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『一人の哀れな女性のための回想』6話目

麗美は静かに私の話を聞いていた。

佐川『お前が恨むべきなのは金ではない。この私だ。』
私は必死だった。静かに話すことができるのは、もう今回限りかもしれない。

佐川『お前を見ているとわかる。人が生きるのは、人のためであるべきだと。お前は金のためにいろいろなものを犠牲にし、多くの人を傷つけた。だが、その責任は私にある。』
麗美は頭を抱えながら私の話を聞いている。

佐川『お前は妹である夏木を大切にしろ。これは俺の遺言だと思ってほしい。』
私は、一番伝えたいことを麗美に伝えた。

狩野『どうして今、遺言なんか。』
麗美は震える声を絞り出し質問した。

佐川『私は恐らく、終身刑は免れない。だが、お前だけは助けたい。だからここからは私に協力してほしい。今までお前を守ると言いながら、結果お前を壊してしまった。申し訳なかった。』
佐川はそう麗美にはなすと、頭を下げて私に謝罪した。

麗美は涙をこぼしながら、子供のように泣いた。

佐川『顔を上げなさい。そして私の話を聞きなさい。』
私は麗美を安心させるため、無理をして笑顔を作った。
人のために笑顔を作ったのは初めてのことだった。

麗美『一つだけ約束してください。』
麗美は私に一つだけ条件を出した。


それは、逮捕を免れることを諦めない事だった。


私は悩んだが、もうここまで来てしまった。
麗美のためにはならないかもしれないが、私もできることならもっと麗美のことを守っていきたい。

麗美の最後の願いを、私は受け入れることにした。


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私はすぐに石橋社長と接触した。
石橋社長はひどく動揺したが、私の話を聞いた。

この前日、ランディアはエコライフの販売を再開し、小島運送は一台分の運搬を関東で行った。
怪しい動きをしたため私は担当ドライバーからドライブレコーダーの映像をもらい確認した。
後方向きの映像には、一定の間隔を保ちついてくる車両があり、中には藤木の顔が見えた。
藤木は小島運送のドライバーがギャロップタイヤに立ち寄り、レプリカタイヤと入れ替えた経緯を目撃している。

このことから、ランディアはギャロップタイヤ本社に本物のエコライフがあることを認知したはずだ。
ギャロップタイヤにガサ入れが入れば、私も終わりだ。

ならば、ギャロップタイヤの中にエコライフが存在していてもおかしくない状況を作ればいい。
私は石橋社長に、競合調査のためのタイヤ倉庫を作ることを提案した。
ギャロップタイヤほどの規模の会社だ。数日あればそんなものは完成する。
石橋社長は、この起死回生の一手を容認し、倉庫を作り始めた。

そして私はもうひとつ、石橋社長に用件があった。
もしこの件が公になり、逮捕されることになったら、麗美のことはどうか見逃してほしいと。
麗美の心の傷や私が麗美にしてきたことを全て話すと、石橋社長はなんとか受け入れてくれた。
この石橋という男はもともと優しい男だ。そして、この素晴らしい大企業の社長なのだ。
この潔さも石橋という人物の器の大きさを物語った。

そして麗美にはメールの相手を本社に呼ぶよう伝えた。
その数日後、ランディアの3人がギャロップタイヤにやってきた

ギャロップタイヤの会議室に集まる一同。
シノシノラバーにいた内山が、ことの経緯をみごとに言い当てた。
この者たちは社長がいない中、この難解な事件を解き明かしたのだ。

大したものたちだ。鹿島社長を信じて自分たちで動く社員達。
鹿島社長はいい部下をもったものだ。素晴らしい会社だ。


だが私は諦めない。
麗美と生きていくために、私は最後まで抗う。


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内山と藤木の見事な推理に、私と麗美は言葉を失っていた。
石橋社長は、必死にランディアと戦っている。

そしてランディアは思った通り、本物のエコライフがギャロップタイヤにあると言い当てた。

私の思惑通りだ。
だが完全に私の思惑通りなら、私たちは負ける。
鍵は、ランディアの面々が本物と偽物を見分けることができるかどうか。

急遽作ったこのタイヤ倉庫も、藤木と内山を欺くことはできなかった。

どうか神様、私はどうなってもいい。
麗美に救いの手を差し伸べてほしい。
この子はまだやり直せるのだから。


石橋社長は論争の末、ついにランディアの面々に本物と偽物の見分けがつくのかどうかを問うた。

藤木と内山はうろたえていた。
もし見分けがつかないのならば、なんとか言い逃れができるかもしれない。

私はなんとかここでこの論争を終わらせたかった。
ここで諦めさせることができるのなら、私と麗美にはまだ未来がある。

そう考えていると、夏木の携帯電話に連絡が入った。

証拠に関する情報のようだ。
東北で回収したタイヤで証拠を探している者がいるようだ。
どうか何も出ないでほしい。
何も見つからないでくれ。頼む。

夏木は難しい顔をしながら、そうですか、ありませんでしたか。と言った。

勝った。
私にはまだ、未来がある。


ついに我々はこの株式会社ランディアに勝利したのだ。

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あの時ほど絶望したことはなかった。
夏木は、何も見つからなかったのが証拠だといった。

何を言っているのかわからなかったが、私が聞く前に石橋社長がどういうことだと夏木に聞いた。

夏木の話によると、ランディアの作るタイヤには内側にシリアルナンバーが刻印されているらしい。
そしてそれは、裁判後退廷する鹿島社長が夏木に託した切り札であったのだ。

…敵わない。あの鹿島という男は最初からすべて見抜いていたのだ。
鹿島さえ排除すれば総崩れになると思っていた。
しかしその鹿島はたった一つの切り札を社員に託し、その切り札で我々を一刀両断した。

更には栗林社長まで現れ、私と目も合わせることなく本物のエコライフを見抜いた。
完敗だ。もう石橋社長と麗美は言い逃れができない。

私だけでもなんとかここを凌ぎ、麗美を助けることはできないだろうか。
私はそのことばかり考えた。

しかし、ランディアの人間が我が小島運送の運転手を連れてきた。
その運転手の証言で、私は言い逃れができなくなった。
私はこの時のことを覚えている。
情けなくも前回と同じ捨て台詞を吐き、その場から立ち去ったのだ。


私にはまだ一つだけやらなければならないことがある。
私はもう助からない。いずれ逮捕されるだろう。


その前に、なんとか。鹿島社長に…。

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私は頭を抱えた。
鹿島社長は我々のせいで拘置所にいるのだ。
伝えたいことがあっても伝えることができない。

私は仕方なく、鹿島社長の右腕である藤木を呼び出した。

藤木は私に怒りをぶつけてきたが、当然である。そのくらいの覚悟はできていた。
私はもうすぐこの短い生涯を終えるのだ、最後の役目を果たさなければならない。

佐川『あなたが言うことは全て正しい。私は罪を受け入れる。死ぬ覚悟もできている。』
私は必死に、藤木が話を聞いてくれるよう尽くした。

藤木『人が変わったようだな。死ぬ前に何がしたいんだ?』
藤木は一通り私に怒りをぶつけた後、話を聞く体制を整えてくれたのだ。

佐川『まず、狩野は皆が思っているような冷酷な人間ではない。』
私は麗美のことを…

藤木『だからなんだっていうんだ?俺たちが舐めた苦汁は消えないんだぞ。』
藤木の言うことは正しい。だが、麗美だけでも…

佐川『狩野を変えてしまったのは私だ、だからケジメをつけたいのだ。』
私はいつしか麗美ために生きていたのだ。この仕事だけは失敗するわけにはいかない。
この仕事は、仕事ができた私の人生の中でも一番難しい仕事だった。

藤木『ケジメ?どうしたいんだ?』
藤木は私の真剣な表情を見て、話を聞いてくれた。
そうか、これが真心というものか。

佐川『夏木は、狩野の実の妹だ。狩野は私のせいで変わってしまったといったが、そのころから妹を憎み復讐するために生きてきた。』
私はこんな年齢になってもまだ涙はでるのかと驚いたが、藤木に必死に話した。

藤木『わかりましたよ。ちゃんと聞きますからゆっくり話してください。』
藤木はそう言い、憎まれ口をやめしっかりとした敬語で私と向き合ってくれた。

藤木『夏木が狩野の妹だということは知っています。あなたが退室した後、狩野が自ら夏木に謝罪していましたから。』
ほんの少しだけ、麗美の心はもう戻らないかもしれないと思っていた私は、心の底から安堵した。
変わってしまった麗美が、素直に夏木に謝ったのだ。

佐川『どうか、麗美と夏木が仲直りするチャンスを与えてほしい。』
私は懇願した。本来は鹿島社長に伝えるべきだと思ったが、この男なら聞いてくれるだろう。

藤木『当人同士の問題ですから我々は見守ることしかできませんが、わかりました。場を作ることだけは協力させてもらいます。私が指定する日時に、狩野をこのバーに来させてください。私はその日無理やりでも夏木をバーに連れて行っておきますから。』
藤木は窓の外を見ながらそう話し、約束をしてくれた。
今の麗美ならきっと大丈夫。上手くいく。
ありがとう藤木君。これで私は安心して逝ける。

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