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【読書感想】 恋

小池真理子作 1995年刊行 第114回直木賞受賞作

あらすじ

1993年ノンフィクション作家の鳥飼三津彦は1972年の連合赤軍浅間山荘事件に関する原稿を依頼された。資料を見ていくうちに鳥飼は同日に起きた事件に興味を持つようになる。
それは、浅間山荘事件の裏で一人の女が引き起こした発砲事件だった。
鳥飼は取材を進めていき、矢野布美子に接触し、事件の全容を知っていく。
それは当時学生であった矢野布美子が片瀬夫婦と知り合い、倒錯的な関係に陥っていく物語であった。

感想

文庫本で492ページでかなりボリュームのある長編。
読み終わって、良かった! 凄く良かった!!!
本の評価は個人の好みによる所が大きいけど好きなタイプの小説だった。

まず、1972年という時代設定。
学生運動という実際に過去にあったけど非現実感のある雰囲気の中、そこに深く関わらず片瀬夫婦と遊び回る描写が凄い。
活動家の恋人、唐木俊夫。
彼が布美子と学生運動の接点となる人物だが、唐木の時と片瀬夫妻といるときの描写の違いが社会における立ち位置を表しているかのようだった。

次に軽井沢という舞台。
軽井沢ってなんかいいよね……
東京から近い洒落た避暑地というイメージがあるが、1970年代なんかは今より敷居は高かったと思う。
非現実的という意味では学生運動とも似ているかもしれないが、浅間山荘事件とはクロスしない。あくまで別の空間で彼らはひたすら楽しむ。

そこでは片瀬夫妻の別荘で楽しんだ場面から崩壊までが描かれる。
前半で夫妻との関係を楽しむシーンはひたすらキラキラして、猟銃で発砲するときはドロドロした展開に……

そして物語は終盤に。
最近読んだ小説の中で一番美しいラストだと思う。それくらいきれいな終わり方だった。

一番特殊なのは主人公?

読んでいて思ったのは、このストーリーで一番特殊?なのは主人公である布美子ではないかというもの。

語り手である彼女は学生運動にも関わってはいるし、片瀬夫婦のブルジョワな生活にも初めの内は戸惑っていたが、なんだかんだで馴染んでいる。
立ち位置がふわふわしていて状況に流されているだけかと思いきや、猟銃をぶっ放す、片瀬夫妻と関係を持つなどぶっ飛んだ一面もある。

そのため布美子が普通の語り手とは一風変わっていると思っていた。

本当にそうか……?

でも、布美子はあくまで普通の大学生である。
そんな普通の大学生に活動家の恋人がいて、インモラルな夫妻が友人で、仲良くなってこのままずっとこうしていたいと、思えるような居場所を得た矢先に謎の男が現れ関係が壊れていく……

頭がパンクしそうである。
実際どうすることもできなくなって発砲という手段になった気がする。
だから考えが変わって
特殊な語り手から普通の女の子に見方が変わっていった。特殊な環境に振り回されてしまった若い女性の話と言えるのではないか。

おわりに

とても面白い小説なのだけど、好きな人は特にハマるタイプの小説だと感じた。未読の方は手に取ってみて下さい!


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