文学は超役に立つ

文学は役に立つか?と問われれば、「無茶苦茶役に立つ」と私は考えている。文学ほど人間を描いているものはなかなかないから。面白い文学であればあるほど「なるほど、人間はこのように思考し、行動するものなのか」と学ぶことになる。人間は理屈通り、理論通りに動かない。文学はそれをも描く。

ゲーム理論などで見直しが始まる前の経済学なんか、それはそれは浅い人間観で捉えていた。「いやいや、人間はそれだけでは動かんて!」と思うのに、非常に乱暴粗暴な捉え方をしていた。しかしよくできた文学は、人間の矛盾した思考、行動さえも描き出す。人間描写は文学がいちばん。

心理学は学問として人間を研究してるわけだけど、科学の体裁をとるため、どうしても単純化する必要がある。個々人の心理の細かな綾を描くまでは難しい。しかしよくできた文学は、心理学か描かない心理まで細かく描写する。人間心理を学ぶには、よくできた文学のほうが断然学びになる。

無論、文学にはピンキリがあって、「いや、その場面でその心理はあり得んって!」と思うような作品もしばしば。だから私は若い頃、最近の作家のものはあまり読まないようにしていた。歴史の荒波に揉まれていないものはハズレも多いと考えたから。100年生き残ったものはやはりよく描けている。

人間を学ぶなら、文学が一番だと思う。人間を学ぶことほど、有益で面白い学問もなかなかないのては。文学は、役に立つか立たないかという問いを嫌うけど、堂々と「人間を知ろうとすることが何で役に立たないものか!」と言えばよいのに、と思う。

心理学を学ぶにしても、学問としての心理学は背骨とあばら骨みたいな骨格だと考え、肉付けは文学にしたほうがよいように思う。どうしても心理学は極端なものを扱いがちで、日常心理を学ぶことが難しかったりする。他方、文学は人間を描くことに関して豊穣。

人間を学びたければ、文学を読めばよいのに、と思う。だから文学は無茶苦茶役に立つ。役に立つものしか学びたくないという人は、それこそ文学をどんどん読み漁るとよいと思う。人間を深く理解できる。このことほど、役に立つことはそうそうないのではないか。

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