先進国の農家は人口の1%、なのに98~99%の非農家が農業補助金OKするのはなぜ?

日本の農業はGDPの1.0%。そして農業人口は全人口の1.3%。ということは、他の産業と比べて農業は3割ほど売り上げが低く、稼ぎもその分少ない、ということになる。
アメリカの農業はGDPの1.14%。農業人口は1.0%。ということは、アメリカは他の産業よりも14%多めに稼いでいるということになる。

フランスの農業はGDPの1.37%。農業人口は1.14%。ということは、フランスの農家は他の産業よりも20%多く稼いでいることになる。
アメリカやフランスは大規模農業だから、他の産業よりも儲かる、ように見える。ただし、注意が必要なのは、この2国には所得補償があるということ。

政府からの補助が農家の所得に占める割合は、日本は15.6%、アメリカは26.4%、フランスは90.2%。アメリカは日本の約1.7倍、フランスは約5.8倍の補助金をもらっている計算になる。アメリカやフランスの農家が、他の産業よりも儲けているように見えるのは、補助金による所得補償があるからかもしれない。

ということは、アメリカやフランスは、農家が他の産業よりも所得が多めになることを、国民が了承しているということ。工業とかサービス業で働く人たちが払った税金が、農家の手に渡ることを承認しているということ。他方、日本では「稼がないくせに補助金もらいやがって」と農家バッシングが激しい。

日本では、GDPのわずか1%しか稼がない農業に補助金を出すのはおかしい、という記事が出たりして、農業バッシングがよく起きる。しかし繰り返すが、世界一の農業国であるアメリカでさえ、農業はGDPの1.14%、フランス農業は1.37%と、日本と大差ない。「GDPが小さいから」という批判はちょっと不思議。

「では日本もアメリカやフランスと同じように所得補償しよう」という話にしようとすると、実は、アメリカやフランスと違う事情を日本は抱えている。農家が多すぎることだ。

日本の農業人口は152万人、フランスは77万人。フランスは日本の半分しか農家がいない。それでいて耕地面積は5倍。一人当たりの耕地面積が日本の農家の10倍ある。これだけ耕すと、1農家の売り上げはそれなりになる。しかし日本は1/10の面積しかないから、1農家の売り上げが小さい。

売り上げの大きい農家に所得補償する場合は、所得補償額も小さくて済む。しかも農家の数が半分なら、頭数が少ないから、所得補償の総額も小さくて済む。しかし日本は農家の1件当たりの売り上げがどうしても小さくなり、農家の数が多い。だから所得補償しようとすると巨額になる。

農家の数がもっと減らないと、所得補償の制度をフランスやアメリカのように導入することが難しい。農家の数が減れば、1件当たりに所得補償を厚めにすることも可能になる。日本の農政が、大規模農業推進に傾いているのは、そうした理由もあるように思われる。

ただし、農家に所得補償する政策は
・大規模農業でどれだけ生産を維持できるのか?
・農業以外の産業で働く人たちが、農家に所得補償することを了承してくれるのか?
ということが課題になる。もし非農家の人が「なんで農家ばかり優先するのか」と不満を持てば、所得補償は難しくなる。

それに、大規模農業で本当に生産力を維持できるかどうかも課題になる。傾斜のきつい、平地とは言えないような場所を中山間地というが、そこにある耕地面積は184万ha。日本全体(約435万ha)の42%を占める。こうしたところは細切れの田圃を耕さねばならず、効率化が難しい。

アメリカやフランスのように、だだっ広い平野が少ない日本では、大規模農業に適している平野部が少ない。しかも平野部は、農業以外の産業に転用されることも多い。大規模農業は、全国展開できるとはいいがたい。地域による。

中山間地を全部切り捨てればいい、という意見もあるかもしれない。しかし中山間地を放棄すると、山林の面倒を見る人がいなくなる恐れがある。そうなると、その下流に位置する平野部の人たちも、水害などの諸問題を抱えることになるかもしれない。

国土を維持するための費用は、仮に中山間地の農業を見捨てたとしても、発生することになるだろう。中山間地の環境を維持するには、一定の人たちがそこに存在してもらったほうがよいかもしれない。そのための費用を負担する必要が、都市住民にも理解してもらう必要が出てくるかも。

課題は、アメリカやフランスのように、農業に厚めにお金を投じることのコンセンサスを日本で得ることができるかどうか、だろう。日本はどうも、農業を他の産業と同列に並べて、補助なしで競争させるのがスジだ、という議論が起きやすい。しかしアメリカもフランスも、その他先進国も、そんなことない。

食料安全保障は国の安全保障の肝だ、というコンセンサスが先進国にはあり、アメリカとヨーロッパ先進国はいずれも、農業に多額の補助金(所得補償)を出している。なぜ欧米ではそれができるのだろうか?そして日本はなぜそれができないのだろうか?

日本は欧米と比べると農家がまだ多いとはいえ、かつての政治力を失っている。第二次大戦後が終わったころ、国民の4割以上が農家だった。その後、農家はどんどん減っていったが、都市住民の多くが元農家だから、農業票はものすごく存在感が大きく、政治力も絶大だった。

しかし今は、農家はわずか152万人と、全国民の1.2%しかいない。98.8%は非農家。親戚に農家がいない、という人も増えた。農業に一切縁のない人が多い。そんな中で、「農業は食料安全保障の要だから、補助金多めにしましょう」といっても、なかなかコンセンサスが得られにくい。

しかし、フランスやアメリカだって、事情は同じはずだ。フランスは、農家は全人口の1.14%しかいない。アメリカは全人口の1.0%しかいない。98~99%が非農家。なのに、農業に多額の補助金を出すことを了承してもら得ている。なぜだろう?残念ながら、この点は私も調査不足。

欧米でも、農家は人口の1%強しかいない。それでも98~99%の非農家の人たちの同意を得て、税金を農業の支援に回すことに同意を得られている。しかし日本ではそれが難しくなっている。このズレをどうすれば解消できるのか。私も知恵がない。みなさんのお知恵を拝借したい。

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