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#02 いいフォントって、なに?

こんにちは。グラフィックデザイナーの安村シンです。

今日は「いいフォントって、なに?」というテーマについて解説します。

まず、いい「フォント選び」はデザインの中でも特に難しく、これをマスターすればデザインの半分くらいは身につけられたようなものです。

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(フォント選びは、むずかしい。こちらは人気書体の「A1明朝」)


前提: いいフォントの定義

いいフォントはコレ!と決めるのは、非常に難しいものです。
個別にいいと思う書体はわりと簡単に言えます。ですが、個人に好き嫌いがあるように、デザインごとに最適な書体が替わってしまうのです。

そんな中で、多くのデザイナーは案件をこなしているうちに書体を選ぶのがスムーズになって行きます。

それはいつも同じフォント、ということは無くて
テーマに沿って適切なものを選ぶのが上手になっていくのです。

適切なフォントを選びとるプロセスにはある程度、共通項があるようです。
その共通項を探っていくことで「いいフォント」を炙り出していきます。


1.形状が整っていること

1つ目の条件として、形状が整っていることを挙げます。

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やや極端ですが、上の書体は形状が整っている書体の例です。

逆に下のような書体は「かなり場面を選ぶ」フォントだと考えています。文字を構成する縦棒・横棒・斜めやカーブの形にバラ付きがあり、それが文字の独特な味わいを作り上げています。

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こうやって比べてみると、左の書体は縦棒がスッと垂直に降りていて、
右の書体だと下部に向かって、すこし膨らんだような形状をしています。

左の書体のように、形状がある程度一定のものはクセが少なく、多くの場面で好まれます。スーツ姿で例えれば清潔感がある、みたいな印象です。
そうでない書体は、ちょっとクセが強いので好き嫌いが分かれやすく、多くの人に向けて発信するもの、いわゆるマス向けのデザインでは使われにくいです。

ちなみに私自身は、好き嫌いで言うと右のフォントが大好きです。
しかし実務ではなかなか使う場面がありません・・・。


2.いい既視感があること

二つ目の条件は、どこかで見たことがある感じ、既視感があること。

これは、手書きの文字で例えると分かりやすいです。
とても字の上手な人がいたとしたら、多くの場合、お手本みたいに綺麗な文字を書きます。

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上:上手な人 下:わたくしの文字です(普通以下と言わないで)

ここで分かるのは、私達の頭の中にはいつの間にか「キレイな字形」がインプットされているということ。目の前にお手本がなくても、手本に近いことが分かるからこそ「字がキレイ!」と感じることが出来るのです。

デザインで使われる書体も、これに似た現象が起きています。

好きなブランドや商品、番組やお店…。いたる所で、お手本となるような素晴らしいデザインに触れていて、その形をいつの間にかインプットしているはずです。
インプットした形に近いデザインを見たときに、私たちは「いいデザインだ!」と判断しているようなのです。

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その判断には、使用されている書体も大きく影響しています。

なにも「この書体は○○○のブランドで使われていたものだ」とまで思い出さなくても、誰もが日常の中でインプットした引き出しの中から「高級感があるな」とか「伝統を感じさせるな」という情報を瞬時に読み取っています。

これはデザイナーに限った話ではありません。作り手ではない全ての人たちを含む頭の中で起きている出来事だ、と考えています。

2.いい既視感 - ミニコラム「Trajan」

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例えばこちらは、西暦100年頃に完成したという、トラヤヌスの記念碑に使われた文字を元に作られた「Trajan」というフォント。
海外映画のポスターでも多用され、あの高級チョコレート「GODIVA」にも使われていることで有名です。
なんとなく伝統を感じる書体の裏には、歴史があります。

このように「いい既視感」を持つ文字は、「いいフォント」の条件となります。
逆に言えば、自分が気に入ったデザインで使われている文字を調べ、特定することができれば「いいフォント」を選べる可能性が格段に上がる、ということになります。

自分の好きを信じて、研究してみましょう!
Googleで「〇〇○ フォント」などと検索すると、意外と出てきたりします。


3.適切かどうか?

3つ目の条件。実はこれが一番大きな問題です。

上記2つの課題をクリアするフォントは沢山ありますが、デザインごとに最適なフォントは変わってきます。これが「フォント選びは難しい」最たる理由です。

実例を交えて説明します。
たとえば、2つの有名書体で「ほんとは怖い話」をデザインしてみます。

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どちらが怖そうでしょうか。

左は、いかにも怪談話が始まりそうです。
右は、マジで怖い話をするぜ〜という気概を感じます。

これは、なんと「どちらも正解」です。(ゴメンナサイ)

幽霊が出るような、うすら寒い怪談話をするのであれば、左。
もっとキャッチーな企画で、リアルな怖い話をするのであれば、右。(文字から血をたらせば完璧)

そこには絶対的な正義は存在せず、それぞれの特色に合わせて最適なものを選ぶ必要があります。

実際に仕事の場面でも、「これって内容的にはどっちの方向なの?」といった具合で2パターンを提案することが時々あります。
デザインの良し悪しではなく、ヒアリングに近い提案です。
はじめに確認できていれば必要がない工程ですが、じっくり考えてみて初めて気が付く時が、たまにあるのです。

どんなデザインにでも当てはめられる無敵のフォントは存在しません。

その都度、目的に合ったものはどれか?を考えて、最適な書体を選んでこそ初めて「いいデザイン」に近づくことができます。

「いいフォント」だけあっても、組み合わせ次第では「いいデザイン」は出来ません。しかし、「いいデザイン」には「いいフォント」が不可欠なのです。


番外.選択肢を狭めてみる

そんな身も蓋もないよ、と思われた方のために近道を考えました。
それは「あえて選択肢を狭めてみる」という方法です。

例えばモリワサパスポートをお持ちの方なら、ルールを決めて「明朝体はA1明朝、ゴシック体は中ゴシックBBB」などとして一回当てはめてみる。ハマらなかったらほかの書体を探す、といった「王道の書体」を試すことをルーチン化してみてください。

王道を試しているうちに、インプットも大きく変わってきます。生活のなかで自分の選んだフォントと出会うことも増えてきて、他のフォントを選んでる場合との差が見えてきたり。
そうして、作り手として飽きが出てくるほど慣れてきたら、他の王道を試し始めてください。
そうやって領域をだんだんと広げていくことで、素早く適切な、いいフォントが選べるようになったとき、デザインの仕事の幅が一気に広がります。


番外2.Adobe Fontsのオススメ書体

モリワサパスポートLETSなどの本格的なフォントセットを持ってない方に向けて、オススメ書体を紹介するnoteも書きました。
こちらも併せて参考にしてみて下さい。

Adobe Fontsのオススメ「日本語書体」10選
Adobe Fontsのオススメ「欧文書体」13選


以上、いいフォントってなに?でした。
noteにコメントを頂ければ、返答いたします。どなたでもご自由にどうぞ!

(最後までお読み頂き、ありがとうございました!)

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