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#12 「シンプルが強い」理由(後編)

こんにちは。グラフィックデザイナーの安村シンです。

先日、シンプルが強い理由を考察する記事を書いたのですが
ざんねんなシンプルの例を挙げることに注力して、肝心な「なぜシンプルだと強いのか」という結論を書き切れませんでした。

そのため今回は、後編と称してシンプルが強い理由に改めて迫っていきます。


前回のまとめ

前回の記事では、真っ白なノートを例に挙げて「弱いシンプル」の話をしました。

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左のただ白いだけのノートは、表現こそシンプルですが何の意味もありません。

ここに魅力を加えるとしたら、たとえば「新生活、新しい習慣を始めよう」というメッセージを乗せて展開してみます。このメッセージを乗せたものなら「白」のノートにも意味が出てきて、魅力が増してきます。

表現がシンプルなだけの「シンプル」では何も伝わってきません。ですが、そこに意味が込められた「シンプルな表現」魅力的なものとなっていきます。

なぜなのでしょうか。


デザインは「情報のキャッチボール」

「言葉のやりとり」は、よくキャッチボールに例えられます。
同じくデザインもコミュニケーションの1つで、じつは受け取り手に対してメッセージを伝えることをしています。

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(↑届け!メッセージよ)

しかし、当然ながら1つのデザインを作るのには、バナーしかりフライヤーしかりお金も労力もかかります。せっかくならたくさん伝えたいという気持ちが湧いてくるのが自然なことです。

そうして、たくさん伝えたい!という思いだけで、いろんなメッセージが混在したデザインが出来上がると、こんなふうになってしまうことがあります。

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(↑む、むりだ)

これでは、情報を受け取る人も困ってしまいます。
消費者目線で考えると、複数のボールを全部とるのは大変です。
これが広告やパッケージのデザインであれば素通りされてしまう恐れもあります。

いくら意味の込められたデザインでも、同時に投げるものが増えれば増えるほど、受け取り手にとってはストレスとなります。

ひとつのデザインには、1つのメッセージ。
それが、伝わりやすいデザインの原則と言えそうです。


一番大切な「何を伝えるか」

それでは、メッセージを1つに絞ってみましょう。

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いろんな要素のなかから、1つを選びました。
これでワン・メッセージの誕生です。

これは、非常に受け取りやすいメッセージで、とてもシンプルです。
しかし、情報量がとても薄く、みた人にもあまり発見がないため「ふーんそうか」と流されてしまいます。

ここで鍵となるのが、要素をより大きなくくりに置き換えることです。

要素をよくよく分解していくと、共通する部分が必ずあります。「これとこれは似ている、要は〇〇ということ」などと、共通項を探り一言で表す。または「これって結局、例えるなら○○みたいなもの」と別のひとことに置き換える。

そうして新しく生まれた1つの要素をメッセージとして選んでみたら、こんな風になります。

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(↑大きくなった)

これを最初のノートの例で説明します。
はじめは「白」という要素だけを投げようとしていたところに、より広いくくりで「始まり」という言葉を選びました。ノートは始めは何も書いていない。紙は白い。白は純白やまっさらな状態を意味する。だれも踏んでない雪景色のような。
そこに、「新生活・新習慣」の意味も込めることができました。

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要素を「始まり」にすることで、よりたくさんのメッセージを含めることができました。
(より多くの意味が含まれるメッセージを選ぶ。これはコンセプトを決めることとも言えます。)

そこで、
もし、伝えたいメッセージをたくさん含んだくくりが見つかったら・・・

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(↑こんなに含んでいたら、、、!)

これこそが強いシンプル」の正体です。

これだけ要素が詰まっていれば、たった一つのメッセージを受け取るだけで、いろんな意味が感じることができるはずです!

すごい!

さっそく、この強いシンプルなメッセージを投げてみましょう!

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(せいっ!)

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(…!!!!!)

ボールを受け取る人は、難なくキャッチすることができて、そこからたくさんの意味を感じ取ることに成功しました。

シンプルがよいのは、メッセージが受け取りやすいから。
それが効果的になるのは、そこにたくさんの要素、意味が込められているときです。

効果的なシンプルを生むためには、いかにたくさんの要素に共通するくくりを見つけ出すかが勝負です。そしてその作業が、最も難しいのです。

果てしなく難しい、おおきなくくりを見つける作業。
それを経て生み出されたものが「いいシンプル」だと思っています。

そして、いいシンプルは、強い!


おわりに

いかがだったでしょうか。

昨今の世の中では、「シンプルがいい」という言葉が濫用されています。

この言葉はとても簡単なのですが、使い方を間違えればメッセージ性のうすいシンプルが増えてしまったりもします。

身の回りで「シンプルだ」と言われているものは、
きっと、作り手たちの途方もない労力のすえに生まれた、強者たちばかりのはずです。視点を変えて見返してみると、意外な発見があるかもしれません。

(最後までお読み頂き、ありがとうございました!)

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