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物語綴り

92
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2023年11月の記事一覧

存在

存在

いつも私の前を歩いていた君が
いなくなった

最初は大きく広がる視界が
寂しくて仕方がなかった

それが時が経ち
今の私は
胸を張って前を見つめて

目の前に広がる日常という景色が
愛おしくてたまらなくなった

君といた日々が
過去となって“現在(いま)”となる

まるでぬるま湯にいるかのような
穏やかな幸せ
だけどどこかに潜む
小さくも不穏な気配

目を向けないように
向けさせないように
幸せを守るための努力も虚しく

目の前に広がるは
赤、あか、アカ

聞こえる声は誰のものか

ふわふわととんでいくわた毛

軽やかでかわいらしいそれは

遠くへタネを運んでいく

運ばれた先で芽吹く姿は見えないけれど

きっとそれは逞しいのだろう

私が蒔いたタネたちも

いつかそんなふうに芽吹くのだろうか