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夢と希望と絶望と コロナに揺れたダイヤモンド・プリンセス号の舞台裏 前編

コロナを運んで来た黒船。。。そんな言われ方もしたクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号。そこでは、ボクのトモダチがクルーとして働いていました。

2020年1月20日に横浜港を出港した同船の乗客で、1月25日に香港で下船した80代男性が新型コロナにかかっていたことが確認されたのが2月1日。これを受け、厚生労働省は2月3日夜に横浜沖に着いた船をそのまま停泊させ、船内検疫を開始しました。

©︎47NEWS

閉ざされた巨大空間での、前代未聞の感染症。最終的に、乗客乗員3711人の約2割に当たる712人が感染し、13人が死亡しました。

今回は、そんな悲劇の船での勤務を夢見て見事に叶え、そして未知の恐怖と戦った不屈のフィリピン人の物語です。

少々長いので、前編・後編にわけてお届けしたいと思います。

1. 夢に燃えるフィリピーナ

Kim(Kimberlyの略)は、フィリピンはマニラ近郊のカビテ州に生まれ育った20代の女性です。

日本で技能実習生として兵庫県明石市の民間企業で働いていたこともあり、大の日本好き。持ち前の明るさと芯の強さで、様々な苦難も乗り越え、またいつか日本で働くことを誓って一度はフィリピンに帰国し、夢に向かって走り続けていました。

Kimの夢は、クルーズ船のクルーとして働くこと。

クルーの養成学校に通い、授業を受け、水中救難訓練や消防訓練をしている頃からその様子をちょくちょく知らせてくれていました。1年ほどかけて念願の修了証を手にし、さらに数ヶ月後にプリンセスクルーズ社(本社:アメリカ)のクルーの切符を手にした時の誇りに満ちた笑顔を見て、心からその努力を称えたものです。

消防訓練の様子

同社は世界各地で大型クルーズ船を運行しており、最初にオファーが来た勤務地は、確かサンフランシスコだったかと思います(うろ覚え)。でも、彼女はそのオファーを断りました。あれだけ努力を重ね、1日も早くクルーデビューしたかったはずなのになんで?と聞くと、どうしてもあなたもいる日本がいいんだ、という返事が帰ってきました。

ずっと、一度でいいから会いたい、うん、会おうね、という会話をしてきましたが、本当にその通り長い時間をかけ、夢とこだわりを捨てずにいたんです。

2.夢が実現した…しかし

初めのオファーをスルーしてしばらく。ついに、Kimは日本行きの切符を手に入れます。勤務先は、そう、ダイヤモンド・プリンセス横浜を拠点として、日本各地を数日かけて周遊するクルーズ船です。2020年9月1日、晴れてこの船のレストランスタッフとしてのキャリアをスタートさせました。

ついに念願のクルーズ船デビューを果たしたKimの勇姿

意気揚々と乗船し、夢の舞台え働き始めたKim。ですが、その仕事は決して生やさしいものではありませんでした。

毎朝6時頃から夜は23時まで歩き通し、立ち通し。足はパンパン、靴づれするし、鼻血は出る。精神的にも徐々に参っていく様子がSNS越しに伝わってきて、本当に心配でした。それでも、持ち前のフレンドリーさで様々な国からやってきた他のクルーや、たくさんのゲストたちとの交流を心の糧にどうにか踏ん張り、「この仕事を愛してる」と言い切る姿はとても誇らしく輝いていました。

3.Xデー

ボクの方では、早く会って元気付けてあげたいと思い、マッサージ器具やらたくさんのお菓子やらカップ麺をプレゼントしようと用意して、会える日を調整していましたが、まぁ運命の悪戯が酷かった。。

台風直撃で寄港出来なかったり、スタッフの送別会があって下船できなかったり…もう目と鼻の先まで来ているのに、なかなか素直に会わせてはくれません。

ボクの周りを(正確には日本列島を)グルグルと冷やかすように何周かした10月、その日は訪れました。ボクの仕事のスケジュール、移動時間、たった2時間しか許されていないKimの下船時間、天候…あらゆる条件がビタっと会う日がとうとうやってきたのです。

横浜港まで迎えに行き、タクシーで向かったのはパンケーキ屋さん。これまで数年間毎日のようにSNSで会話をしてきたのに、いざ会うとどうもぎこちない感じになっちゃう自分に戸惑いつつも、用意していたお土産を渡し、味のしないパンケーキ(本当は美味しいはず!)を時間を惜しんで詰め込みました。

2019年10月パンケーキ店にてついに会う

「本当に会えたね!」「君は本当に立派だよ!」「足はどうなの?」「どんなクルーがいるの?」などなど束の間の他愛のない会話を楽しみ、ちょっと付近を散策した後、2時間の門限ギリギリ、最後は猛ダッシュで乗船口へと消えていくKimの後ろ姿を見送りました。

4.アイツがやってきた

2020年2月3日の会話

2020年2月3日、暗雲が横浜を包みました。

この日の夜から、3月25日の検疫・消毒終了までほぼ丸2ヶ月、ダイヤモンド・プリンセスは横浜港大黒埠頭に接岸されることになります。この間の推移は、日本中が固唾を飲んで見守っていましたね。そして、その後の状況はみなさんご存知のとおり、今持ってコロナの猛威は衰えるところをしりません。。。

前編はここまで。
後編では、ダイヤモンド・プリンセスの船内で、一スタッフとしてどんな状況を過ごし、いかなる心境だったのかを綴ろうと思います。

引き続き、自慢のトモダチの勇姿をご覧いただけたら幸いです。
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◆後編へ


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