作品は伝言ゲームの伝わり方が変わっていくようなところがある。それは湊を見たのではなく依里を見たんじゃないか。」という監督の目が開くような言葉。
・多くのSNSの評論の受け止め方。
SNSを気にする年齢は過ぎたので・・・。今日が最後のティーチインになると思うので、考えを書いたものを出そうと思う。
・音楽室の田中裕子さんと二人のシーンは緊張したか?
黒川くん「田中裕子さんは接し方が校長先生そのもので、トロンボーンを吹くときも上手だって褒めてくれて。緊張はしなかった。」監督「音楽室のシーンはほとんど取り直ししていない」
・一番好きなセリフは?
黒川くん「生まれ変わったのかなという依里の問いに「ないよ、元のままだよ」のセリフ。」監督「いいセリフはたくさんあるけど・・・「出発の音だ」」
・一番難しかったシーンは?
黒川くん「依里くんの家を訪ねたときにドアが閉まったあとに言い続ける長台詞。口内炎のこととか喋るんですけど。喋るのが止まったら、ラジオなら放送事故って言われると思って喋り続けるのを止めないで、と監督の指示があって、難しかった。」
監督「あれは難しかったね。(ウィスパーで)・・・カットしました。」
(シナリオブックにあったあの長台詞、演技したシーンがあったんだと驚き。湊の気持ちがあまりにも露わなセリフが入っていたから(プロポーズになってしまうのでは?というような言葉も入っていて)てっきり演じる前にカットされたのかと思っていました。カットされたシーン、観たいなあ、聴きたいなあ。)
・湊という人間はどんなコップなのか考えて演技をすることについて
監督がいろいろと説明をしたあと、黒川くん「優しい人になりたいです」と〆。(会場は癒されモード)
・一番好きなシーンは?
黒川くんは、マンホールの中の音を聞くところから、依里にスニーカーの片方を貸して、さけどころうえだのコーラは(コーヒーはと言い間違えて訂正して)・・・片足ケンケンのシーンを挙げて。
「あのシーンの前に、依里くんとケンカをしたあとだったんだけど、演じているうちに幸せな気分になりました」
柊木くんとは(会場では終始「依里くん」と黒川くんは呼びづつけていた。萌えます。)毎日ケンカをしていたけれど、ケンカの原因は「覚えていない」という黒川くん。
監督「黒川くんが集中したいときに柊木くんがしゃべり続けているから。ふたりは演技の取り組み方が違う。実年齢は二つ違いだから生意気な弟みたいな感じだね」

→この「片方のスニーカー」のシーンの説明を始めるときに、黒川くんが突然あの「今日、ゴメン」と右手で鼻の下をこする動作をした。観客はどのシーンのことか即座に感知。
一秒でシーンが蘇った。一秒だけ目の前に湊が現れた。

「一秒の湊」が見れて歓喜。

「役者の魅力」のひとつに「変容の魅力」があると思う。
素の状態はシャイで人見知り的な雰囲気の人が、演じたら別人になる、という役者は多々いると思うけれど、黒川想矢くんもそういう役者なのではないかなあと。
自我の炎を燃やす役者より、変容の輝きを放つ役者なのではと。
黒川くんの、一秒で変容、一秒の変容、を観る。濃い一秒間、嬉しかった。

<追記>
せっかくなので、15回目の鑑賞のときの、英語字幕付きで英語通訳付是枝監督のティーチインのメモも記載。
・子役に先に台本を渡したことについて
ふたりとも台本を読んだほうが演じやすかったのでそうした。
「誰も知らない」の柳楽くんは、台本を読んで演技をすることはできなかった。かたちから入った。
たとえば「ペットボトルのフタを外してごらん」というと自然と下を向くから悩んでいる表情に見えるなど。
・作品の中で好きなキャラクターは?
湊のクラスメイトのガクとユウ(学友から来ている?)の二人が推し。凄くうまい。ちりとりを持ってダンスをしているのはアドリブ。
ガクとユウのどうでもいいシーンの演技が好き。クラス全員のこどもが良くて、止まらずに動いてくれていた。
・湊(黒川くん)が声変わり後であったことの影響は?
声変わりの前か後かは確認する。撮影の途中で声が変わってしまうとアテレコがあるから。
十五回見ていれば気づくでしょうけれど黒川くんの声が高くなっているときのシーンがある。(早織と湊の病院の後の夜道のシーンかな・・・)
・湊が音楽室で「好きな子がいるの」というシーンが出来るまで、やり取りの積み重ねがあったか(私の質問。当ててもらえました)
作品は、時間をかけて少しずつ作っていく。リハーサルも何度もする。
湊と校長の音楽室のシーンに入る前に、黒川くんはもう出来ていて、音楽室のシーンはほとんど回数を重ねていない。
感情は頭に宿るだけではなく、胸にもお腹にも、指先にも感情は宿る。と黒川くんに伝えた。
具体的なことを言うと、湊が依里に音楽室でベビースターラーメンをもらって、床に落としたときに湊の髪を依里が触るとき、床の冷たさを指で感じてごらん、と黒川くんに伝えたら、ベビースターラーメンを握りしめパキパキと音を立てた。あの演技は監督の指示ではなく黒川くんの考えた演技。それを見たとき、この子は掴んだな、と思った。
・子役への接し方について
ふたりとも、こどもというより、役者。
→「どんなことでも聞いてください」と冒頭の監督の言葉に感動。全力で観客とのコミュニケーションを受け入れるきもち。
どんな質問も、英語通訳の方が、即座にまとめて英訳しているのが見事でその技術に「すごい・・・」という声も会場内であがった一瞬もあり。

〈追記2〉
ティーチイン付き上映での座席位置が2列目の一番端の席だったので、私のスクリーンの見え方は「全体の画面の客席から向かって左の角の下の部分」が一番目に入ってきた。
そのせいで、初めて気がついたのが、依里の家のリビングの一角に立てられていた数冊の本のタイトル。
親子関係のありかた、みたいなタイトルが一瞬見えて。この書籍を求めたのは、依里の母なのか、父なのか。
湊の家族と異なり、依里の家族は「気がついている」からこその葛藤があったのだろうと伺わせた。
この座席位置だからこそ貰えた、また別の贈り物…。

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