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僕たちの嘘と真実の行方

 ある配信にて映画評論家の松崎健夫さんが“おすすめの作品”に挙げたことがきっかけとなった。勿論、彼女たちの存在を知らないわけではない。しかし、見ていたのは初期の頃。久しぶりに見かけたのはある年の紅白歌合戦で、歌い終わった後倒れてしまうという放送事故級の彼女たちだった。

「この少女たちの登場は その圧倒的な存在感で 新たな熱狂を世界にもたらした そして同時に 苦悩の始まりだった 絶対的な才能 誰にも言えなかった秘密 彼女はなぜ去ったのか 何を残して行ったのか
この物語に正しい答えはない そして奇跡は途絶える 駆け抜けた5年間 失ったもの 叶えた夢 生まれ変わる為に 全ての歴史はここに」

 東宝から配信された映画の予告動画で流れる文章。宣伝目的で多少仰々しくも感じるが、映画の内容は概ねこの文章に凝縮されていた。
 これまでのアイドルの概念を覆す楽曲をリリースし続けたグループ。その中心である平手友梨奈さんの存在の大きさ。
 初期の彼女しか知らない自分にとって、どのエピソードも新鮮なものであり、考えさせられるものであった。
 松崎さん曰く「多角的な視点になりにくくて、監督の主観になりがち」というのがドキュメンタリーだそう。この作品は前者で仕上がっているように感じた。

 映画の感想は、ファンであるか否か、興味の有無にもよるだろうが、個人的にはチケット代の元はとれたように感じる。タイトルの「嘘」が何で「真実」が何なのか作中から感じ取れなかったが、彼女たちのライブパフォーマンスに伝わるものはあったし、熱狂する人たちの心理は理解できた。
 大画面と大音響の映画館で観るべき映画であり、観た後に誰かと話したくなるような「後味が濃い」作品だと感じた。

 平手さんの表現力はある種の中毒性を帯びている。次の刺激を求められていく毎に、グループでの存在が大きくなり過ぎてしまうのは、必然で避けられない流れだったのかもしれない。ギリギリな状態で(と一方的な自分の見方ではるが)5年間を駆け抜けていった彼女たちに素直に感動した。
 映画を観終わってから、彼女たちのパフォーマンス、楽曲に興味が沸き始め、世の中に広まっている動画を漁っている。
それら一通りを鑑賞した後に、また彼女たちのドキュメントを見直すと、また新たな感動が沸いてくるかもしれない。
 いつかまたこの映画を見直してみたいと思う。

 もう一つ、コアなファンではない自分が単純に思うこと。
 それはもっと彼女たちに時間をあげてもよかったのではないかということ。結成してからの期間と、パフォーマンスを披露する会場の規模がマッチしていたように思えない。
 今の時代、時間をかけてはいられない。コスパを念頭に置いて、如何に早く結果を出すかに重きが置かれる。
 大人への反骨心を代弁しているように形容されるグループのメンバーたちが、結局は大人の事情の中で苦悩していく状況に見えて、タチが悪い皮肉に思えてしまう。

 平手さんは去って、欅坂はその屋号を捨てる。それは同時に欅坂は平手さんのことであったと暗に認めることでもある。改名はそれぞれのメンバーにとって葛藤を生んだことは想像に難くない。全てを飲み込んで前に進んでいく先に、5年間の時間が「嘘」となるのか「真実」となるのか。

 この映画、彼女たちの物語に対しての評価くらいはもう少し先へ、時間をかけてもよいのではないだろうか。

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