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コラム ハチとの共生の可能性

数年前の8月、私が住んでいた家の2階にある部屋の天井裏にスズメバチが巣を作った。調べてみると、軒の通風口からハチが頻繁に出入りしていた。耳を澄ますと部屋の中でも彼らのブンブンという羽音が聞こえた。巣はだいぶ大きくなっているようだった。

私は「天井裏に殺虫剤をまけばいいけど死骸の掃除が大変だしなぁ」と悩んだ。とりあえず検索してみても駆除業者の広告ばかりが出てくる。何かもう少しちがう対策はないのかと思いつつ、その先を進むと、「ハチとの共生」というページを発見した。
「スズメバチは家人の匂いを覚えて襲いません。巣から2メートル以上離れていれば攻撃してきません。ハチは益虫です」とあった。ハチが益虫であることは知っていたが、ハチが家の人間の匂いを識別できるという話には、少し人情味を感じてしまった。「まぁ秋にはいなくなるだろうし、何かあれば駆除を考えよう」と決め、巣をそのままにすることにした。

ハチとの共生生活を始めて気づいたのは、彼らが私を認識していることと、意外とホワイトな環境で生きていることだった。私が帰宅しても寄ってくることはなかったが、郵便屋さんや宅配便の人には注意深くチェックを入れていた。そのためときどき彼らの「うわ!ハチだ!」と驚く声が時折聞こえたが、あくまでパトロールなので刺したりはしない。

ハチたちは雨の日は休み、朝は8時過ぎまで寝ていたし、夕方は日没前に戻ってきていた。雨の日に出勤する時は「働きバチより働く人間は私です」と、つぶやきながら家を出たものだ。

秋が過ぎ、冬が近づくと羽音が減り、たまに動きの鈍いハチが部屋を覗くことがあったが、彼らも暖かい場所を探しているだけだった。初雪が降る頃には、すっかり静かになり、天井裏を覗くと大きな巣だけが残っていた。羽音とともに夏を過ごした彼らがいなくなり、なんだか寂しい気持ちになった。

翌年も別の場所に巣ができたが、やはり放置しても問題はなく、まるで最強の門番を雇った気分だった。
今の家では毎年アシナガバチが巣を作るが、彼らはスズメバチよりおとなしいし、おかげで毒を持つ害虫も発生していない。

ちなみに私はハチを刺激しないために、香料の入った洗剤を使うことをやめた。
これらの匂いがハチを興奮させるからだ。洗濯は重曹とクエン酸で行い、食器洗いには無香料の石けんを使えば特に問題はない。

ハチとの共生は、誰にでも勧められるわけではないが、可能だと思う。ましてや田舎に住むのなら一度は検討してみる価値はある。

ただし、刺された時のためにポイズンリムーバーや殺虫剤の入っていない瞬間冷凍のスプレーは用意すると安心だろう。私はまだ使ったことはないけれど……。

おわり

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