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【23日目】しんさい工房 ‐夜食‐

受験勉強をしながら夜食にカップ麺を食べる。
そんな光景に憧れていた。

しかし、僕の消灯時間はいまだに21時だ。
晩ごはんを食べてからの夜食までには、あまりに時間がなさ過ぎた。

もともと僕が勉強をする時間は朝だった。
部活が終わり、家に帰ると19時ぐらい。
そこからごはんを食べ、父親の足袋を洗い、洗濯を済ませてお風呂に入れば、もうほとんど寝る時間だった。
みんなと比べて時短できることと言えば、髪の毛を乾かす時間がないことぐらいだ。
翌朝5時半には朝のお勤めがあるので、僕の勉強時間はそれ以外の時間しかない。
中学時代の起床時間はいつも4~4時半ぐらいだった。


でも、勉強しながら夜食を食べてみたい…


ポク、ポク、ポク、チーン。
平成の一休さんは、あることを思い付く。


そうだ、早起きをしよう。


多分この行動も父親の睡眠を妨げる行為に違いはないはずなのだが、伊藤家では21時の消灯が最重要視されており、早起きをする分には何も言われることはなかった。
僕は2時に起きた。

深夜ラジオを聴きながら食べるカップ麺は、格別においしい感じがした。
そしてその行動が、またひとつ僕を大人にしてくれたような気分になった。
僕は小さな夢が叶った満足感と、特にお腹も減っていなかったが興味本位で食べたカップ麺による満腹感で、結局眠りについた。

もともとがのび太くん体質なためか、眠りにつくのも早い方だった。
これまでの人生で眠れなくて困ったのは、足の骨の手術をした夜、あまりの痛みで眠れなかった時ぐらいしか記憶にない。
これはある意味、幸せなことなのかもしれない。


高校は、すすきののお寺に住み込みで生活しながら通えばいい。
大学は北大でインド哲学を学ぶといいだろう。

出家したころ、そんなことを言われていた。
小学校で同じテストを受けて30点を取るようなやつには、想像もつかない話だ。
そんな話もあったからなのか、僕の成績を一番心配していたのは父親だったのかもしれない。
中学時代の成績については、成績によっては外出禁止令が出るくらい父親のチェックが厳しかった。

全く人に薦めたいとは思わないが、そんな罰ゲームとの戦いと向き合って勉強をしていると、自然と成績は上がっていった。
中学3年生の模試では、300点満点で270点越えの成績を取っていた。
これまで学年で4番が僕の最高成績だったが、さすがに今回は学年トップを確信していた。周りのみんなには点数は伏せつつ、興奮を抑えながら成績表を受け取った。

2位…

だいたい僕の人生はいつもこんな感じだ。
小学校2年生のときに、そろばんの大会で優勝した時がピークだったのだろう。
トロフィーをもらい、とても誇らしかったのを覚えている。
僕はそのときから、トップという場には縁がないようだ。


1分1秒でも家にいる時間を減らしたい。
そんな思いで学校に通っていたこともあり、僕は学校にいる時間がとても楽しかった。
おまけに中学2~3年のときのクラスメイトたちは、いまでも付き合いがあるぐらい仲がよかった。
全く女っ気はなかったが、純粋に学校生活が楽しかった。

教師になってクラスを持ちたい。

密かな夢だった。
夢を見るだけつらくなる。
そんなことはわかっていたが、僕は中学の教師になりたかった。
それぐらい、僕にとっては中学校が楽しかった。

中学を卒業したら、僕は親元を離れてお寺に住み高校に通う。
平成という時代に、そんな高校生なんているんだろうか。
まだまだ先だと思っていたのに、あっという間に受験が迫っていた。

そんな僕に朗報が届く。
それは、秋も終わりに近づき、間もなく冬を迎えようかという肌寒さを感じるころのことだった。

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