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ピアノを拭く人 第4章 (12)

(桐生)視聴者の皆様、質問をいただき、ありがとうございます。チャットに挙げていただいた順に、お答えします。回答は、特に指定がない限り、適切だと思う方にお願いしたいと思います。

 最初の質問は、「Kudo」さんからです。「僕は部屋が物で一杯です。捨てなくてはと思っても、後で必要になったら後悔すると思い、捨てられません。家族は困っているし、彼女や友達を家に呼べません。こうした強迫の場合、どんな治療をするのでしょうか?」
 これは、赤城先生にお願いしましょうか。

(赤城)ためこみ症ですね。捨てた物が、後で必要になることへの不安が強いと思います。こうした症状の方は、捨てたものがなくても、すぐに困ることはないとわかれば安心ですね。10年後、20年後に必要になるかは、わかりませんから、その不安に慣れることもエクスポージャーになります。
 まず、捨てた物が必要になって後悔する話を作り、それを録音して毎日聞きます。最初は不安が強いと思いますが、不安を感じなくなるまで、毎日聞き続けます。その後、不要な物のリストを作ります。何が不要か自分で判断できない場合は、家族や友人など、一般的な感覚を持っている人に手伝ってもらってください。次に、何を捨てるか、毎日目標を決め、捨て続けてください。
 毎日続けるうちに、不要な物を捨てても困らないとわかるでしょう。また、捨てた物が後で必要になるかもしれない不安にも慣れていきます。

(桐生)物を捨てるときに不安が強ければ、心理士がお家にお邪魔して、手伝うこともあります。捨てたものをゴミ箱から拾いたい衝動を避けるためにも、誰かと一緒に行うと良いでしょう。

 次は、「S.K」さんから、タクミさんに質問です。「私は確認強迫があり、仕事の書類を何度も確認してしまいます。家を出るときも、電気を消したか、鍵を閉めたか、ガスは消えているかなどが気になり、なかなか外出できません。タクミさんが、確認を繰り返さないためにしていることはありますか?」ということです。

(タクミ)僕の場合は、何度も確認すると、止められなくなってしまうので、鍵閉めなどは「よし!」と1回だけ確認するようにしています。
 仕事でも同じように、1度だけ書類の記入に間違いがないか指差し確認をしたら、ミスがあってもいいやと開き直ってしまいます(笑)。

(桐生)潔いですね。1回で終えないと、2回、3回と続いてしまいますからね。

 3番目の方、「Nozomi」さんから、赤城先生に質問です。「コロナ前まで、赤城先生に診てもらっていた洗浄強迫の者です。コロナ感染が怖く、病院に行けなくなったのですが、今日のセミナーを聞き、勇気をだして通院しなくてはと思いました。でも、まだ怖いので、電話かオンライン診療を受けたいのですが、対応していただけますか?」

 4人にとっては励みになるコメントですね。Nozomiさん、ありがとうございます。
 赤城先生、いかがでしょうか?

(赤城)電話診療もオンライン診療も対応しています。ですが、患者さんの症状によって、適用できるかが違ってくるので、まずは病院に電話して相談してください。
 
(桐生)Nozomiさんをはじめ、コロナで通院できなくなった患者さんに、またお会いできる日を楽しみにしています。

 さて、4番目は「雪の女王」さんからです。「私は3か月の息子をベランダから落としてしまうのではないかなど、息子を傷つける強迫観念が頭に侵入してきて苦しいです。皆さんの動画を拝見して、私のような症状は、実際に息子を傷つけてしまう話を作り、録音して聞く治療をするとわかりました。それで、良くなるのかわからないのですが、皆さんにはどんな効果があったのでしょうか?」ということです。

 これは経験したカルロスさん、シオリさんに答えていただきましょうか。

(カルロス)僕は、観念が浮かばないように気を付けて生活しているのに、どうしてわざと録音しなくてはいけないのかと思いました。実際に、話を作るのも、録音して聞くのも、とても怖かったです。でも、何度も聞いているうちに、それほど怖いことではないのかと思え、そのうちバカみたいな話だと思うようになりました。勇気を出して、挑戦してみてください。

(シオリ)私も、すごく嫌で、話を作るときには、泣いてしまいました。聞くのも辛かったですが、毎日聞いているうちに段々怖くなくなりました。強迫観念が浮かばないように逃げていたから、余計に浮かんでしまったり、怖くなったのだと思いました。何度も聞いてエクスポージャーすることで、そんなことあるわけないと思えるようになりました。

(桐生)嫌な話に何度もエクスポージャーすることで、不安が低下していくのですね。入院治療のとき、みんなで話や歌を作って録音したことを思い出しますね。トオルさんが、歌とピアノを担当してくれましたね。

 5番目の質問は、「Tada」さんからです。「私の息子は、いろいろなことを完璧に行わないと、悪いことが起こると思っているようです。歯磨き、着替え、手洗い、食事、掃除、入浴、排泄など、あらゆることに儀式のような決まりがあります。その通りにできないと、始めからやり直すので、信じられないほどの時間がかかります。家族が手伝わないとできないこともあります。どうしたら良くなるのでしょうか?」
 赤城先生、いかがでしょうか?

(赤城)強迫性緩慢ですね。この場合、治療にも、ご家族の根気強い助けが必要です。例えば歯磨きに、普通の人が、どれだけ時間がかかるかを聞き、その時間内にできるようになることを息子さんの最終目標にします。お母さまが歯磨きに3分かかるとしましょう。まず、お母さまが、実際に3分で歯磨きをして見せます。そして、お母さまがストップウォッチを持ち、「始め」の号令を出し、息子さんが歯磨きを始めます。お母さまは声を出して時間をカウントし、制限時間内に磨き終えるように指示します。
 息子さんが実際に1時間かかるとしたら、最初は制限時間を45分くらいに設定し、段々短くしていき、最終的には3分で磨けるようにします。少しでも短い時間でできたら、息子さんを褒め、好きなものを食べるなどのご褒美を設けて、モチベーションを維持しましょう。短い時間でできるように、ゲーム感覚で楽しめるといいですね。

(桐生)カウンセリングでも、食事をする、靴を履くなど、実際に心理士がやって見せた後、患者さんに制限時間内でできるように挑戦してもらいます。

 これが最後の質問になります。「Rina.S」さんからです。
「トオルさんとサイコさんの話を聞き、強迫症を発症してからでも恋人ができ、一緒にエクスポージャーができるのだとわかり、とても勇気が湧きました。私は恋人を作ることは諦めていたのですが、頑張ろうと思います。
私は縁起恐怖、加害恐怖がひどいのですが、2つお聞きしたいことがあります。
 1つは、エクスポージャーを続けていても、気になることが消えないことがあり、続ける意味がわからなくなってしまいます。どうしたら、モチベーションを維持できるでしょうか。
 もう1つは、私は強迫行為をしているとき、家族に止められると、つい感情的になり、喧嘩になってしまいます。2人は、そうならないために、気を付けていることはありますか?」

 では、1つ目はトオルさん、2つ目は2人に答えていただきましょうか。

(トオル)Rina.Sさん、嬉しいコメントをいただきまして、ありがとうございます。
 1つ目の質問、よくわかります。僕も、気になることをそのままにしようとしても、気になったことが忘れられなくて追い詰められた経験を思い出してしまい、そうなるのが怖く、強迫行為をして、すっきりしてしまったことが何度もあります。
 でも、あのときと今は違う、今度は大丈夫だと思って、そのままにすることを心掛けています。気になり続けるときは、気になることをわざと増やすこともあります。
 強迫行為をしてしまうと、次もそうして楽になりたいと思ってしまい、その繰り返しになるためです。強迫行為をしなくても大丈夫だった経験が増えていくと、今回もきっと大丈夫だと思えて、強迫観念を放置できるようになります。成功経験を増やすことが、モチベーション維持につながると思います。
 僕の経験が参考になるかわかりませんが、Rina.Sさんが良くなることをお祈りいたします。

 2つ目の質問ですが、僕も彼女と言い争った経験があるので、よくわかります。僕は冷静になったとき、きちんと謝り、支えてくれることにお礼を言うよう心がけています。
 僕の場合、彼女に恥ずかしいところを見せたくなかったので、いくらか自制が効きました。以前から頼っている店のオーナーには、遠慮がなくなっていたので、多大な迷惑をかけたなと大変反省しています。お答えになったかわかりませんが、少しでも参考になれば嬉しいです。
 

(サイコ)Rina.Sさん、ありがとうございます。
 私が心掛けているのは、彼が強迫観念に襲われたときは、その場を離れさせる、話題を変えるなどして、関心を別の対象に向けることです。強迫行為をしてしまっても咎めずに、次は頑張ろうと励ましたり、しないで済んだとき褒めるようにしています。

 私は喧嘩を避けるために、強迫症について本やネットで学び、カウンセリングに立ち合って心理士の先生がどう対応しているかを学ぶことを心掛けました。ご家族にも、病気について知ってもらい、こんなときどうしてほしいかを伝えておくと喧嘩が減るかもしれません。

(桐生)2人は試行錯誤を繰り返した末に、今の関係を築きましたね。私もいろいろ学ばせていただきました。
 


 皆様、本日は長い時間、誠にありがとうございました。
 本日のセミナーが、通院できない方々の励みになれば、彼らも私たちも、これほど嬉しいことはありません。このセミナーを視聴してくださっている方と、近いうちに病院でお会いできるかもしれませんね。

 

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(桐生)ありがとうございます!

(5人、赤城) ありがとうございます!

(桐生)皆様、本日は本当にありがとうございました。また、お会いできる日を楽しみにしています!
 

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