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佐賀県“子どもの居場所立ち上げサポーター”がメディア「こどもたちのおとなりさん」に込めた想い

「おはよう」「いってらっしゃい」「おかえり」「ただいま」こんな何気ない会話を誰かと交わすことはどれだけあるだろう。玄関を出てお隣さんと。出かけた先で顔馴染みのあの人と。ぶらりと立ち寄ったお店で知り合いと。ひと言だったとしても、そんなやりとりには互いを気づかうちょっとした優しさや豊かさがある気がしている。不安や悲しさでいっぱいの日も “大丈夫かもしれない”と、不思議とその瞬間に救われることってあると思う。

佐賀県子どもの居場所立ち上げサポーターとは

2022年〜佐賀県庁こども家庭課に所属し、県内で子どもの居場所*を新たに開設したい人や団体の立ち上げフォローを行う。主に市町役所の担当者や地域資源とのコーディネートを担っている。
*子どもの居場所とは、子どもたちにとって、家庭でも学校でもない、気軽に立ち寄れて”ほっと“ できる場所、地域の子どもと大人が出会える場所です。

だれかに頼ることは悪くない。頼り先を増やすことは自立への一歩。

ここで、子どもの居場所になぜこだわるのかと思った人もいるかもしれない。立ち上げサポーターとして今考えていることを少し伝えさせてください。

唐突だが、だれかに「頼る」ということにどんな印象を持たれるだろうか。私の場合、親も先生も「そんなんじゃ大人になれない」とか「頼ってばかりいないで」とかよく言っていた記憶がある。つまり、良いことではないのだとずっと思っていた。でも本当にそうなのか、という問いに立ち返りたい。

 一般的に「自立」の反対語は「依存」だと勘違いされていますが、人間は物であったり人であったり、さまざまなものに依存しないと生きていけないんですよ。
 東日本大震災のとき、私は職場である5階の研究室から逃げ遅れてしまいました。なぜかというと簡単で、エレベーターが止まってしまったからです。そのとき、逃げるということを可能にする“依存先”が、自分には少なかったことを知りました。エレベーターが止まっても、他の人は階段やはしごで逃げられます。5階から逃げるという行為に対して三つも依存先があります。ところが私にはエレベーターしかなかった。
 実は膨大なものに依存しているのに、「私は何にも依存していない」と感じられる状態こそが、“自立”といわれる状態なのだろうと思います。だから、自立を目指すなら、むしろ依存先を増やさないといけない。”

TOKYO人権 第56号(平成24年11月27日発行)
熊谷晋一郎(くまがやしんいちろう)さんインタビュー

この考え方は、脳性まひの障害を持ちながらも小児科医として勤務するほか、様々な当事者と共同研究をされている熊谷晋一郎さんのものだ。障がいの有無にかかわらず、私たちが一人でできることには限界があって、だれかに頼れる先があること自体が「日常」をつくっているということに気づかされる。そして、不完全だからこそ支え合おうとする、そのかかわり自体が「ありがとう」「うれしい」「よかった」のような心の豊かさにつながっているのかもしれない。

だれもに頼り先があれば「できなからダメだ」ではなく、「だれかと一緒に解決しよう」「このままでも大丈夫」となるはず。しかしながら、特に子どもたちを取り巻く現実を見てみると依然として厳しそうだ。

“ 日本は子どもの幸福度(結果)の総合順位で 20 位でした(38 カ国中)。しかし分野ごとの内訳をみると、両極端な結果が混在する「パラドックス」ともいえる結果です。身体的健康は 1 位でありながら、精神的幸福度は 37 位という最下位に近い結果となりました。

『イノチェンティ レポートカード 16 子どもたちに影響する世界  先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か』公益財団法人 日本ユニセフ協会

このデータは生活への満足度や自殺率から算出されている結果だが、児童虐待件数・不登校児童数・発達障害のある子どもの割合なども過去最高なものとなっている。これが直接的な困りと必ずしも結びついていない場合もあるとは思うが、「こども」の自尊感情の低下(自分はだめだ)や孤独感情(自分はひとりだ)は、複合的な要因によって強まってきているのではないだろうか。

だれもが子どもの居場所になれば、もっと生きやすくなる

佐賀県では子どもたちにとって、家庭でも学校でもない、気軽に立ち寄れて
”ほっと“できる場所、地域の子どもと大人が出会える場所のことを「子どもの居場所」と称し、取り組みを後押ししている。

佐賀県山口知事も子どもの居場所は「生きていく上で」必要な場所だとメッセージを寄せている。
                          引用:さが子どもの居場所のほん

子どもの居場所立ち上げサポーターは、そんな居場所に興味のある人の背中をそっと押す役割を担っている。実際に地域の皆さんの声を聞くと素敵な想いばかりで、ふと涙ぐんでしまうこともあるほど。しかし、やるからには子どもたちがたくさん来る状況をつくらなくちゃいけない気もしてしまうようで、「お金がないからな」「自信がないし」という声も幾度か聞いていた。そこで2022年度に開催をしたのが、すでに子どもの居場所をやっている人の話を聞く事ができるリアルイベント「子どもの居場所なんでも相談会」だ。 

普段受けている相談から派生したリアルイベントのため
「出張版子どもの居場所なんでも相談会」となった。

県内の4地区「子どもの居場所」をしている方々に、ご自身がどのように捉えているのかを聞いてみた。

出張版子どもの居場所なんでも相談会(リアルイベント)で居場所をしている方に聞いた

“ 子どものすぐ近くに「ある」場所。何かをこちらからするのではなく、子どもたちの声を待って聞く場所 ” (よりみちステーション 小林良枝さん)

“ 子どもたちがどんな場所で育ったのか思い出や記憶の1つになる ”
(本町食堂 久光義則さん)

“ 居場所を起点に地域の課題を解決する糸口になって、子どもたちが生き生きする可能性を持った場になる ” (ここてらす 入江航さん)

“ 地域の拠点であり発信する場。ここを起点にエネルギーが広がっていく”
(きゅうらぎみんなの食堂彩り 横道亨さん)

“ ずっと笑っている必要はなくて、全力で泣ける場所があることがありのままの自分を出せているということかもしれない。だから、大人も必ずしもニコニコしなくてもいい所。” (アバンセ 館長 田口香津子さん)

” かかわる大人が楽しむことで子どもたちが安心して楽しいと思える場所 ”
(ま・まんでぃ 圓城寺真理子さん)

“ 子どもだけでなく地域のかかわりがここで生まれる場所 ”
(からふるキッチンおぎ 江口尚毅さん)

見ての通り、それぞれが子どもの居場所に様々な思いを馳せながら、ご自身の見たい景色を描いていることが分かる。どれが正解なんてもちろん無い。居場所をしている「想い」やその先にある「願い」こそがだれかの日常を彩ったり、救うものになるのかもしれない。そう思うと、子どもの居場所は “なにをするか(do)"ではなく、“どうあるか(be)”が最も重要で、かけがえのないものような気がしてくるのだ。

出張版子どもの居場所なんでも相談会で参加者が書いた感想の一部。
興味関心のある皆さん、それぞれが素晴らしい想いを持っている。

こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を

2023年4月こども家庭庁が新設されて国が「こどもの声を聴こう」と、こどもや若者の権利を守るための考えや姿勢を示し始めている。そして既にお伝えした通り、子どもの居場所は地域の一人ひとりの素敵な、まさに自ら「こどもや地域の声を聴こう」としている場所であり、人がいる。
だから、もっとその想いやその人を地域のこどもたちや大人の皆さんに知ってもらいたい。だれもが頼っていい人や場所が、すぐそばにあることを日常の支えにしてほしい。

メディア「こどもたちのおとなりさん」では、佐賀県で暮らすこどもたちにとっての ”おとなりさん” となるような「ひと」や「けしき」をお届けしていきます。

居場所は「こども」も「おとな」も上下ではなく、対等に横でつながり合うもの。
そのつながりは人によって様々な色合いを持つことから、カラフルな縁で囲まれている。
どちらかが、どちらかに寄りかかったり、寄り添っているようにも見えます。
                           ロゴデザイン:岩楯愛久美

Instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/

こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を皆んなで緩やかにつくっていきませんか。

編集・書き手 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)
写真協力 : 小野真由美・藤本幸一郎

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