「実力主義」考

実力主義はイギリスのサッチャーやアメリカのレーガンから始まり、ソ連崩壊から加速したように思う。
実力あるものに権限と収入を集中させれば、それを見た者は自分も実力をつけようと努力し、競争が刺激され、経済が活性化する、という考え方。

その結果、高学歴や経営者は「実力者」とされ、高収入に。ただ、これらを矢面に立てて、こっそり儲けてる人たちがいた。資本家(株主)。「実力者」を馬車馬のように働かせ、そのご褒美に高収入を許す。その代わり、他の労働者の給料は低く抑え、その収奪分を「実力者」と株主で分け合う。

高収入の人はよく「たくさん税金納めてる自分は、少なくしか税金払ってない人間より社会に貢献してる」という。ところが彼らの収入は、労働者の給料を低く抑えることで搾り上げた金。「俺たちが恵んでるんだ」という倒錯したこと言ってるけど、実際に働いてるのは労働者。それを仕組み的に収奪。

この仕組みの巧みなのは、「実力者」が矢面に立ち、お金持ち(株主)は表に出ずに済むこと。「実力者」は「俺たちは努力してきたんだから報われて当然」と主張し、一般労働者と勝手にケンカしてくれる。漁夫の利を得る株主な構造。

アメリカはこの構造が極端に進み、高学歴や経営者など「実力者」は破格の待遇で高収入。そうでない大部分の人は低賃金にあえぐ。低賃金に抑えた分は、「実力者」だけでなく、株をたくさん持つ資産家にお金が渡る。これがアメリカの社会構造になり、日本も2000年代に入り、この構造にシフトした。

しかしアメリカの若者は、この構造に辟易し始めている。「実力者」は少数に抑えておかないと、株主に配分する儲けが小さくなるから、ごく少数に抑えられてきた。学生たちは、たとえ大学を出てもほとんどが「実力者」に入れてもらえない現実に愕然とし始めている。

サンダース氏が人気を博したのは、そのためだと思う。「実力者」と株主ばかりに儲けを集中させる社会構造に異を唱える若者が増えた。今のアメリカの若者には、「社会主義」が人気だという。一部の人間だけが儲けを牛耳る社会構造が許せなくなってるのだろう。

「実力者」でもなく、学生でもない人たちはトランプ氏に希望を託した。トランプ氏自身が金持ちなのだが、トランプ氏は「実力者」(シリコンバレーで王侯貴族みたいな贅沢してる人たち)への攻撃力が強いと考え、代わりに悪者をやっつけてもらおう、という気持ちが高まったのだろう。

他方、トランプ氏が大統領になるという事態に、「実力者」もお金持ち(株主)も考え始めた。「実力者」に権限とカネを集中させ、コッソリ株主が収奪したカネを分捕るという社会構造は、サンダース氏やトランプ氏の登場を見ると、もう続けられない、と。

そんなタイミングでSDGsやエシカル(倫理的)投資、ステークホルダー資本主義といった考え方が注目を集めたのは、恐らく偶然ではない。利益を広く配分する社会にシフトしないと、知識人と金持ちが皆殺しになったポルポトみたいなことが起きかねない、と恐怖したのだろう。

アメリカはバイデン大統領になってから、舵を完全に切り始めている。お金はなるべく広く配分する社会、それでいて活性化する社会のありようを模索し始めている。
こうした変化に周回遅れなのが日本。アメリカの支配層の言葉を真に受けて真似をし、「自助」を最初にもってきちゃった。

でもアメリカはもう方針転換している。しかし日本の支配層は、かつてのアメリカの支配層の思想(「実力者」を馬車馬のように働かせ、多くの従業員から搾り上げたお金を資産家が株を通じて収奪する)に染まってしまって、なかなか抜けられない。まだ惰性が続いている。

しかしアメリカが方針転換したことで、世界の趨勢が変化している。中国が台頭してるが、まだまだアメリカの動きが世界に与える影響は大きい。日本はこの波に間に合うのか?観察を続けたい。

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