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都会の駅で

スーツケースを引く僕の進む道に沿って、キャスターが滑らかに轍を鳴らす。深夜に近づくにつれ、街の気配が変化していく。ゆっくりと。広い広い駅のコンコース。家路につく人々は寝静まり、やがて旅人達が集い出す。どこへ向かうんだい?行き先は自由。無数の目的地をかざす電光掲示板は「ようこそ」「いってらっしゃい」「よい旅を」といつだって僕らを誘っている。

履きつぶしたスニーカーのつま先は早くも知らない土地の方角を指し示している。

見たこともない景色を探しに行こう。

時間はまだたっぷりとある。実は人生は信じられないくらいに、長い。

「行ってきます」と住み慣れた景色に手を振った。

間延びした盲導鈴がピーンポーンと僕の背を見送る。

シートへと身を預け、心地よい旅路にそっと瞼を閉ざせば。

目覚めた頃にはもう、車窓へは初めての世界が映し出されているだろう。


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