「九十九神(つくもがみ)と聖剣娘(けんむす)」第3話 作:筆塚スバル(ジャンププラス原作大賞連載部門応募作品)
ハガネが聖剣に話しかけている。
――そうか、それならば良かった。どの道、私はこの者の力に抗えぬ。触れられているだけで、早く一つになりたくてたまらぬ。もう、ダメだ。
聖剣の抵抗が止まった。
どうもオレにも使えるようになったみたいだが、なんだかしっくりこない。
「オレにも使えるみたいだぞ」
「な、なんだと?」
聖剣を戯れに振って見る。
「「ギャアアアアアア!」」
衝撃波でソフィアたちが吹っ飛ばされた。
軽く振るだけで魔法効果が出るようだな。
衝撃派の出る範囲が広すぎて気軽には使えないな……
やっぱりオレには長年使いこんだハガネが一番だな。
相棒を優しく握る。
ソフィアが、気合いで立ち上がりファイティングポーズを取った。
「まだだ、まだ私は倒れていないぞ!お前のクビをよこせ、ユーリ……」
精神力で立っているだけといった様子。
そこまでしてオレを殺したいのか。
「オレも素手で相手をしてやる。かかって来いよ」
「……いくぞ、ユーリ」
オレはハガネを納刀した。
聖剣を取り上げられたソフィアは、左手で火球を連打して間合いを詰めてくる。
オレは火球を素手で左右に打ち払い、出方を伺う。
ソフィアは前進しながら左右への移動とフェイントを混ぜ、間合いを詰めてくる。
オレが繰り出したハイキックを掻い潜ってゼロ距離でオレの胸部へ魔法攻撃か。
先ほどの魔力を練り込んだ斬撃技の応用だな。
火球を放ってきたのは、右手での魔力の練り込みに意識を向かせないためか。
見事だ。
素手での殴り合いでの力の差により不利と見て魔法による一撃必殺にかけたか。
フフ、悪くない。
「食らえ!」
勇者がオレに魔法攻撃を叩きこもうとした。
右手でボディ、左手でアゴ、さらに右手で後頭部に手刀。
オレは流れるように攻撃し、勇者の意識を奪った。
【戦士の加護】を受け、ハガネと一心同体になったオレが単純に勇者の速さを上回った。
地面に倒れこむ勇者を肩で支え、地面に寝かせた。
――トドメはささないの?
……うん。
――そう。……いいと思うよ。
ハガネが鞘から抜け出てヒト型――少女に戻った。
「ふう、一緒になって戦うって気持ちがいいね」
ハガネはオレを見てニコニコ笑っている。
軽く散歩でもしてきましたみたいな感想だな。
ハガネの緊張感のなさに思わずオレは笑ってしまった。
「どうしたの?」
「……いや、ハガネは可愛いなって」
「うーん、よくわからないけど、ユーリが笑ってるならそれでいいよ」
そろそろ王城の見回り連中が気付くころだな。
「じゃあ、持ち物をみんな奪って立ち去ろう」
「はーい」
手早く荷物をまとめると、聖剣も含めた荷物はハガネの指示に従い、オレのあとをついてくるようだ。
フワフワと空中を漂っている。
荷物を持たなくっていいのはすごくラクだな。
「ユーリ、杖とかローブとかももったいないから持っていくよ」
「おう」
ハガネもさすがに武器といった手際でうごめいていたロランやオリガに「えい、えい」とワンパン入れて気絶させ、縛っていた衣や杖を回収した。
さて、これからオレはどこへ行くのだろうか。
人間から嫌われていることに何ら変わりはない。
というか、勇者パーティーから武器装備を奪ってしまうし、思いっきり裏切り者である。
「ユーリ、ぼーっとしてないで早く行こうよ、捕まっちゃうよ」
「ああ、そうだな」
でも、ハガネと一緒ならどこでも笑って暮らせるんじゃないか。
オレ達はあてのない旅に出るんだ。
「さ、出発進行!」
ハガネの元気な声が響く。
いや、響かせると良くないんじゃないか?
警備の兵がわらわらと出て来た。
「わ、逃げろ」
オレ達はわき目も振らず逃げ出した。
★☆
――透けるような白い肌に腰あたりまで伸ばした金の髪。
蒼い瞳は宝石のように輝いていて――
その剣技は他を圧倒し、その場の皆がを息を飲むほど流麗だった。
それは相対するオレさえしばらく手を止めてしまうほど……
あ、いけね。
スパァアン!
村の稽古場中に響き渡るようないい音。
教科書のような一撃を脳天にもらって倒れ込む。
「何してるのよ」
「イテテテ」
少女はあきれたような顔で手を差し出してオレを引っ張って立たせた。
「模擬戦で初めてユーリに勝ったわ」
「おめでとう」
オレは素直に称賛の気持ちを拍手に込めた。
少女はジロリとオレを睨む。
「まあ、今みたいな腑抜けた試合に勝ってもうれしくないけどね」
「ははは」
全くもって今の試合はオレが悪いので言い返す言葉もない。
嬉しくないと言いながら、少女の足取りは軽かった。
「ソフィア・クドリン」
【勇者の加護】を持つ少女だ。
★☆
――今更、こんな夢を見てしまうとは。
ソフィアに嫌われていなかった頃の夢など見て、いったい何が変わると言うのか。
重たい身体を引きずって、寝床から体を起こす。
逃走中、ハガネたちが森の中で見つけてくれた廃小屋にとりあえず避難した。
食べ物はないが、幸い毛布などはそのまま置いてあった。
オレは人から拒絶されている。
その事実をすぐに受け入れられるほど、オレは強くはなかった。
「泣いてるの、ユーリ」
涙がハガネの背中をつたっていくのを眺めていると、不意に胸が締め付けられるように感じてハガネにしがみついた。
ハガネはオレを抱きしめてくれたが一向に胸の痛みは治まらなかった。
オレはハガネを強引にこちらへ向かせ、力強く抱きしめた。
ハガネはぎゅっと抱きしめてくれたが、ハガネの体の冷たさにオレはいら立ちを覚えてしまった。
「ユーリ、辛いの?ねえ、どうしたらいい?」
ハガネはオレを抱き締めながら心配そうに声をかける。
オレは強引にハガネを押し倒した。
胸が痛くて、苦しくて。
涙を溜めたままハガネに覆いかぶさった。
ハガネはオレの顔に両手で触れた。
「大丈夫?」
ハガネはオレを心配してくれていた。
それすら、ささくれだった心はいら立ちを覚えてしまう。
いら立ちをぶつけるように、ハガネの唇を奪おうとしたその時、後ろから声がした。
「ユーリ様。ハガネはわずか7年で神格を得ました。
そのこと自体がユーリ様からのハガネへの愛の深さを証明するものと私は心得ております」
後ろには裸の女性が座っていた。
「ただ、ハガネはまだ生まれたばかり。
抱くなとは申しません。
あなたの寂しさに沿うものとして、ハガネは神格を得たのですから」
女性は話しながらズズイっと近づいてきた。
「ただ、ユーリ様。ハガネを見てあげてはくれませんか。
あなたをお慕いしているハガネをちゃんと愛してあげてください。
あなたの心の奥深くに住まわれているお方を追い出せとも申しません。
ただ、他の人の代わりとして抱くのであれば、私が相手をいたします」
女性は20(はたち)くらいだろうか。
裸で土下座しているので、背中のラインが丸見えだ。
均整の取れた美しい体のラインをしている。
「あの、キミだれ?」
彼女はスカートをたくし上げる仕草をした。何も着てないけど。
「申し遅れました、私はクリームヒルト・グラム。あなたが欲した聖剣でございます」
スカートをたくし上げる仕草はスカートを履いてから行うんじゃないの?
あの、正視できないよ?
色気たっぷりの女性がオレに近寄ってきた。
黒髪黒目のスラっとした長身。
唇は少しぽてっとして、顔の造形はかわいらしいさが残る。
「えっと、クリームヒルト・グラムだっけ? 聖剣って……」
「あなたが欲した聖剣でございます。
先日あなたのものにされましたのにお忘れですか?」
少女は落ち着いた声と雰囲気を持っている。
「ソフィアが持っていた聖剣かな。
そうか、キミもハガネと同じようにオレのスキル【九十九神】でヒト型になれたのかな?」
「違うよ、ユーリ。
私とバルムンク様は違うよ」
ハガネが首を横に振る。
え? 何が違うの?
「私から説明いたしましょう」
あのね、何も着てない人がズズイって音が聞こえる程近くに来ないで欲しいんだけど。
あと、オレがハガネに覆いかぶさってるの気にならないの?
腕がプルプルしてるんだけど。
「ハガネ、戻りなさい」
彼女は、ハガネに息を吹きかけた。
「は、はい」
ハガネはたちまち剣に戻りオレの周りをフワフワ漂っている。
「魔力を通しやすい武器や防具、宝玉の類い。
そういった道具(モノ)が長い年月を経て魔力を帯びるうち神格を得ることがあります。
それが、我々【九十九神】です」
彼女も自分の頭をトントンと叩くと剣に戻った。
ソフィアが持っていた聖剣だった。
――我々聖剣や魔剣、伝説級の武具たちは大抵神格化しています。もちろん、最近作られたものは別ですが。
テレパシーのような形での会話だが慣れると気にならない。
――もちろん、神格化といってもいろんな段階があります。知識だけ、意識だけを持つ場合、意識と知識と精神を持つ場合、そして――人に変化できる場合。
また、ヒト型に戻る。
もちろん、何も着てないぞ。
「私はもちろん後者です。人に近いほど、神格が高いのですよ」
顔に褒めて褒めてと書いてあるので、頭を撫でてみる。
ハガネも勝手に少女に戻っていて、頭を差し出してくる。
「あのな。
褒めてあげるから服を着ろよ」
「はーい」
ハガネはいそいそとオレがあげたローブを着る。
「服ですか、鞘以外のものに押し込められると恥辱をかんじるのですが」
あのな、お前がその格好で出歩くと、オレが恥辱を感じるんだけど?
なんとかかんとか言っているので、オレがオリガからひん剥いたローブを渡してあげる。
「早く着ろよ」
「服って、何であるんでしょうね。
私たちは熱くも寒くもないのに」
どうやら着る気がないようだ。
「つべこべ言うなら剣に戻ってもらうぞ」
オレは強制的に剣にしたりヒト型にしたりできるみたいだからな。
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