「エネルギー問題」考

えらく大それたテーマ名にしたけど、エネルギー専門家ではない私だからこその、分かりやすい表現を試みたい。
まず一つ。エネルギー問題で厄介なのは「石油があまりに優秀過ぎるエネルギーだった」ことがあるように思う。もう、他の追随を許さない。

石油はエネルギーとして望ましい、いくつもの優秀な性質を備える。どんな点で優秀か、思いつくまま列挙してみる。
①濃い(エネルギー密度が高い)
石油は軽く、少量でも莫大なエネルギーをもつ。電気、水素はこうはいかない。電気はバッテリーが重く、水素はコンパクトな貯蔵が困難。

②安全に貯蔵しやすい
タンクに入れておけばそんなに危険はない。水素は貯蔵タンクの金属を脆くする「水素脆化」の問題が解決できていない。核燃料は放射線の問題がある。

③運びやすい
石油は軽くてタンクで運びやすい。液体なのでパイプラインで送ることも可能。石炭は固形物なのでパイプラインは不可。核燃料を運ぶには、安全保障の問題もあって細心の注意が必要。水素は「水素脆化」の問題があり、効率よく安全に運ぶのが難しい。電気はバッテリーが重い。

④反応がマイルド
石油が燃焼する温度は、金属が耐えられる程度で、エンジンなどを開発しやすい。核燃料は暴走すると金属炉を溶かしてしまいかねない。核融合に至っては1億℃を超える。鉄は1500℃でとろけるのに。

⑤安価で大量に存在する(した)
こんなに安くて大量に存在するエネルギーは、なかなか見当たらない。たとえば日本の森林は大量にあるようだけれど、全部を発電に使うと0.9年分しかない。原子力の原料であるウランは、2010年時点で計画されていた通りに原発が増加したとしたら、30~40年分しかない。

石油以外の他のエネルギーはどこかの面で石油に劣るところがあり、石油の代わりになり切れない。石油は、ありとあらゆる面で他のエネルギーと比べて優秀。その点が、他のエネルギーと隔絶している点。石油がもし使えなくなれば、石油の代わり(すべての局面で便利なエネルギー)を果たせるものはない。

石油は、埋蔵量自体はまだまだたくさんある。2020年時点での埋蔵量を、2020年の1年間で使用した石油の量で割り算すると、50年分にもなる。これだけあれば、新油田も将来見つかるだろうし、焦らなくてよいように思ってしまう。しかし「埋蔵量」という数字に惑わされてはならない、という問題が。

石油を掘るにもエネルギーがいる。かつて、石油が噴水のように噴き出していた時代は、採掘に1のエネルギーを投資して、その200倍の石油がとれた。しかしシェールオイルのように、水を高圧で送り込んで石油を搾りだす手法だと、10倍を切る量しか石油がとれなくなっている。

石油を掘るのに費やしたエネルギーの何倍の石油がとれたか、を示す数値をEROIというが、この数値がどんどん悪化している。EROIが3を切ると、石油はエネルギーとしての意味を失う。ガソリンや軽油に加工するにも、世界中に運ぶにもエネルギーが必要だから。この「3」に、世界の油田は近づきつつある。

EROIが3を切ると、石油はエネルギーとしての価値を失う。石油を掘りだすためのエネルギーの方が余計に必要になるから。そしてどうやら、世界中の油田で、このEROIの数値が悪化し始めている。石油がエネルギーとしての意味を失う時代が近づきつつある。

ポスト石油時代に、石油の代わりを果たせるエネルギーがあるかというと、ない。ここ、重要。石油みたいに濃く(エネルギー密度が高く)て、使いやすいエネルギーは他にない。ポスト石油時代は、石油より使いにくいエネルギーを使うしかない。ベストのエネルギーはなく「マシ」なエネルギーがあるだけ。

石油と同じように液体で、エネルギー密度も濃くて、石油のように扱えるエネルギーが一つある。バイオ燃料(バイオエタノールやバイオディーゼル)。ガソリンや軽油の代わりに使用できて、これまでのエンジンも使用できて、いうことなしのような気がする。ただし2つ欠点がある。

一つ目は、量がとれないこと。日本の森林を全部伐採して電気に変えても0.9年分しかない、という話でも分かるように、バイオ燃料は、そんなに大量に製造できない。これまでの石油のように、好きなだけバンバン燃やしていいエネルギーではない。限られた場所で大切に使用する必要がある。

二つ目は、「黒字のエネルギー」ではない、ということ。ブラジルのバイオエタノールを例外(EROIは7程度)として、バイオ燃料は、製造に必要なエネルギーの方が作れるエネルギーと比べてトントンか、あるいは前者の方が多かったりする。エネルギー的に赤字のものが多い。

ブラジルのバイオエタノールがなぜ特異的に優秀なのかというと、サトウキビから作ったお酒を、蒸発させてバイオエタノールにするとき、燃料としてバガス(サトウキビの搾りかす)を燃やす効率的な方法を大規模で行うから。規模が小さいと効率を十分高められない。

ブラジルのバイオエタノールを除けば、どのバイオ燃料も製造に要したエネルギーとトントンか、エネルギー的に赤字になる。だから、石油の代わりをバイオ燃料が果たせるかといったら、それは幻想。
ただし、バイオ燃料には一つ、優れた面がある。すでに述べたように、石油のように使用できること。

現在のところ、飛行機を飛ばすには、石油のような液体燃料でないと現実的ではない。電気だとバッテリーが重すぎて、長距離を飛べない。軽くて濃い(エネルギー密度が高い)液体燃料である必要がある。バイオ燃料は、飛行機を飛ばすエネルギーとして最適なものになる。

近年、飛行機を飛ばす燃料としてSAFというのが注目されている。使用済みの食用油を加工して液体燃料にしたもの。これもバイオ燃料の一種といえるだろう。エネルギー的に黒字の燃料とは言いがたいが、二酸化炭素の排出量は、石油由来の燃料で飛行機を飛ばすよりグンと減らせる。

バイオ燃料は、十分な量を製造できるわけではないし、製造するのに余計にエネルギーを必要とする面があるけれど、「飛行機を飛ばせる」燃料としては、他のエネルギーと比べて非常に優れている。今後、バイオ燃料は、飛行機用のエネルギーとして魅力あるエネルギーとして、開発が進むのではないか。

さて、電気エネルギーの話。太陽電池や風力発電、水力発電、地熱発電、原子力発電、これらは起源とするエネルギーはすべて違うけれど、できるエネルギーがすべて電気だから、「電気」でくくることができる。電気は長所と短所がハッキリしているエネルギー。まず、それを考えてみる。

まず、長所。
1)電線さえあれば遠くに送れる。
2)モーターがあれば動力に、LEDなら光に、空調機ならクーラーやヒーターなどの熱エネルギーに、と、他の形のエネルギーに変換しやすい。
そして欠点は、
・重い割にエネルギー密度低い。
バッテリーだと石油の5%程度のエネルギーしか貯められない。

乗用車サイズなら、電気自動車として走らせることができるようになった。しかしトラックや、パワーの必要な農業機械だと、電気では難しい。バッテリーが重すぎて身動きが利かなくなる。しかもすぐエネルギー切れとなる。

電車のように、電線を使えると電気はそれなりにパワフルだけど、バッテリーを使って自由に走らせようとすると、乗用車が限界。もし優秀なバッテリーが開発できたら話が違ってくるかもしれないけれど、現時点では、電気で大型車や大型農業機械を動かすことは困難。

多くの人が自家用車を持てたのは、石油のおかげ。石油が使えなくなったら、自動車の個人所有は諦め、電気自動車と自動運転を組み合わせ、スマホで呼んで乗り込む、というスタイルにする必要があるかもしれない。そして大量輸送は、もう一度電車を見直す必要があるかも。

水素と天然ガスは、「コンパクトに貯めにくい、運びにくい」点で似ている。超低温・高圧にしないと液化しないから、コンパクトにしづらい。水素はすでに述べたように「水素脆化」という現象が起きるので、タンクが破断する恐れもある。まだ安全に大量に燃料タンクに貯めることが難しい。

それでも、水素は物質だから、電気のように生まれた瞬間に消えてしまうエネルギーと違って、一応貯蔵ができる。太陽電池で昼間に電気が余った時、水の電気分解で水素を作り、その水素をエネルギーとして貯めておく、ということは魅力。魅力なんだけど、水素脆化の問題が厄介。貯めにくい。

貯めにくいけど、水素で一応エンジンを動かせることも分かってきたので、貯蔵技術さえ確立できれば、可能性が見えてくる。水素を安全に高密度に貯められる技術開発が進むかどうかが、カギになるように思う。

バイオ燃料、電気、水素などの新エネルギーと目されるものは、それぞれ優れた性質はあるけれど、すべての面において優れていた石油と比べると、やはり欠点がいろいろ目に付く。このため、石油が使えなくなった場合、どのエネルギーが適切(マシ)かは、場面によると思う。

石油の代わりを果たせるエネルギーはない。石油が使えなくなったポスト石油時代には、「他のエネルギーと比べるとマシ」なエネルギーを選んで、それを用いる、ということになる。場面場面で利用するエネルギーは異なる、ということになるだろう。石油のような「魔法の杖」はもうなくなるのだから。

水と二酸化炭素で作る人口石油はどうなんだ?という意見が複数来たので補足。あれは単なるエマルジョン燃料の可能性が高い。もし本当に石油が作れているなら、機械を売ろうとするんじゃなくて燃料を売ればいいのに、なぜかそうしない。その点がすでに怪しい。

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