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不器用な先生 724

前回

 幸太郎が曽根君を観ながら言っていた。
「安心して良いよ。貧困対策については具体的な話にまで進んでないからね」

 最初は幸太郎の言葉の意味をしばらく考えていたような曽根君だったが、安堵の表情に変わり始めていた。
「じゃあ先生も『貧困と飢饉』をテキストにすることに賛成してくれたんだ」
 このみが笑った。
「先生からは、賛成も否定も聞いてないけど、今日は最初からテーマも私たちに任せる予定みたいだったけど」
「それに先生も、『貧困と飢饉』を読んでいて、結論に疑問も持っているみたいだよ」
 須田君だった。言っていることに間違いではないが、ぼくの疑問はあまりにも漠然としているのが事実だった。ついさっき須田君も、漠然と言っていた…

 池田君に落ち着かないものが観えていた。それはデイスカッションの方向が観えなくなるといつも出てくる彼の表情だった。以前よりはかなり少なくはなってはいたが…
「曽根君には、結論… いやそうでなくて何かやるべきものが浮かんでいるんですか?」

 曽根君が微笑んだ。彼も池田君の性格をよく理解しているからだろう。
「ええ、言葉にするのは難しいけど、それなりことは考えています」
「難しくっても、なにか端緒になるものを言うことできないの。そうしなきゃ話が進まないよ」
 このみの言葉にも曽根君が微笑んで… いや吹き出しそうにしていた。

 息を整えてから、曽根君が言った。
「それぞれの事象に、それに適合した解決策を施していく、それが端緒です」
 四人が驚いていた。そして幸太郎が言った。
「そんなこと曽根君は実現できると思っているの? いまの行政が肌理細きめこまやかな対応ができるとは、とても思えないけど…」
 曽根君が、一同を睨むように言った。
「今のままでは、前島君がいうとおりだと思います。しかしビッグデータを検索可能にしていけば、いつかは実現できるはずです」

つづく

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