「楽しそう」を実現するのはどちらの陣営か

ヨーロッパは本気で「ゲームのルール」を書き換えようとしているな、と感じる。石油をはじめとする化石燃料の資源国に主導権を与えない世界への変貌。ウクライナ危機は、ルールの書き換えを加速させることになるかもしれない。
https://mainichi.jp/articles/20220312/k00/00m/030/023000c

プーチンは恐らく「そうは言っても石油や天然ガスが欲しかろう」と、ヨーロッパの足下を見ていた。ロシアは食糧も肥料も輸出する国。ヨーロッパはかなりそれに依存していた。ウクライナに強行な姿勢をとっても、結局はロシアに頭を下げざるを得ない、と。

しかしアメリカと共同で脱ロシアの方針を鮮明に。エネルギーでロシアに主導権をとらせない本気度が窺える。かつて東西冷戦の時、ソ連が国際経済から比較的切り離されていた時代にもなんとかなった実績があるので、ロシアを切り離してなんとか乗り切ろうと腹をくくったのだろう。

ここでもしロシアに弱腰を見せたら、恐らく世界の潮流は民主主義から離れ、「強いリーダー」による専制的、独裁的国家が世界中に現れることになるだろう。そうなれば、世界は協調よりも戦いやいさかいを好む環境に変わってしまう。独裁者は外に敵を作りたがるからだ。

ナポレオン三世は自らの人気に陰りが見えると、外国にケンカを売って戦争した。戦争を始めれば負けるわけにいかないから、リーダーを簡単にすげ替えるわけにいかなくなる。そうして自分の権力が維持されるようにし向けていた。独裁者は外に敵を作り、自国での権力維持に利用する傾向がある。

もしヨーロッパが弱腰を見せ、ロシアがまんまと意図通りの成果を上げれば「これからはやっぱり独裁だよね、強いリーダーでないと国を守れないよね」というメッセージを世界に伝えることになり、世界中に独裁が発生、外国にケンカを売りまくる国ばかりになる恐れがある。

すると、環境問題どころではなくなる。「隣の国が気に入らない」と敵を作り、戦争ばかりになって、環境への配慮なんか吹っ飛ぶ。では、それで構わないかというとさにあらず。環境問題も大きなリアル。沈没船の中で主導権争いに明け暮れるケンカしてるようなもの。

人類をなるべく多めに、そしてなるべく幸福な形で存続させる社会を実現するには、戦争ばかりの世界にするわけにいかない。そのためには、エネルギーで足下を見、軍事力で現状変更を企む国を封じ込める必要がある。ヨーロッパやアメリカは新しい戦い方を実験しつつあるように見える。

ジャレド・ダイヤモンド「文明の崩壊」にあるように、孤立した集団は学習機能が低下し、文明を維持できなくなる傾向がある。ロシアを徹底して孤立させる戦略は、戦争をせずして力を弱める新たな戦法だと言えるように思う。

ただ、ロシアは小国ではない。日本以上に人口がある。資源も豊富。食糧も豊富。欧米憎しで中国とも関係が良好。そして中国は世界一の人口。一つの経済圏を作れる可能性はある。
ただ、中国やロシアの国の体制を羨ましいと思うかどうかは別。支配欲のある人は羨ましいだろうが、庶民としてはどうか。

求心力を持つのは結局、どちらの方が幸せに国民が生きているか、で決まるように思う。幸せを競い、幸せを実現した陣営が、次の時代の主導権を握ることになる。ロシアと中国がそれを実現するのか、日米欧がそれを実現するのか。世界の帰趨がそれで決まるように思う。

東西冷戦の時も、西側陣営が勝ったのは、「幸せ競走」で勝ったからだ。東側はいつまでたっても幸せを感じられず、西側は楽しそう。ベルリンの壁が壊れ、ソ連が倒れたのは、「楽しそう」へと雪崩れ込みたい国民の感情が抑えきれなかったからだ。

第二次世界大戦からしばらくは逆だった。少なくとも外見上は共産主義の国に住む人達は幸せそうで、資本主義の陣営では庶民が虐げられている感があった。このため、次々と共産化するドミノ理論が信じられていたほど。「幸せ」が魅力となり、国の勢いを決めていた。

資本主義陣営はこれを反省し、ケインズ経済学に基づき、再配分を厚くし、国民全員が比較的豊かに生きられる社会を目指した。それにより、共産主義と差をなくした。その上で自由を大切にし、共産主義よりも「楽しそう」を謳歌できる社会の実現に成功した。

ところが、共産主義が倒れた後、西側陣営の金持ち達が油断した。「もうこれで共産化する心配はない、金持ちが全財産を没収されたり、虐殺されたりする心配はない」とたかをくくり、自分たちの懐が温まる政策を次々実現する方向に走った。タックスヘブンに財産を移し、株主資本主義にシフトし。

かつての西側陣営は、格差が拡大し、貧しい人が生活に苦しむ空間に変わった。他方、かつて東側とされたロシアや中国が豊かになり始めた。格差が大きいという意味では、かつての西側も東側も大差ない社会になってしまった。むしろ旧東の方が成長の勢いがあり、「楽しそう」にさえ映る。

専制的独裁的国家が魅力を増し、かつての西側陣営が勢いを失っているのは、国民を幸せにすること、楽しそうな国にすることを怠ってきたからだ。いくらインターネットが普及し、SNSで楽しめても、今日の食事にも事欠く貧しい人達が多い社会では、魅力を大幅に失う。

旧西側の権力者やお金持ちは、自らの権力やお金を肥え太らせようとし続ければ、いずれ独裁的政権にとって代わられ、国民の恨みを背景に全財産没収や虐殺される憂き目にあわないとも限らない。その恐怖に気づいた欧米は、格差の解消に本気で着手し始めている。もう一度、幸せで楽しそうな国へ。

日本もそれに追随できるか。日本はどうもこのところ、プーチン的独裁や北朝鮮的独裁に憧れる人達が政権の座につく状況が続いていた。欧米の動きと逆行する流れが続いていた。岸田首相は久しぶりにそこから逸脱した思想の持ち主になっている。しかし、運営は容易ではない。

食糧やエネルギーの取り合いになる中、「幸せ」や「楽しそう」を演出するのは、難しい。寒すぎれば凍え、食べなければ飢える。幸せは生活の最低限を保証されないと難しい。急激にロシアが旧西側経済圏から切り離されて、果たしてそれが実現できるのか。

バイデン大統領が高齢で動きが鈍く、アメリカで人気がないのも気になるところ。このタイミングで共和党が勢いを増し、バイデン大統領の足を引っ張るようになれば、ヨーロッパと協調した動きをとりにくくなる。世界の趨勢が変わってしまう恐れがある。

独裁政権だらけ、戦争だらけの国になるか、旧東側と旧西側に別れはするが、幸せ競走をすることができる世界にもっていけるか。
私達の世界は、いままさに岐路に立たされている。ウクライナ問題は、世界史の流れを決めることになるだろう。

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