マジにスマート馬耕、牛耕を!
ツイッターなどで「スマート馬耕や牛耕を研究すればいいのに」とつぶやいたら、「今やろうとしてるところ」と驚くべき連絡が。これまた驚くべきは合田真さんからだったこと。合田さんはモザンビークで銀行口座を持たない人たちに決済手段を開発した人として有名な方。
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これは一度現場を見せて頂かなくては!と、新潟県のまつだいに。まさか馬による代かきを実体験させて頂けるとは思わなかった。右の手綱を引けば右に、左を引けば左に曲がってくれる。初めてなので余裕はなかったが、初心者の私でも一応は操作できることに驚いた。何より「馬力」の凄さに驚いた。
機械による代かきを見たことがあるが、馬の田んぼ内での走行スピードはかなり速い。みるみる水田がならされていく。人力ではこうはいかない。踏み入れてみると新潟の重粘土質で足が抜けない。歩くことなんかできない。しかし馬はガンガン進む。その推進力に驚く。機械ではハマって動かなくなる水田で。
これほど強力な動力が「草」で動くというのが衝撃的。拙著「そのとき、日本は何人養える?」で、バイオマス燃料の非効率性を指摘した。草からバイオエタノールを作ると、作るためにかけたエネルギーが余計に必要で、むしろエネルギー的に赤字になる。草で動力を動かすなんて非現実的だと考えていた。
しかしそれは「エンジン」を前提に考えていたから。エンジンを動かそうとすると、石油(ガソリンや軽油)に代わる燃料を作り出さねば、と考えていた。しかし草や木材などの植物をバイオエタノールなどの燃料に変換する効率も、エンジンで燃やす効率も悪くて、私は絶望視していた。
そこで私は、冒頭に書いたように馬耕牛耕を復活させてはどうか?と考えた。しかしどうせなら自動制御する技術を組み合わせ、スマート馬耕・牛耕を、とつぶやいたわけ。でもこのアイディアを実現しようにも、そもそも馬耕のできる人材消滅してるやん!という致命的問題が。
正確には、人材が消滅したわけではない。現在80代の農家は、馬耕や牛耕の体験がある人たちが。技術はその人たちの身体に染み込んでいる。しかし、あまりに高齢過ぎてそれらを実践する体力はない。それに、若い人で馬耕を復活させようなんてバカなことを考える人がいるとは思えない。
それに、もう一つ致命的な問題が。馬耕や牛耕に適した馬や牛をどう見抜くのか?見抜けたとして、どう調教すればよいのか?それが皆目見当つかない。
考えれば考えるほど、馬耕や牛耕を復活させることは不可能、荒唐無稽な考え、所詮思いつきでしかない絵に描いたモチに思われた。ところが。
それを復活させようとする若者がいた。しかもその人は「天才」だった。
岩間敬。実家が牛を飼い、近隣には馬を飼ってる農家もいる遠野で育った(柳田国男の「遠野物語」で有名)ためか、大好きな馬と共に生きたいと二十歳で決心、馬を育てるようになった。
馬は昔、どんな険しい山道も木材を引いて運ぶ馬搬という仕事をしていたと知り、昔それを仕事にしていた高齢者を捕まえて師匠とし、その馬搬の技術をマスターした。すると、ヨーロッパでは馬搬の国際大会があることを知り、単身イギリスに乗り込んだ。
現地の見ず知らずの馬を借りて大会に初出場、なんと優勝してしまう。しかも「イギリス代表」としてヨーロッパ大会にも出場を果たすという快挙を成し遂げる。
イギリスでは馬搬は重要な競技であり、イギリス馬搬競技会?の会長が現在のチャールズ国王。岩間氏はこれが縁で面識を得る。
そんなこんなで、岩間氏はヨーロッパの馬界では有名人なのだけど、日本ではほぼ無名。
驚くべきは、岩間氏の馬を見抜く眼力と、育成する力。今回、私が馬耕体験をさせてもらった2頭の馬は、なんと「お肉」になる予定で売りに出されていたのを買い取って馬耕用に育成したのだという。
岩間氏によると、馬耕や馬搬に適した馬を見抜く必要があるという。どうやって見抜くのか?と尋ねると、ボールを足元に転がして興奮したり飛び上がって驚いたりするのは適していないという。岩間氏によれば、10分も付き合えば馬耕や馬搬に向く馬を見抜けるという。驚き。
岩間氏の馬を見抜く眼力、育成する力に驚嘆したJRA(競馬をやってる農水省の組織)は、競走馬の第二の人生(馬生)として、馬搬や馬耕に向いた馬の育成を考えようと、一緒に研究することにしたのだという。
東京大学の海津裕准教授も、馬や牛などの「畜力」に注目し、共同で研究を始めることにしているという。海津氏はもともとロボット工学を研究していて、田んぼの畔など、斜面での難しい草刈りを自動化の研究をしていた。しかし馬が斜面をものともせず草を食む様子を見て「この手があったか!」
ガソリンやバッテリーを積まなくても、馬なら斜面であろうと気にせず草を食べる。しかもそれをエネルギーにし、あまつさえ肥料にしてしまう。こんなに優秀な草刈り機は他にない。しかも上だけ食べるから土壌は露出せず、土壌流出の心配もない。
草という、人間にはエネルギーにしようがないもの、単に草刈りして捨ててしまうものを、馬や牛は動力に直接変換できてしまう。岩間氏に「何キロくらいの草を食べさせればいいんですか?」と尋ねると「4時間そのへんの草を食べさせればいい」という、単位のずれた回答。
それもそのはず、本当にそのへんの雑草を食べてる。エサ代タダ!それでいて長時間の田んぼ仕事に容易に耐える力を発揮する。「馬力」という言葉の威力を思い知った。
しかも、岩間氏は、古い技術に見える馬耕に、簡単な工夫を加えて、しかし画期的なイノベーションを起こしている。
スノーチューブに人が乗り、それを馬に引いてもらう。スノーチューブがおもりになり、代かきを可能にするアイディア。極めてラク。
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木曽馬とデカい馬(品種名忘れた)の2頭をかわりばんこにすると、1頭は草を食べて「充電」、その間に別の1頭に働いてもらい、疲れたら交代。こうすることで農作業を継続することが可能となる。しかし、草だけでこれだけ動けるとは。ウーム。
課題は、岩間氏のような調教師を増やすこと。岩間氏は手探りで馬の操り方をマスターした天才だが、それを他人に伝えることが難しい。そこで、JRAの協力を得て、馬搬用の馬を育成するノウハウを持つフランスの技術者を日本に招き、天才でなくても馬を育成できる方法をマニュアル化することを計画中。
岩間氏が調教した馬は、私のような完全初心者でも、一応は操れるまでに訓練されている。この調教の力は、JRAも、相手側のフランスも驚嘆しているという。岩間氏ほどでなくても、馬耕に適している馬を見抜き、育てることのできる人材が育てば、可能性が見えてくる。
合田氏によると、雑草を電気に変換する効率においても、馬や牛などの畜力は優れている可能性があるという。人間からしたら役に立たない雑草を食べて、ものすごい馬力で動ける畜力は、ダイナモのような発電機を回したら、バイオ燃料を作るより効率的な可能性がある。
岩間氏はこれを「蓄電池ならぬ畜電池」「バッテリーならぬ馬ッテリー」と言って笑う。今後、手綱を引くタイミングなどを人工知能に学習させ、それを自動化すれば、ロボットより遥かに機動的で、馬力があり、しかも草で動く画期的な農業動力になってくれる可能性がある。
ところが合田氏によると「研究のための予算を申請してもフザケてると思われてはねられてしまう」という。
イヤこれマジメに考えた方がいいよ。だって馬や牛って、すでに賢いもん。畔を踏んだらアカンってわかってるもん。鎖を引いての条間除草でも、馬はイネの苗を踏まなかった。人工知能として優秀。
課題は、繰り返すが、私のような素人でも操れるまでに調教する人材を育成すること。岩間氏という、お金儲けも何も考えず「馬と生きたい」だけであらゆる馬に関する技能を習得した天才は、まず現れない。技術として開発し、次の脱石油時代の技術として真剣に考えた方がよい。
なお、合田氏や岩間氏によると、ヨーロッパでは馬は今も重要な動力として認識されているという。イギリスでは王家が率先して馬を保護育成している。現在でも軍馬は、戦車など重機では入れない険しい地域では重要な機動力なのだという。
ところが日本では、畜力は「終わった技術」とみなされがち。とんでもない。こんなに省エネで馬力のある機動力は他に見当たらない。農水省のみどり戦略では畜力の再興を想定していないようだが、この際、ぜひ見直すべきだと思う。
特に農研機構なんかはこれ、研究すべきではないだろうか。脱石油時代に有力な技術に育つと思う。真剣に検討してほしい。
追記
「百姓貴族」の荒川弘氏もこの取り組みを応援してるとのこと。
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