見出し画像

【生産性のモノサシ】 普段使いのPLANとDO (2)

「全体最適のプロジェクトマネジメント」 岸良裕司、2011

 PDCAのPLANとDOはプロジェクトマネジメント(以下PM)そのものだと思うのですが、一般的なPMの教科書は大げさすぎて、日常のPDCAでは使いこなせません。岸良さんの本を参考にして「普段使いできるPLANとDOのマイ・マニュアル」をつくってみました。いわばPMのアレンジレシピです。


ツール1: ODSC (Objectives、Deliverables、Success Criteria)

Objectives(目的)

 プロジェクトで達成したい効果です。プロジェクト・メンバーや主要な利害関係者に言いたいことを言ってもらって全部書き出します。ですから比較的長いリストになる。
 Objectives が長大になると目的相互にトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)が生じて達成できない目的も出てきます。であっても利害関係者の期待をそのままリストにしておくのが良いそうです。トレードオフや矛盾を直視することで新たなアイデアが出てきます。解決できないとしても、優先度を調整したり、達成できないことをお詫びしたりすることも現実のPDCA遂行には大切なことだと思います。

Deliverables(手段)

 Objectivesを実現するのに必要なモノやコトです。普通、成果物と訳されますが、それはプロジェクトの成果物という意味であって、目的に対しては手段になると思います。
 IT プロジェクトではITシステムに加えて運用保守体制やユーザートレーニングなど。業務改革では、新しい組織、風土、コミュニティ、規則、イベントなど。ときには無用になった組織・風土・コミュニティ・規則・イベントの廃止も重要な達成手段になる場合があります。良い Deliverables のコツは、長大なObjectives リストを、いかに短い Deliverables リストで実現できるか、ということだと思います。

Success Criteria (モノサシ)

 Objectives の達成度を測るための指標のリストです。コスト削減額、売上高、利益率など経済的指標だけでなく、満足度のような主観的スコア、「ニュースに取り上げられる」といった象徴的現象、なども指標にできます。 達成手段(Deliverables)が完成したからといって、目的(Objectives)が達成される保証はありません。そこで、成功基準(Success Criteria)というモノサシを事前に用意して、達成度を測るということだと思います。
 やってみると、Objectives リストは長くなりがちですが、 Deliverables とSuccess Criteria は比較的短かいほうが取り組みやすい気がします。

手段 (Deliverables) を先に決めてしまうことのなんと多いことか

 経験的には、ODSCが整理できていないのにプロジェクトが始まってしまうことが実に多いです。特にトップダウンのプロジェクトでは、トップが勝手に Deliverables を指示してしまう。「〇〇システムを導入しろ」とか「AIを導入しろ」といったタイプの指示でしょうか。その結果、利害関係者が Objectives を議論する余地がなくなってしまう。組織のトップは Objectives の大まかな方向性を表明して、Deliverables はどちらかというと実行部隊の選択に任せるほうがうまくいくのではないでしょうか。

Objectives と Deliverables はなぜ混乱するのか?

 たしかに Objectives とDeliverables の区別は微妙で、上手に使い分けるのが難しい。達成手段を完成するためには、工程とかタスクと呼ばれる、さらに下位の達成手段が生じます。ということは、達成手段とは下位達成手段にとっての目的です。逆に、目的とは上位目的のための達成手段です。
 戦略と戦術でも同じ混乱が生じます。戦術とは下位戦術にとっての戦略です。逆に、戦略とは上位戦略のための戦術です。これは、一般的に「抽象のはしご」(S.I.ハヤカワ「思考における行動と言語」1972)と呼ばれる抽象操作に共通の問題ではないでしょうか。

ではどうする?

 Objectives と思うもの、Deliverables と思うもの、Success Criteria と思うものをいったん全部出し切った後、仕訳し直すと取り組みやすいように思います。一行ずつ取り上げて「これは目的なのか?手段なのか?」「それは手段の目的化ではないか?」という議論はいささか不毛です。並べてみれば、誰の目にも「どちらが目的でどちらが手段で、手段のための手段はどれか」が明らかになります。

ODSCの質問

  • 目的は何ですか?

  • 手段は何ですか?

  • 成功のモノサシは何ですか?

  • ほんとうにそれだけですか?

遅すぎることはない

 残念ながらODSCを整理しないでプロジェクトが始まってしまうことがとても多い。日常のPDCAでいうと、目標咀嚼ができていないのにPLANに取り掛かってしまう。本当はPDCAの一番バッターがODSCなのですが。
 実行部隊から「何のためのプロジェクトかわからない」といった愚痴が聞こえるときは、ODSCが共有できていない兆候だと思います。そうした場合でも、あるいはすでにプロジェクトが迷走し始めた際であっても、その時点でODSCで整理すると対策方針が立てやすくなります。もちろん最初に整理しておくのが一番です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?