誰かが体験した奇談。其二 『お台場』
東京の友人のひとりが語る『お台場』
変わった話と言えば、こんなことを思い出しました。
よくある話かもしれませんが。
今なら東京のお台場と言えば、大きなテレビ局もあり、ちかくには東京ビックサイトもあるし、豊洲なども近くにある東京の名所の一つにもなっているのでは思います。
私がよく行っていた頃は、まだレインボーブリッジが作られている頃で、何もない所でした。それでもお台場海浜公園をたまにデートしたものです。人があまりいないことが気に入ってました。
第三台場の跡が海の中にあって、公園との間は穏やかな海になるのか、たまに女性の組体操みたいな水上スキーなど練習しているのを見る事が出来たものです。穏やかで気持ち良い場所でした。
ホームレスもいましたが、怖くもなく私たちはよく行っていたものです。もっとも私もやんちゃな頃ですから、怖いものはなかったんですが。
でも、ある日を境に行かなくなりました。あなたがたまに行くと知って止めたことも覚えていると思います。人にはいかないほうがいいと話すようになりました。その理由はあまり話していなかったのですが。
ある日の事でした。
私と彼女はいつものようにお台場で過ごしていました。彼女の手作りの弁当やお茶を持って、ちょっとしたピクニックみたいなものです。低い植木の前にコンクリートのベンチがあります。そこに座ってました。
遠くには人がいますが、気にもなりません。私たちはいつものように二人の世界でいろんなことを話し、笑いあってました。
しばらくして、彼女が「あれっ」というのです。
振り向いてみると、植木の近くに女の子が近くに立っています。
大人の黒い影も遠くに立っていたようにも見えました。
女の子はじっとこっちを見ています。
少し汚れた白い服を着て、確かスカートは赤。
「どうしたの」彼女が声を掛けました。
「おなかすいてるのかな」
彼女は、サンドイッチを手にして呼びかけました。
「一緒にたべようか」
女の子は一瞬笑ったようにも見えました。
でも、そのまま植木の向こうにある木立の中にぱっと駆け出して行ったんです。
私もやんちゃなほうでしたから、なんだ、彼女が声かけているのに返事くらいしろやと思い、女の子の後を追いかけたんです。
でも、女の子の姿はどこにも見えません。
ちえっと思い、彼女のほうに戻りました。
戻ってきた私を見て、彼女は驚いた顔をして口を押さえました。
しきりに右手を振っています。
なんだと思い、自分の右手を見たんです。
そこには女の子がいました。
私の右手をしっかりつかんで。
それだけじゃありません。女の子は血だらけだったんです。
赤いスカートからは血が滴っています。
こちらをみて、にやりと笑ったのです。
うわぁと叫んだことは覚えてます。
そのまま、何も持たずに彼女と逃げて車に戻りました。それ以来、行かなくなったのです。
女の子がつかんでいた右腕には、黒い跡がついていてしばらくは落ちませんでした。
それ以来行ってませんし、行かないほうがいいと人には言っているんですが。
なんだったのかは分かりません。
でも、東京は武蔵野国と呼ばれていたころから、戦国、江戸、戦争とたくさんの人が亡くなってますよね。あの子は空襲なのかなと、今ではふと思うことがあります。
この前、京都の人と幕末の話をしていたら、
「ここも、たくさん人が亡くなってますわ」って当たり前のように話していて不思議な気がしました。
私たちはたくさんの血の上で暮らしているんだなぁって。