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コラボ小説「ピンポンマムの約束」4

  本作は、さくらゆきさんの「紫陽花の季節」シリーズと、私の「澪標」シリーズのコラボ小説です。本作だけでも楽しめるように書きましたが、関連作品も読んでいただけるとより興味深く楽しんでいただけると思います。週一で更新するので、宜しくお願いいたします。

※扉絵は、さくらゆきさんの作品です。この場を借りて御礼申し上げます。


「お昼も、あまり食べられなかったみたいね」
 病室に来た海宝さんは、老眼鏡をかけて電子カルテを確認しながら尋ねる。

「カウンセリングであれだけ消耗したら、食欲出るはずないです……」
 午前中のカウンセリングで泣いたせいで、ぐったりしてしまった。薬のせいもあって強烈な眠気に襲われ、昼食用のお茶を注ぎに来た看護助手さんに起こされるまで爆睡していた。

「そういうときこそ、もりもり食べなくちゃ。私なんか、夫の愛情たっぷりのお弁当を平らげても足りなかったわ」

 幸せを振りまく彼女に神経がささくれだつ。抱いてはいけない感情が芽生えたことに肌が粟立ち、反射的に意識をそらす。

「怖い話の録音、何回聞いたの?」
 海宝さんは、枕元のスマホに視線を投げて尋ねる。

「まだ、聞いてません。疲れて、寝ちゃって……」
 後ろめたさで声が尻すぼみになる。

「そう。それなら、一緒に聞きましょ」
 海宝さんは、病室の隅に置いてあるパイプ椅子を広げ、あたしの枕元に座わる。

「連続再生にしてね」

 食べ物が消化器に入ったせいもあり、身体が泥のように重い。また、あの感情を味わう体力はないが、言える雰囲気ではない。

 観念してベッドに腰かけ、連続再生ボタンをタッチすると、米田先生の声量たっぷりのバリトンが病室に響きわたる。

「紫藤千秋さんは、失礼なことをたくさん聞く心理士の米田を心底憎んでいました。あのオヤジ、呪い殺してやると思っていました。ある日、帰宅を急ぐ米田が運転する車は、一時停止を忘れて大通りに入ってしまい、直進してきた車と激突します。車はぺっしゃんこ。米田は全身血だらけで意識不明。相手は即死です。米田は救急車で搬送されますが、病院で死亡が確認されます。米田の遺体の損傷があまりにも激しいので、家族は顔を見ないよう言われます。妻も大学生の息子2人も棺に取りすがって泣き叫んでいます。医師や看護師も耳を塞ぐほどの阿鼻叫喚です。米田も妻も保険に入っていなかったので、米田家は慰謝料を請求されて破産。息子2人の学費を払えないことを苦にして妻は自殺。息子2人は大学を中退するしかありません。浪人してまで入った難関国立大でした」

「紫藤千秋さんは、人の気持ちを考えられない看護師の海宝澪が大嫌いです。彼女は丑の刻に、白装束で頭にろうそくをつけて、海宝の名前を書いた藁人形を五寸釘で打ち、不幸のどん底に落ちるよう呪っています。簡単に殺すのでは面白くないので、できるだけ苦しませて殺したいと思っています。なぜそこまで憎むかというと、海宝はとんでもないあばずれ女だからです。若いとき、東京の会社に勤めていた海宝は社内不倫していたのです。海宝は不倫相手の奥さんが、千秋さんと同じ強迫症で苦しんでいるのを知りながら関係を続けていました。その30年後、相手の奥さんが亡くなりました。海宝はすぐに妻の座に座り、幸せに暮らしています。人の死の上に成り立つ幸せを満喫しているのです。奥さんと同じ病気で苦しんでいる千秋さんは絶対に許せず、海宝が離婚されるよう呪い続けます。満願の日、望み通り海宝が離婚されると、千秋さんはさらに不幸になるよう呪い続けます。容赦ない呪いのせいで、海宝は末期の乳がんになってしまいます。抗がん剤の副作用で苦しんでも効果はなく、骨に転移して激痛にもだえ苦しみます。痛み止めの医療麻薬で意識が朦朧としているとき、亡くなった奥さんの幽霊に呪い殺される悪夢に苦しみます。見舞いに来てくれる人など誰もいないなか、海宝は寂しく死んでいきます。身寄りのない海宝の遺体は、病院が手配した葬儀会社の社員に見送られて、荼毘に付されます。遺骨は無縁仏にされます。海宝がこんなことになったのは、全部千秋さんの呪いのせいです」

「ピンポンマムの約束」3より

 恐怖感を直撃する話に、耳を塞いでうずくまりたくなる。鳥肌が全身に広がっていく感覚が気持ち悪い。息苦しいほど胸がどきどきする。どうして、必死で避けてきたことに向き合わなくてはならないのだろう。こんなことをしても辛いだけだと胸のなかで絶叫する。

 10回ほど流した後、海宝さんが再生を止めた。あたしは顔面蒼白で、身体が石のように硬直していた。

「いま、どんなことを感じている?」

「すごく、怖い……」
 血の気が引き、かすかに震えている唇で言葉を紡ぐ。
 
「最初に聞いたときの不快感を100として、10回聞いた今はどう?」

「同じくらい怖いです」

「そう。米田先生にもらったシートに記入しておいてね。どんなことが怖いの?」

「海宝さんや米田先生に、悪いことが起こるかもしれないこと……」
 口に出すと、本当に起ってしまいそうで、さらに恐ろしくなる。

「怖いわね。でも、感じることから逃げないで、ありのまま受け止めて」
 海宝さんの張りのある声が煩わしく、布団をかぶって、うずくまっていたい衝動に駆られる。

「でもね、それだけに意識をとらわれていてはいけないの。いま、あなたの手はどうなっている?」

「え?」
 何のことかと言いたげなあたしに、彼女は続けて尋ねる。

「千秋さんの手の感覚よ。熱い? 冷たい? 震えている? 汗ばんでいる? 感じるまま言葉にしてみて」

「何というか……。血の気が引いて、強張ってます」

「皮膚は、心臓は? 痛かったり、痒かったりするところはある?」

「全身が粟立ってます。心臓は、息苦しいほど速く、口から飛び出しそうな勢いで打ってます。胃がきゅっと収縮してます」
 心臓のポンプが勢いよく送り出した血液が、体内に張り巡らされた血管を駆け抜ける様子が浮かぶ。血液が送られる内臓の動きにまで意識が及んでいく。

「よく観察できているわね。いま、何が耳に入ってくる?」

「海宝さんの声」

「他には? 耳を澄まして、聞こえるものを全部教えて」

「廊下をロボット掃除機が何かしゃべりながら遠ざかっていきます。あと、たぶん金先生の声。ロボットみたいなしゃべり方だから……」

 海宝さんはふふと笑って立ち上がり、ブラインドを上げ、窓を開け放つ。

 初夏の風が勢いよく吹き込み、滞留していた空気が動き出す。あたしも海宝さんも、乱れる髪を押さえる。差し込んできた午後の陽はどこか気だるい。朝の日は眩しかったけれど、もっと清らかだった気がする。

「千秋さん、こっちに来て」

 スリッパを履いて窓際に行くと、傍らに立つ彼女が指示する。
「目を閉じて。掌を上にして、両手を前に出して」

 視覚が閉ざされる不安を埋めるように、他の感覚が鋭敏になる。頬をかすめる風の流れ、鳥のさえずり、バイクのエンジン音、風に揺れる木立の音。若葉の香りが鼻腔をくすぐる。軽い花粉症があるので、鼻が微かに反応する。春と夏がせめぎ合う季節が肌で感じられる。

「いま、風はどの方向から吹いている?」
 横に立つ海宝さんの声が、マイクを通したようにくっきりと耳に届く。

「西から……」

「手のひらに日差しを感じる? 温かい?」
 あたしは感じるままに肯く。

「手を戻して、身体をゆっくりと左右に揺らしてみて」

 目を閉じたままだと、倒れないよう、スリッパを履いた足の裏にぐっと力が入る。

「今度は身体を前に倒してみて。大丈夫、倒れそうになったら支えるから、落ちないわよ」

 恐る恐る身体を前に倒すと、腰に力が入り、足が前に出て転倒を防ぐ。普段は意識することのない反射的な身体の動きがわかる。

「目を開けて」
 午後の陽が眩しく、思わず目を瞬かせる。

「強迫観念がきているときは、そこだけに意識が集中して苦しいわね。でも、そんなときも、同時進行でいろいろなことが起こっているでしょう。今みたいに、それをありのままに受け入れてみて」

「はあ」

「過去の記憶、将来への不安に心を占領されているときも、五感を使って、いま感じることをありのままに受け止めるの。マインドフルネスといって、強迫症の治療に用いられる方法よ」

 さして興味なさそうなあたしに、海宝さんは尋ねる。

「いま、内にこもっていた意識を外に広げたわね。それで、強迫観念から気がそれたでしょう?」

「多少はそうかもしれないけど、不安が消えるわけじゃありません。あたしが感じている怖さは、そんなものじゃないんです」

 そんなことで、あたしを自殺に追い込むほどの不安から解放されたら、こんなに苦しまないという言葉を飲み込む。

「そうね。でも、これから何度も録音を聞くのだから、一つの手段として試してみて。今のままじゃ身が持たないでしょう。怯えるだけではなくて、自分を客観的に観察してみて」

 そのとき、ドアがノックされ、若い看護師が海宝さんを呼んだ。出ていった海宝さんは、しばらくしてから、息を切らせて戻ってきた。

 あたしのために、他の患者さんのケアが後回しにされていると気づき、ぞわぞわが稲妻のように全身を駆け巡る。あたしは、そんなことをしてもらってはいけない。

 海宝さんは開け放したままの窓を閉めると、思い出したように尋ねる。
「最後に外に出たのはいつ?」

 ぞわぞわのせいで頭が回らない。ここ数年、強迫観念のせいで、家に閉じこもっていて、限界になると手首を切って病院に運ばれて入院。治らないまま退院して、暫くしてまた救急車で運ばれる。その繰り返しだ。もう、どれほど外を歩いていないだろう。

 海宝さんは、淀んだ思考を断ち切るように透明感のある声で言った。
「今日は天気がいいわ。外に出て、録音を聞きましょう」

「あの、海宝さん、忙しいですよね? あ、あたしなんかに、時間を使ってもらうのは悪いから……」
 蒼い顔で、視線は泳ぎ、喉の奥から絞り出した声は今にも消えそうだった。

 海宝さんは、あたしの顔から全身にさっと目を走らせる。
「いま、嫌な考えが来ているの?」
 黒目がちな瞳は、見逃さないと言わんばかりにあたしの目を見据える。

「世話をやかれると、ぞわぞわするのね?」

 彼女は機械的に頷くあたしに発破をかける。
「強迫観念が来ても、そのままやるべきことを続けるの。あなたが自分の意志で変えられるのは行動だけ。強迫観念にとらわれずに行動し続ければ、出てくる感情や思考も段々変わっていくの。さあ、服を着替えて、靴を履いて! スマホを忘れないでね」

「着替えるんですか?」
 病院の庭を散歩する患者は窓から見えるが、パジャマのままの人がほとんどだ。正直、面倒くさい。

「そうよ。メイクもしてみたら」

            
                 ★
 着古したベージュのカットソーに腕を通し、細身のブルージーンズとソックス、スニーカーを履く。パジャマとは感触の違う布が肌にあたると、かすかな居心地の悪さを覚える。ジーンズは少し緩くなっている。伸び放題の髪はヘアゴムで一つにまとめる。口紅くらいつけたかったが、メイク道具を持ってこなかった。日焼け止めを最後に買ったのはいつだろう。

「あら、見違えたわね」
 廊下で待っていた海宝さんは、いつもよりトーンの高い声で言った。

 廊下を歩きながら、靴を履いていると、力強く床を踏みしめられると思った。部屋にこもる日々だったので、廊下を歩くだけで、空気の流れの違いを感じる。強迫観念に苦しめられ、寝てばかりのあたしがいる病室の空気が、どれだけ澱んでいたかわかる。廊下を行くスタッフさんがまとうきりっとした空気に刺激され、あたしの視線も上向く。

「強迫観念が浮かんだとき、どうしてるの?」
 エレベーターの中で、海宝さんが尋ねる。

「ベッドに潜って、怯えています……」

「あれこれ、考えているだけ? 罰が当たればいいと思った人が大丈夫かと電話やメールで確認したり、警察に電話して事故がなかったか聞いたりは?」

「それはしません。浮かんだことが現実にならないように祈ったりとかはします」

「そう。頭の中で、いろいろ考えて動けなくなってしまうのね。実は、そういう症状の方、結構多いのよ」

 エレベーターをおり、外来で混みあう一階を通り抜けて外に出る。

 海宝さんとあたしは、中庭に置かれた木のベンチに腰掛ける。古いベンチだが、掃除が行き届いているのか、案外清潔だ。

 時間を持て余すように注ぐ午後の陽が、海宝さんの横顔を照らす。黒髪をまとめ、カバー力のあるファンデーションでメイクをしている彼女は、老いの醜さを感じさせない。表情も身体も引きしまっている。あたしの祖母とそう齢は変わらないだろうが、老いを隠そうともせず、欲望に任せて肥え太っている祖母とは別世界の人に映る。

「さあ、ここで録音を聞きましょう。連続再生にしてね」

 私と彼女の真ん中に置かれたスマホから米田心理士の声が流れだす。
 
 嫌な気分が波紋のように胸に広がる。あたしがこんなことを考えたら、治療してくれた海宝さんや米田先生に悪いことが起こる……!鼓動が速まり、ぞわっとした感覚が電気のように全身を走る。親切に治療してくれた人たちに感謝するどころか、不幸にしてしまうあたしは、とんでもないクズだ! 治ったふりをして退院したほうがいい。 

 10回ほど再生した後、海宝さんが尋ねる。
「いま、どう感じている? 最初に聞いたときと比べて、変化が出た?」

「わかってるんです! これはお話で、本当に起こることはないって」

「それに気づけて良かったわ。よく、頑張ったわね」

「それは最初からわかっているんです。でも、強く願うと現実になることがあるっていう話をネットで見たし、テレビでも霊能者か占い師みたいな人がそう言ってたんです。実際に、そういうことがあって……。 だから、何度もこの話を聞いて、あたしの脳に刻印されちゃったら、海宝さんと米田先生に悪いことが起こらないか怖いんです」

「実際に何が起こったの?」

 海宝さんは怖くて口ごもるあたしを促す。
「話すのもエクスポージャーよ」

「前にもちょっと話しましたが、中学のとき、いつもあたしを虐める女の子がいたんです。大嫌いで、罰が当たればいいのにと思ってたら、その子が自転車で交通事故に遭って鎖骨を折っちゃったんです。そのとき、すごく怖くて、学校に行けなくなって……。もう、絶対に人を憎む感情を持ってはいけないと思ったんです。それから、気を付けていたんですけど、高校入試に落ちろと一瞬思ってしまった相手が、本当に落ちちゃったんです……。だから、絶対に人を憎んだり、不幸を願ったりしちゃいけないって思ったんです」

「そんなふうに人を不幸にした自分は、幸せになってはいけないと思っているのね」 

「はい……」

「金先生も言ってたでしょう。そんなの単なる偶然。千秋さんが正しいなら、不倫をしていて、相手の奥様さえいなかったらと何度も思っていた私は、出家でもして償わなくちゃならないわ。どうしましょ」
 海宝さんは、さばさばした口調で言い放った。

「え?」

「私の話は本当のことよ。私、不倫してたの。彼の奥様は、もともと双極性障害を患っていて、新型コロナウイルスが流行した時期に、感染を恐れて強迫症を発症したの。不潔恐怖と洗浄強迫で、自殺未遂を繰り返すほど苦しんでいたそうよ。彼は病状を悪化させた奥様を支えるために、私と別れた。奥様は約30年後に亡くなったの。それから、2年経つか経たないかのうちに、私は彼と一緒になった。こんなことをしていても、罰が当たったと思うことはないし、奥様に祟られたこともないわ。いま私は、奥様の死の上に成り立つ幸せを堪能しているの」

 言葉を失ったあたしに、海宝さんは駄目押しする。
「あ、これから千秋さんに呪い殺されるんだったわ。夫に捨てられて、末期がんになって、孤独死するのね。おー、こわ」

「やめてくださいっ!!」
 耐えられなくなったあたしは、頭を抱えたまま懇願する。
「部屋に帰らせてください……」

「だめよ」
 海宝さんは、あたしの腕を取って立たせる。
「もう、構わないでください! お願いだから……」

「そんなときほど、意識を外に向けるの。さあ、しっかり歩いて!」

 海宝さんは、あたしの背中を押して歩きだす。

「いま、あなたの心臓はどうなってる?」

「痛いほど苦しいです。バクバクしてます」

「いま、どんな音が聞こえる?」

「あたしたちの足音、車の音……」
 午後の陽が弱々しくなり、風が少し冷たくなってくる。夕方の気配を感じると、今日も何もできなかったと絶望的な気分になる。

 歩き続けたあたしたちは、病院の駐車場を抜け、敷地の外に出た。ランドセルを背負った小学生の甲高い声が耳に障る。

「薬局の駐車場に、車は何台止まっている?」

「8台です」

「向かいのコンビニの駐車場には?」

「2台です」

「ちょっと、コンビニに寄っていきましょう」

 久し振りにコンビニに入ると、顔をしかめたくなる人工的な臭いが鼻をつく。今まで感じたことはなかったので不思議だった。

 海宝さんは、草餅を2つ買い、1つをあたしに差し出す。
「え、悪いです……」
 親切にされると、ぞわぞわがやってきて、全身がすっと強張る。 

「食べながら帰りましょう」
 彼女は袋を破り、豪快に草餅にかぶりついている。

 仕方なく、あたしも一口かじる。

「どんな味がする?」

 唇を拭いながら、口に広がる味を形容する言葉を探す。
「甘くて美味しいです。朝も昼もろくに食べてなかったので余計に美味しいです。でも、ちょっと人工的な味です。子供のとき、祖母が作ってくれたのは、もっと素朴でほっとする味がしました」

「そう。あなたの舌は確かよ。しっかりした方に育てられたのね」

 海宝さんの顔にやわらかい笑みが浮かんだが、すぐにいたずらっ子のような表情がそれに代わる。

「いま、録音を聞いたときの怖さはどうなってる?」

「あ……、さっきよりましになってます」
 いつの間にか、居ても立ってもいられないような不安が薄らいでいた。

「そう、よかった。マインドフルネス、次も挑戦してみてね」
 海宝さんは、残りの草餅をぱくつきながら、軽快な足取りで先を歩いていく。

「私ね、若い頃、不倫相手とお泊りデートしたとき、一緒に草餅を食べたの。あのとき食べた草餅のほうが、材料の味がしっかりしていて美味しかった。千秋さんに呪い殺される前に、もう一度食べたいわ~」

「やめてくださいよ……」

「米田先生、明日出勤してくるかしら……? 来なかったら、千秋さんの呪いのせいね。強く願うと現実になっちゃうのよね」

 絶句するあたしを振り返り、海宝さんは「寝る前にも、録音を聞いてね」と念押しする。

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