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誰かが体験した奇談。其七『人心事故』

元同僚が語る『人身事故』

「ずいぶん前の話なんだが」
元同僚にちょっとした用事で会うことになり、ファミレスで食事しょうということになった。彼は今や優秀なホテルマンになっている。その時、私が最近は奇妙な話などを投稿していると話すと、彼は何か思い出したようだった。
「結構昔の話なんだけど、合併前のA町の広域農道の墓地を知ってるだろ。君がまえに怖い目にあったってはなしていた所」
「その話は、そういえばまだ書いてないな」
「あの話を聞いていたとき思い出したことがあるんだ」

F県旧T市から、県庁所在地のF市まで通常は国道を走るのだが、街を挟んで西側には広域農道がある。ほぼ直線だし信号は少ない、交通量は少ないというので利用する人は多い。

家の用事で帰りが深夜になったんだ。
彼は言う。
それで広域濃度を走ったんだ。
2時ごろだったと思う。A町のNの墓地を知っているだろ。
「ああ、移転した墓地。ちょっと僕にはいわくつきのところ」
私は思い出しながら言った。彼は言う。
ちょうどその墓地の近くに差し掛かった時だった。田んぼの真ん中を走る道だから街灯はほぼない。おまけに走っているのは自分だけ。たよりは車のヘッドライトだけなんだ。
そこで人をはねたんだよ。
彼はこともなげに言ってコーヒーを飲んだ。

自転車に乗った老人がいきなり目の前に飛び出して来たんだ。
驚いた顔は今でも目に焼き付いている。
車ににぶい衝撃があって、急ブレーキを踏んだ。
やっちまった。
あわてて外に出て、老人を探したんだ。また、生きているかもしれない。
でも、道路上に人の姿はない。
あわてて車の下をのぞく。下敷きになっているかもしれないと思ったんだけど、そこにもいない。
やばいと思って、懐中電灯を持って近くの田んぼを照らしたんだ。飛ばされているかもって思ってね。
でも、いない。パニックだよ。
確かに人をはねたんだ。
あちこち探したよ。
しばらくしてパトカーがやってきた。変な奴がいるって通報でもあったんだろうね。どうしましたと聞くから、人をはねたみたいですと答えたんだ。
それから警官と三人であたりをくまなく探したけど、人の姿も自転車も見つからなかった。
そのうち警官が言った、車、無傷ですよ。
えって言って車を見た。
自分の車に傷はない。でも、衝撃があったことや確かに見たのは間違いないって食い下がったんだけどね。

しばらくは、新聞やテレビを見るのが怖かったよ。
近くの田んぼから死体が見つかるんじゃないかって。
あれはいったい何だったんだろうね。

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