不器用な先生 723
須田君の「要所要所で違う対処」という言葉に納得しながらも、それを受け入れるかはまた別問題のようだった。
『貧困と飢饉』を拾い読みしていたらしい池田君が、呟くような声を出した。
「救済対策が一つの方法で済むはずはないとは思うけど。貧困も飢饉も様々な事例があるんだから…」
そこにはそう言い切れないもの、満たされないものが潜んでいるのが、観えてとれた。
「救済対策は行政が考えれば良いことで、わたしたちは方向さえ示すことができれば良いんじゃないかな。それがわたしたちの理解の一つと言えないかしら」
このみの言葉に反撥はなかったが、それが結論になるのは短絡過ぎるという気持ちもあるのかもしれない。
幸太郎が言った。
「方向を示すことに、彷徨っているそれが今のぼくたちだから、このみが言うように簡単にはいかないじゃないかな」
幼馴染み同士の軽口を含めたものだろう。堅物の池田君は頸を傾げていた。須田君が言った。
「さまようことを、字にすると、ホウコウとなりますからね」
これには池田君も、笑うしかなかった。
「このみは行政が考えれば良って簡単に言ったけど、いまの行政がいろんな対策を細かく検討するだけに力があるといえるだろうか」
このみは、幸太郎に言葉を、しばらく考えていたようだが、それからこう言った。
「曽根さんが問題にしたのは、そこなのかもしれない。貧困対策そのものを私たちが考えるんじゃなくって、満足な貧困対策ができない現状を、みんなで考えてみたかった、そうかもしれない」
「もしかしたら、曽根君には具体的な提案もあるかもしれないしね…」
須田君だった。
須田君の言葉には、ぼくも同感だった。それがあるからこそ『貧困と飢饉』を、今日のテキストとして挙げたのではないか、そう思えてならなかった。
ノックがあった。曽根君だった。時間を見ると二時半を少し過ぎたところだった。
駆け足でここまでやってきたのだろうか。息切れしたような表情の曽根君だった。
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