見出し画像

TOEIC SW受験で見えた「英語ができる」の3段階とガラパゴス

はじめに

今年5月に「TOEIC® Listening & Reading Tests」(以下LR)を初受験し940点を取得した後、8月7日に初めて「TOEIC® Speaking & Writing Tests」(以下SW)を受験しました。スコア発表は8月23日の予定なので、この記事を執筆している時点ではまだ結果はわかっていません。

が、少なくともSW受験を通して、そもそも「英語ができる」ってどういうことなんだろう?と思ったので、今日はその点について考察してみます。

英語ペラペラのイメージ(DIAMOND ONLINE

結論から言ってしまうと、「英語ができる」という状態には、次の3段階があると思い知りました。

【第一段階】英語がわかる
【第二段階】英語を使える
【第三段階】英語を使って○○できる

どういうことか? それぞれの「違い」に着目しながら解説を試みます。

【第一段階】 英語がわかる

これは「英語で書かれたものや、英語で話されていることの内容が理解できる」状態です。英語の本、英字新聞、Webの記事だとか、CNN・BBCなどの英語ニュース、映画・ドラマを見聞きして、意味を理解できるということですね。

つまり、ListeningとReadingの能力に関わります。言い換えればインプット能力といえます。これがストレスなくできるほど、世界は大きく広がります。これまで日本語のインプットしか理解できなかったのに対し、圧倒的に流通量の多い世界共通言語の英語の情報を摂取できるようになるからです。

【第二段階】 英語を使える

次のステージは「英語で自己表現ができる」状態です。この状態に達している人は、自分のアイデアや意見を英語で表明することが可能です。具体的には、SpeakigとWritingの能力が備わりアウトプットできる、ということです。

この段階になると、英語の話者と「対話」ができるようになります。第一段階ではできなかったような、テキストでチャットする、電話で話す、英会話スクールで講師との会話が弾む、というより豊かな経験ができるようになります。

【第三段階】 英語を使って○○できる

では、これはどういう状態でしょうか? すでに、第二段階までで十分コミュニケーションは取れる気がします。確かに、相手の発言を理解し、自分なりの考えを返す。その意味ではちゃんとコミュニケーションを成立することができています。

しかし、この第三段階は、ちょっと別の要素が絡んでくるんです。それは何か? 一言で言うと、コミュニケーションを行う場面や状況の広がりが違うんです。…..わかりにくいですよね。

「英語を使って○○できる」ってどういうこと?

ここで、ちょっとわかりにくい第三段階について掘り下げて説明してみようと思います。

これは私的な実感なのですが、ボクは「永遠の中上級者」だと思っています。具体的に言うと、「自分の興味のあることや仕事の領域については、とても流暢に会話や作文ができる」。その一方で、「そうじゃない事柄については、考えがまとまらずモゴモゴする」あるいは「会話をリードしてなんらかの結論に導くべき状況で、それが達成できない」という状態もあります。
つまり、「自分の土俵では戦えるが、相手の土俵では戦闘力が落ちる」というレベルなわけです。

実は、これが中上級者の典型的な「症状」だそうです。日常会話をしている限りは、側から見れば「あの人英語ペラペラやん」というふうに映る状態。ですが、実は「時と場合による」ことをボク自身が一番よくわかっています。

英語上級者が何ができるのか?と比較することで、その違いがよりクリアにお分かりいただけると思います。

英語上級者は「相手の土俵でも十分戦える」レベルです。
具体的には…
・抽象度が高いテーマや、専門外である事柄についてもロジカルに議論できる
・交渉できる
・相手を説得できる
・商品を販売することができる

という状態です。

極端にいえば、利害が対立する相手に対しても、有利に議論を運ぶ能力が備わっているのが第三段階です。

それって、英語能力なの?という疑問が湧くことでしょう。それはもはや、「交渉力」「営業力」「世渡り力?」ともいうべき領域の話であって、英語能力と関係なくない?と思いますよね。

ボクもついこないだまでそう思っていました。

でも、気づいたんです。そういう視点そのものが「ガラパゴス」なんだと。

ガラパゴスすぎる日本の英語能力評価

あなたは、CEFRという言葉をご存知でしょうか?簡単にいえば、国際的な英語力のものさしで、「セファール」と読みます。ヨーロッパ圏を中心に世界中で活用されている指標です。下表のA1が一番低いレベルで、上に行くほどレベルアップします。

PRONTEST Inc.

まず、このCEFRを知らない、という時点でガラパゴス…というと言い過ぎかもしれませんが、少なくとも世界はこのスケールが標準なのです。

ここで少し思い出してほしいことがあります。世界にうって出れなかった日本の携帯電話、デファクトスタンダード競走において後塵を拝した電子機器業界…この手の話はこれまでよく耳にしてきましたね。

いつの時代も、どの領域においても、日本は「独自の進化」を遂げようとし、実際かなりその方向では他の追随を許さぬ域に到達してきました。思えば、日本語という言語体系も世界に類を見ない大変高度に磨き上げられた複雑さと美しさを備えた言語ですが、さて、世界で何人が話せるでしょうか。

実は、英語においても、然りなんです。ちょっと世界とズレちゃってる。

ボク愛用の言語交換アプリTandemで海外のトモダチと出会うと、最初はほぼ英語のスキルレベルの話になります。その際、「TOEIC940」と話すと、決まって「何それ、どんな試験?」「そのスコアってどんなレベル?」と聞かれて、常にめんどくさい。。。

ちょっと恥ずかしい思いをしながら「日本では最も重視されている試験でね…満点は990点で….」と説明しなきゃなりません。

そもそもTOEIC自体、世界ではマイナー中のマイナーな資格試験なんです。海外(アジア圏を除く)のトモダチは、だいたいIELTSケンブリッジ英検の勉強を頑張っています。そして「君のレベルはC1?B2?」といった会話がスタンダード。欧米拠点の外資系企業でもTOEICなど通用しないと言います。知らないから。そうした企業からは、IELTSを受けてください、ケンブリッジ検定を受けてくださいと言われるそうです。

What can you do with English? (TORAIZ

少し遠回りしましたが、何が言いたいかというと、IELTSやケンブリッジ検定では、第三段階のものさしで英語力が測られ、それが圧倒的グローバルスタンダードであるということです。

英語を読んで聞いて話して書けることを「通じて」何が実現できるのか?というものさしで世界はあなたを見ている、ということです。

こいつはビジネスで通用する英語運用能力を持っているか?英語の授業を理解しディスカッションやディベートができるだけの能力が備わっているか?英語という言語にどれだけ詳しいかではなく、そういう非常に実用的な視点から自立した英語話者としての素養を問うている感じなのです。

これに対して….

もうお分かりと思いますが、日本のTOEIC(LR)で測っているのは、あくまで【第一段階】のスキルレベルです。また、SWで主に計測されるのは【第二段階】のスキルレベルです。そして、TOEIC満点と英検1級のCEFRレベルは、上から2つ目の「C1」です。最上位のC2はネイティブクラスなのですが、日本人にはそこまでは無理だと諦めているようにも見えます。

文部科学省
IIBC(TOEICオフィシャルサイト)

TOEIC満点を一度でも取ったことのある猛者をディスっているのではありません。おそらく満点を取れる実力者は結構な確率で第三段階にまで到達しているとも考えられます。が、その能力を持っていても、TOEICでしか示せないのであれば、やはり海外からは「それ何」という反応しか得られないのです。

それなのに、日本社会ではどうしてこんなにもTOEIC LR 偏重なのでしょう? 答えは割と明快で、英語を使って仕事をする機会が良くも悪くもまだまだ圧倒的に他国に比べて少ないからでしょう。これを国際競争力がないというのはあまりにも短絡的という誹りを免れませんが、少なくともLR至上主義である限り「英語が苦手」という国民的コンプレックスから抜け出せないのではと思ってしまいます。だって、「英語ができる」という状態そのもののイメージ・認識が国際標準的とズレていてガラパゴスだから。


TOEIC SW がくれた気づき

以上のようなことに思い至ったのは、TOEIC SWの勉強をしている時に「これは英語の試験と言えるのか?」と感じたことに端を発しています。

別記事でも書いたのですが、SWには「エッセイ問題(意見記述問題)」というのがあります。与えられたテーマについて、自分の意見を30分以内に300語程度で書くというものですが、そのテーマがとても抽象的であると同時に、論旨をブラさずに「伝わる」文章の構成や展開を考えなくてはいけません。なので、これは英語というよりロジカルシンキング能力を問われていると強く感じたんです。

TOEIC SW(ライティング Q8)の例

これまで受験勉強ぐらいでしか英語学習に触れてこなかった身としては、大いに違和感を覚えたものです。「一人で仕事をするのと、チームで仕事をすることのメリデメを書け」と言われたら、「そんなことまともに考えたこともないわ。日本語だって30分で書けるかわからん!」と半ば怒りながら答案を作成していました。情けない話です。

でも、先に書いた【第三段階】つまり英語の実用的な運用能力を測る(高める)という視点を持った今は、この出題の意義も理解できます。そういう意味では、SWは【第二段階】のスキル測定をメインとしながら、ほんのちょっとだけ第三段階にも差し掛かっているといえます。英語を使って「相手(採点者)を説得する」という行為をしているからです。

ちなみに、受けたことはないのですが、ケンブリッジ英検は、試験官と受験者2人で試験が行われます。提示されたイラストに関連するテーマについて受験者同士で話し合い、結論を導いたり、試験官も交えたディスカッションでやはり力を合わせて結論を導くというパートがあります。日本の試験にはないスタイルですよね。要するに、他社と協働して結論を導くことが目的で、そのために適切に英語を運用したコミュニケーションを取れるか?という点が評価ポイントなわけです。


さいごに

ひと頃「国際人」という言葉が流行りました。その必要性は昔っから叫ばれてきたのです。でも、教育は?評価のものさしは?人々の認識は?現実的にそれに追いついているでしょうか。英語を話せる人を冷やかして笑いをとる時代は、いい加減終わりにしてはどうですかね。

SWの結果を首を洗って待っていますが、何点であろうと自分の現在地を確かめつつ、「運用能力の向上」にこだわってスキルアップを楽しんでいきたい、と思いを新たにする夏休みなのでした。


<合わせて読みたい>


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?