「競争力」考

「競争力」考

アメリカは世界一食料を安く生産・輸出できる国。そういう意味では、アメリカの農家は世界一の競争力があると言ってよいだろう。だから日本もアメリカに負けない競争力をつけよう、という話がよく出てくる。では、アメリカはどうやってそんなに安い食料を作れるのだろう?
「雑食動物のジレンマ」に面白い記述がある。アメリカでは平均的な農家が紹介されている。もちろん、日本とは比較にならない広大な面積を耕している。で、どんな風かというと。奥さんに働きに出てもらい、自分は農業補助をもらってようやく4人家族を養える、という。
4人家族も養えないほどの価格で生産される食料は、アフリカの貧農でも太刀打ちできないくらい安い。結果、アフリカの多くが食糧輸入国。小麦などの基礎食糧(生きていくのに必要なカロリーを稼げる食料)を作っていては生活ができないから、コーヒーなどの商品作物を育てるプランテーションで働く。
しかしコーヒーの国際価格が安くなると、働く人たちの賃金が減ってしまう。この結果、アフリカの農家は自分たちが食べる小麦はアメリカから輸入したものを買わねばならず、自分たちが食べられないコーヒーを育てて、わずかな賃金を得るしかない。貧しさから抜け出られない構造。
これは、ダンピング(不当な安売り)かもしれない。かつてイギリスは産業革命でべらぼうな量の綿製品を作って、みんなが欲しがる以上の服ができてしまった。これでは価格が低迷して、工場主や出資している資本家は倒産してしまう。そこで何をやったかというと、インドに輸出した。
インドは当時、手作業で綿製品を作っていたが、イギリスからべらぼうに安い綿製品が大量に出回って、インドの手工業が崩壊。それで生活していた人が行き場を失い、インド経済が揺らいだ。そこに東インド会社が「あんたたちは経済が分かっていないからだ」と介入。
「インドは綿を栽培してイギリスに輸出しなよ。イギリスはそれを綿製品にしてインドに戻すよ。これならウィンウィンだろ?」と口車に乗せた。すると、イギリスは綿を安く買いたたいて輸入。綿工業が崩壊したインドでは、イギリスの綿製品を買うしかない。稼ぐところがないインド経済はますます困窮。
「あんたたちは愚かだから国を運営できないのだよ」とかなんとか言って、結局インドはイギリスに飲み込まれ、植民地になった。
植民地とは何か?本国で余っている商品を押し付ける場所。そうすることで、国内価格をほどよく維持する方法。しかし押し付けられた国は、安すぎる商品で経済がメタメタ。
こう考えると、アメリカやEUなど、先進国が安すぎる食料を輸出することが、アフリカなどの国を貧しくする構造になっている可能性がある。一見、安い食料を相手に売ることは、儲けを考えない良心的な商売に見える。しかし、相手の国で同じ商売をしている人は、その商売を畳まなければならなくなる。
安く生産し販売することができる価格競争力は、消費者にとってはありがたい。その商品を安く買えた分、他の商品の購入にあてることができるから。けれど。もしその商品が安すぎることで仕事を失う人が多い場合、その人たちは安いその商品も買えないほど貧しくなる。アフリカやかつてのインドがそれ。
先進国や新興国以外の国は、農業以外にたいして産業がない。そんな国に安すぎる食料が入ってきたら。その国の農家は、いくら農産物を売ろうとしても売れず、売れる価格で売るとクワを買い替えるお金にもならず、生活ができなくなってしまう。仕事を変えようにも、その国に工業などの雇用はない。
途上国は、農業以外に雇用を吸収できる産業がない、ということが大問題。欧米や日本なら、農業をやめても他の産業の仕事がある。そんな国だと、食費は安ければ安いほど、浮いたお金でスマホ代や遊興費にお金を回せる。消費者として助かる。農業以外の仕事につけばよい、となる。しかし。
途上国が逃げ場がない。農業以外の産業がないから、農業で生活できないほどの売り上げしかなくなったら、肥料も買えず、クワも買い換えられず、衣服も買うことができない、ということになりかねない。「価格競争力」を発揮することは、もう少し冷静に考える必要がある。
もし日本の農家がアメリカ並みの生産性、価格競争力を持ち、コメを国際価格で販売できるようになったとしたら。その余剰のコメの分、どこかの国でコメが売れなくなり、その農家が苦しくなる。農業をそもそもしていない国ならありがたいかもしれないが、その国が買っていたコメを作る農家は?
安く大量に生産する価格競争力をもつと、ライバル企業を出し抜いてシェアを握れる。安定的な売り上げを確保できる。問題は、相手企業がつぶれて仕事を失った人たちを、誰が雇用するのか?雇用できなければ、その人たちは消費する力を失い、結局、社会全体としては購買力を失う。
ただ、話がややこしいのは、食料が安いから私たちは現代文明を享受できる、という面もある。エンゲル係数というのがある。生活費の中で食品が占める割合のこと。これが高いと、食べることに必死で、家賃やスマホ代を支払うことも苦しく、遊興費も出せず、旅行もできなくなる。
現代文明は、食料を安く大量に製造できるようになったことで、エンゲル係数を低め、遊んだり旅をしたりするゆとりを確保することができた。食料が高ければ、食べるのにカツカツで、遊んでなんかいられなくなる。働きづめになる。
では、なぜ現代文明は食料を安く大量に製造できるようになったのか?石油や天然ガスなど、化石エネルギーのおかげ。化石エネルギーのおかげで、トラクターなどの機械で大面積を耕し、農薬で病気を抑え、化学肥料を製造してたくさんの実りを得ることができるようになった。化石燃料が現代文明を支えた。
さて、化石燃料がそろそろ少なくなってきている様子。食料を安く大量に製造するには、大量のエネルギーが必要。はたして、化石燃料にかわるエネルギーを手に入れられるのか?それができないなら、食料は高くなる。文明を謳歌するゆとりが失われる。
価格競争力をここで発揮すべきは、エネルギーだろう。化石燃料にかわるエネルギーを、大量に安く提供することができるか、どうか。それがカギとなる。SDGsが目指しているのは、そこだろう。

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