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「ポテンシャル昇格」に押し潰れそうになった話

社会人3年目になる4月1日より、昇格が決まった。名刺に何か役職を書き足せるわけではないものの、前よりちょっとだけ給料が上がる。

上長の話によると、だいたい5~6年目の人たちと肩を並べるぐらいのランクらしい。ポテンシャル採用ならぬ「ポテンシャル昇格」とのことで、まだ至らない部分はあるものの、今後を期待しての決定だそうだ。

大して実感できていない自分を前にし、「まだ3年目でしょ?このスピードは速いよ」と嬉しそうに話す上長を見て、これまでの感謝の気持ちがドッと押し寄せた。

今回の昇格は、上長から頂いたチャンスと支援が無ければ到底実現し得なかった。

中国語が出来るという特性を活かした仕事を振っていただいたおかげで、特に下半期からは中国企業をリサーチするメイン担当として認知されるようになった。「中国企業を調べさせたらこの子はピカイチだ」とお偉いさんに褒めていただけることもあった。

また、上長との二人三脚の中で作成してきた調査資料が、最終的に各関係会社に転送していただけるぐらいのクオリティーに仕上がったことが、入社して一番の成功体験になった。今振り返ってみると、ちょうど1年前に異動した頃に上長から言われた、「勝手に転送してもらえるような資料を目指そう」という目標を達成することが出来た。

優秀な人に囲まれ、自分の存在価値に悩み、どうやって自分の能力を発揮すれば良いか分からなくなった新卒1年目に比べて、2年目からは地に足をつけ、目の前の仕事に真面目に向き合えるようになってきたと感じている。悩んだところで劇的に変身するわけでは無い、と開き直ったと言う方が正しいかもしれない。

「即戦力が無理なら即雑用力を」と、率先して細やかな仕事を引き受けることで、少しずつ周りの人に信頼してもらい、「何かあったら聞きにいきますね」と良く言われるようになった。少しずつ自分が参加できる会議の幅も広がり、お偉いさんの前でプレゼンテーションをすることも増えていった。

こういったコツコツとした積み重ねが、もしかしたら今回の昇格に繋がったのかもしれないと思うと、自分の頑張りが報われた気がしてとても嬉しかった。少しずつ、自分の中で歓喜が大きく広がっていった。

「ポテンシャル昇格」の圧力

上長は、同時に次のランクを見据えたアドバイスもくれた。

『次のステージとして、日頃から「自分だったらどういうリーダーになれそうか?」と自分なりのリーダー像を頭の中で描きながら過ごしてほしい』

そして、「言われていることを完璧に遂行したり、仕事の質を上げていくだけでは、決してリーダーにはなれない。」と付け加えた。

形式的な役割分担と、それぞれのアウトプットをただ繋ぎ合わせる作業をしてきた自分からすると、少しドキッとする内容の話だった。今まで、視線を常に自分に向けてきた。自分の出来る範囲で尽力し、最大限のアウトプットができるように努力してきた。それではダメだと言う。

任された仕事の全体像を把握すること、合意形成(お互いが納得できる妥協点をすり合わせていくが、譲りすぎてもダメ)、メンバー各自の得意・不得意を見極めて役割分担すること、相手の立場になって質問すべき内容とタイミングを考える(と、自ずと質問の頻度は減る)......。

上長はたくさんアドバイスをくれ、「同じランクにいる先輩たちを焦らせてくれることを期待している」と励ましてくれた。

一つ一つの言葉が非常にありがたく、すべてメモに記録していった。しかし、豆腐並みの脆いメンタルを持つ自分の中で、自分の現状と期待されているレベル(および同じランクにいる先輩)との距離が目の前でどんどん広がっていく感覚を覚え、勝手にプレッシャーを感じ始めていた。

この1年間、息が切れ気味になりながら走り抜けてきた。「即雑用力」作戦は派手ではないものの地味に体力を消耗し、自分の中でキャパオーバーになりかけたこともあった。

そんな背伸びが「ポテンシャル昇格」に繋がったのは非常に嬉しかったが、4月1日からは現状がもはや当たり前と見なされ、更なる期待と責任が待ち受けていることに不安と恐れが芽生えた。

なによりも、ランクを気にせずに自由気ままに楽しく仕事をしてきた前とは異なり、これから「競争」に臨むことになるのかという考えがよぎった。

昇格さえも悲観的になる、こんなにも弱い人間。自分の外側に分厚い鎧が出来たような、胸が少し押されて呼吸がしづらい感覚を覚えた。

「あなたの欲を捨てなさい」

しかし、幸運だったのは力強く言葉をくれる母がいたことだった。不安を打ち明けると、母は「欲を捨てなさい」と一蹴した。

「あなたの場合は、欲というよりも向上心だろうけれど」とフォローを入れながらも、バッサバッサと煩悩を切り捨ててくれた。

理想を追い求めるあまり、自分の中であれをしたい、これが欲しいとどんどん現実と離れていってしまっている。欲は捨てなさい。欲が大きくなると、あなたの智慧がその下に隠れてしまう。今のまま、真剣に仕事に向き合いなさい。
決して誰かと競おうとしないこと。常に周りの人の長所を見続けなさい。そして、その長所から学ぶこと。誰かの短所を見たところで、自分が不幸になるだけだからね。

そうか、今のまま頑張れば良いのか。

母の強い言葉を聞いていると、次第に自分の胸に乗っかっていた重たい何かが軽くなっていくのを感じていた。今思うと、背伸びをしすぎて倒れる前に、母に助けを求めてよかったと心底思う。

誤解が無いように言うと、課長からのアドバイスの数々は本当に有難く感じている。しかしそれを完全に受け止める器がまだできていなかった。

そしてその器は、なにもすぐに大きくなるものではなく、これまで通りに着実に進むことでしか得られない成果であることを忘れていた。

4月1日は、何か新しく自分が生まれ変わるわけでもなく、これまでの延長線を歩くだけ。また、小さな成長を続けていくだけ。これをよく頭の中に入れ、「新卒ver3.0」として日々を過ごしていこうと思う。

最後に

今回もまた自己満足な投稿を読んでくださり、誠にありがとうございます。最後までお付き合い頂いたあなたに、最近読んだ中で面白かった本を紹介します。

『Learn Better』という、学びそのものをどうやって最大限に活かせるかを研究した本です。社会人になってからはどんどん分からない世界が広がり、勉強が全く追い付かないのですが、この本を読んだことで少しだけ効率が上がったと感じます。

たとえば。

自分が実行していることを振り変える(内省する)時間を設けるだけでなく、誰かに「peer review」として自分の行動をフィードバックしてもらうことで、自分の間違った理解を正してもらい、より正確に自分を把握できるようになりました。(その結果として、意外にも自分が「気遣い上手」であることを認知し、「即雑用力」作戦にシフトすることに繋がりました)

より小さなテクニックで言えば、仕事の最中にBGMをイヤホンで聴くことをやめたおかげで、意外にもグッと深く集中して考えられるようになりました。(頭の中のリソースを節約できるのは考えればわかる話ですが、どうしてもBGMがある方が集中できると思い込んでいました)

この本は分厚いけれども読みごたえがあり、かつ翻訳も良いので一度読んで実践してみることをお勧めします。もしかしたら何か収穫を得られるかもしれません。

それでは来週からも頑張りましょうね。


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