富士川三希

長崎県出身。2022年から小説の勉強を始めた、ふじかわみきです。 文章を書く仕事に就き…

富士川三希

長崎県出身。2022年から小説の勉強を始めた、ふじかわみきです。 文章を書く仕事に就きたくて前職を辞め、今は地方情報誌の会社でお世話になっています。 『星々』や『敗者復活文学賞12、13回』や『高橋源一郎の小説でもどうぞ』などに参加中です。

最近の記事

【1分で読める小説】シロクマ文芸部「変わる時」『引き返せない気持ち』

変わる時は一瞬だ。気が付いたら変わっていて、いつからそうだったのか、元からそうだったのではないかと思いを巡らせ無駄に終わる。 駅のロータリーに出ると、併設されたパン屋から香ばしい匂いがした。とたんぐぅと小さくお腹が鳴る。 一本早い電車で来たし、買っちゃおうかな。 いや、と思い直し、直樹は先にスマートフォンのマップアプリで涼花に教えられた住所を確認した。 D大学前駅南ハイツ。 左手のロータリーの切れ目の先に横断歩道があって、その奥にグレーの六階建てアパートを認めた。彼女

    • 【3分で読める小説】シロクマ文芸部「始まりは」『魂の守護者』

      ※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 始まりは、一冊の本だった。 書類整理がひと段落した笹城アンナは、研究室を出て足早にラウンジに向かった。本日三杯目のコーヒーになるが気にしない。 コーヒーを一口飲み下し小さく息を吐きだすと、窓の外に目をやった。木々の緑が眩しく輝き、数人の学生が笑いながら陽の下を歩いているのが見える。窓の外と内では流れる空気と、時間さえも違うようだった。 アンナはひどく緊張していることを自覚していた。この後の作業の事

      • 【1分で読める小説】シロクマ文芸部「梅の花」『春待ちこがれ』

        「梅の花のほうが好きだわ、わたし」 何と比べて、とは彼女は言わなかったけれど、その視線は蕾のままの桜に注がれている。 「長い間咲いているんですもの」 その言葉の割に、彼女は桜から視線を逸らさない。いつ花開くのかじっと待っているようでもあるし、そわそわしているようでもある。ほんの少し諦めも交じっているようにも感じるけれど、はて、何に対する諦めなのか。 「とても暖かい春がありまして、この姿でお会いしたことがあるんです。一度きりですが。……とても綺麗で、聡明そうなお方でした

        • 【5分で読める小説】シロクマ文芸部「布団から」『はい、出来上がり。』

          布団からもぞもぞと右手を出し、ペタペタとヘッドボードを触る。ようやく右手が体温計を見つけた頃には、どっと疲労感が溜まっていた。 脇に差し、しばし低い天井を見つめる。ピピピ、と鳴った体温計の表示を確認しておれは溜息をついた。一日寝てようやく三十八度。 ベッドから出たくない。 けれど小さく、ぐぅとお腹が鳴った。カーテンの隙間から射しこむ西日が眩しくて顔を顰める。 大学生になって初めて風邪をひいた。何もかも億劫に感じるが、自分が何もしなければどうにもならない。もちろん飯も出

        【1分で読める小説】シロクマ文芸部「変わる時」『引き返せない気持ち』

          【10分で読めるインタビュー記事】小学生ゴルファー・瀧田琥白(たきたこはく)くんの軌跡

          2023年10月22日(日)に行われた、『第17回JLPGA全日本小学生ゴルフトーナメントinふくしま』高学年男子の部/個人の部で、小学6年生の瀧田琥白くんが優勝した。 試合では両親がハラハラと見守る中、ピンチをピンチとも思わない堂々としたプレーで、7アンダーという2位に3打差をつけるスコアをマークした。 彼は常に先の事を考えたプレーしている。その日の自分のコンディションに合わせてクラブを選び、自分の得意な距離になるように1打目を調整して打つなど、小学生とは思えないコースマ

          【10分で読めるインタビュー記事】小学生ゴルファー・瀧田琥白(たきたこはく)くんの軌跡

          【5分で読める】#シロクマ文芸部「振り返る」『風が吹く』

           どこかに避暑地はないものかと香苗は振り返った。こめかみから流れ落ちる汗を拭う。  校庭を囲う様に生えた木々の陰は、応援に駆け付けた保護者たちで満員だった。加えて、木陰を形成する葉はぴくりとも動かない。  体育祭である今日は、昼前にも関わらず容赦ない日差しが降り注ぎ、生徒たちの体力を削っていた。香苗が控えているテントの下でも、生徒がぎゅうぎゅう詰めの中、体操服の襟元をつまんで揺らしたり、手で顔を扇いだりしている。身に着ける赤の鉢巻すらも、目に暑さを訴えかけていた。  香苗は

          【5分で読める】#シロクマ文芸部「振り返る」『風が吹く』