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『サピエンス全史』を読んで考える「安定」の在り方(15/50)

「ベンチャー企業って安定していないのでは?」という疑問をよく聞きます。一口にベンチャー企業と言っても色々ですが、ベンチャーの定義を「冒険的な事業創造を行う企業」だとすると、確かに「安定」という言葉からは遠いような印象を受けるかもしれません。一方で、バブル崩壊やリーマンショックなど、いわゆる安定していると思った企業が破綻した事例も珍しくありません。そんな中で、安定を経済的自立だと仮に定義した時、学生の皆さんはどのように考えて就職先の企業を選定すれば良いのでしょうか。

今回は、ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』を考察しながら、この問いに対する1つの回答を考察していければと思います。

『サピエンス全史』は、人類がいかに進化し、今後どのような方向に向かっていくのかを書いた壮大な歴史書ですが、ビジネスの考察としても高い評価を得ており、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグが絶賛しただけでなく、日本においても2017年にビジネス書大賞を受賞しています。

本書によると、先史時代より、人類は興味を起点に文明を発達させてきました。噂話をするために言語を発達させ、世界地図を完成させるために植民地支配が強化され、テクノロジーへの興味が産業革命を引き起こし、ひいては資本主義の発展に繋がってゆきます。

「社会」が政治、経済、文化など、様々な要素が合わさって形成されていますが、私はそれぞれの要素は相関し、渦のような流れを作っているのだと思っており、その渦の中心が人間の興味なのではないかと仮説を立てています。多くのコンサルティング企業やシンクタンクが数十年単位で世界情勢の分析や予測を行っていますが、社会はセグメントされたデータの集合ではなく、我々人類の興味を起点にして巻いた渦のようなもの。つまり、我々人類の興味がいかなる方向を向くかによって社会が決定されているのだと私は解釈しています。

これは現代の様相だけでなく未来についても同じです。人工知能革命がやってくるだったり遺伝子領域におけるビジネスが台頭するだったりと、巷では様々な予測が立てられています。これら2つは、数10年にわたってパラダイムシフトを起こしてきた領域ですが、それらもまた「計算機に思考を与えられるのか」だったり「より安定的に食料供給ができないか」だったりの興味を起点に成り立ちました。

唯一私たちに試みられるのは、科学が進もうとしている方向に影響を与えることだ。私たちが自分の欲望を操作できるようになる日は近いかもしれないので、ひょっとすると、私たちが直面している真の疑問は、「私たちは何になりたいのか?」ではなく、「私たちは何を望みたいのか?」かもしれない。

興味を起点とした社会の渦は時を経るごとに加速し、1年前に流行ったことを忘れている、今はそんな時代です。つまり、どこまでいっても予測には限りがあるわけで、評論家的に時流を読み、安定するだろうという領域にピンを指すように業職種を選ぶのは、特にこれからの時代においては時に想定を覆すような形になることもあるでしょう。安定した場所に自らを置こうとした時、何かに守られながら部外者でいられる時代ではないというわけです。小さなものから大きなものまで渦が生まれては消えて行くこの世の中で安定した足場を築くには、自らが中心となって、小さなものでも良いから渦を生み出し続ける必要があります。この”渦を生み出す”、つまり自分にしかできないことを見つけるという行為が、他の流れに飲み込まれずに自らを守る方法であり、つまりどのような状況下においても価値を発揮し、経済的に自立する方法を指すのだと思います。

そのために大事なことは、やはり好きを追及することなのではないでしょうか。自分は何が好きで、どういう場所であれば頑張ることができ、自分で渦を作れそうなのか。自己分析を行う時に、このような問いかけをしてみてください。最良の選択とは、往々にしてシンプルです。好きを選び、信じること。どんなことがあっても、携わった仕事をモノにするのだという気概を持って取り組んだ結果が、後に「安定」となって自分自身に返ってくるのだと思います。


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