~後発参入でも市場シェアの獲得に成功した建設現場管理SaaS「ANDPAD」~
シンチャオ!事業開発や事業を伸ばす際に活用できるエッセンスを抽出することを目的に、SaaSの成長軌跡をトレースして定期で更新できればと思っています。
基本的には、インタビュー記事やピッチ情報など、ネットで落ちている情報を網羅的に抽出しながら、参入時と市場拡大時の戦略をまとめております。徐々に考察なども入れながら内容のアップデートをしていければと思います。
第一弾は建設現場の施工管理アプリのANDPADです。未経験領域への業界参入のやり方、参入後の課題の抽出、プライシング戦略など、活用できるエッセンスは多いです。他のSaaS事業とも共通化している考え方は、事業戦略の定石としてインプットできたりなど、参考になる内容が多かったので良かったら参考にしてみてください。
1.サマリー
先行サービスが参入しており、新規参入が難しいと言われる建設市場で、建設現場監督向けの施工管理アプリを展開している「ANDPAD」。営業力ではなく、現場監督の使いやすさを徹底的に追及し、Slackのようなプロダクトがプロダクトを売るPLGの様な形態で2~3年かけて市場シェア及び顧客獲得を実現。現在では、契約企業3,800社、利用ユーザー33万人。後発でどのようにして市場認知及び顧客獲得を実現できたかを分析。
2.前提整理
2-1.ANDPADについて
・代表者経歴
慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルートにて人事・開発・新規事業開発に従事。
2014年アンドパッド(旧:オクト)設立。「現場監督や職人さんの働くを幸せにしたい」という思いで、建築・ 建設現場の施工管理アプリANDPADを開発。Forbes JAPANの「日本の起業家ランキング 2021」にてBEST10に選出。
・創業年:2014年/2016年「ANDPAD」リリース
・累計調達額:24億円(2020年時点)
・対談動画:https://www.youtube.com/watch?v=u44xNiYRHnc
・企業実績(引用記事)
利用ユーザー:33万人(2021年)
契約企業:3,800社(2021年)
累計利用企業:13万社(2021年)※企業に招待されて利用する企業数
導入プロジェクト数:680万件(2021年)
今後の拡大領域:ゼネコン、専門工事、設計事務所
・従業員数:600名(2021年時点)
2-2.業界全体の各プレイヤー
・建設業界のプレイヤー
2-3.市場規模
・建設産業の市場規模は50兆円内、住宅部門で14.7兆円の規模
・500万人の従業者の年齢構成比は3割が55才以上、29才以下は、約1割
・46万社の建設業許可事業者
・アメリカ類似サービス「プロコア」は売上314億円/2019年時点
2-4.業界課題
・従事者の高齢化による人手不足
・2025年には130万人が退職予定
・売上高総利益率が21%と他産業と比較しても低く、生産性がきわめて低い
2-5.対象サービスのプレイヤー/市況感
アンドパッドが展開しているプロダクト領域の既存サービスは事業立ち上げ時から、建設現場出身が立ち上げた施工管理アプリが先行していた。そのあとも、建設現場向けの施工管理アプリが複数立ち上がり、現在では複数の施工管理アプリが存在する。
3.事業立上背景
「建設業界出身ではないが、社会課題規模が大きな産業で挑戦したかった」(インタビュー記事)とあるように、建設業界出身ではないが、IT化が遅れて労働人口不足である当領域に参入を決意した。初期からSaaSプロダクトの構想はなく、リフォーム会社のポータルサイト(みんなのリフォーム)を立ち上げ、リフォームを手がける建設会社との信頼性を構築し、建設会社からシステム構築案件も受託するようになった。創業2年後に、現在のANDPADに着想し、現場施工管理に業務課題を発見し、SaaSプロダクト開発に着手。
4.参入時の各戦略
4-1.事業ドメイン選定について
・大手企業がIT化の文脈で参入できていない軸で選定
リクルート、楽天、ソフトバンクなどの大手IT企業が投資をしている産業は激戦区だと考え、建設と医療に絞り、建設建築領域は多重構造が激しく、業界内でのプレイヤーが増えにくいと捉え、建設建築領域を選定。
4-2.プロダクト開発まで
・営業組織の立ち上げと営業ノウハウの構築
2年間運営していたリフォームポータルサイトの収益化を行うために、10人規模の営業組織を構築。営業の中で現場職人との繋がりを増やし、ヒアリングを何百回と行い、アンドパッド構想にたどり着く。PMF検証を行うために、ポータルサイトで培った営業とオンボーディングのナレッジを蓄積してアンドパッドの成長性を検証していた。
・圧倒解像度(バリュー)
社内従業員の内、建設業界出身者は3割だが、リフォームポータルサイトの運営から建設業界に入り込み、マーケティング、システム構築などの受託を行うことで、信頼と課題解像度を向上させた。
最も悩みが顕在化している集客課題から参入し、内部オペレーションの改善でシステム受託を行うことで、信頼性と課題発見の機会を創出した。また、1つの機能開発に30社以上へのヒアリングを通じて開発するほど、顧客の声を最優先している。
4-3.事業の差別化戦略(コンセプト戦略&機能戦略)
・人で売らずに、プロダクトで売る
先行サービスの社長が建設業界出身で建設業界への影響力が強かったので、人で売る(営業力勝負)ではなく、プロダクトの使いやすさにこだわることに集中し営業を止め、開発だけしていた時期が3ヶ月〜半年。プロダクトの認知までに2〜3年程かかったが、プロダクトの利便性を理由に競合からのリプレイスに繋がる。
また、プロダクト開発の基本的な方針として、建設業界以外の業界でよく利用されているプロジェクト管理ツールの機能を真似て、建設業界特有の「建設工程表」の機能開発にフォーカス。「他業界で先行しているプロジェクト管理系のツールは、業界が変わっても本質的に提供している機能価値に大きな違いはないと考えた。」(記事引用)
・初期ユーザー
リフォームポータルサイトの顧客を初期顧客としてヒアリングを通じてプロダクトリリースを行った。住宅リフォームを手がける建設事業者に顧客を絞り、リフォーム業界で認知形成を取りながら、住宅以外の領域に拡張していく。
・ビジネスモデルが秀逸
課金形態がSlack形式で、ID枠を購入した元請け企業が仕事を依頼する法人や個人にアンドパッドを活用して仕事を振り分けるので、顧客が顧客を呼び顧客獲得単価が下がる仕組み。
・フリートライアル
説明会などのオンボーディングを、1ヶ月に100回以上行い、フリートライアルの満足度を最大化させ有料化につなげている。説明会には有料利用者も混合している時もあり、無料ユーザーの有料化への促進に繋がっている。
・プライシング
課金単位がID数なのでID数増加によってARPAが上がり収益最大化を行いやすい。「ユーザーと購入客が分かれているのは引き出しが増える要素であり利用者と購入者の構成比が1:1だとプロダクトの引き出しが増える感覚にある。」(記事引用)
5.市場浸透について
5-1.事業グロースにおけるユーザー獲得戦略
ターゲットを住宅リフォーム事業者(初期事業の顧客資産)に限定して認知形成を取ることで、建設建築業界内での認知基盤を構築した。契約企業が新規企業を取り込むことで、建設プロジェクト数に比例してアプリが認知され、利用者数を増やすことが新規獲得に繋がった。
5-2.PMF後の企業の導入背景
↓顧客インタビュー記事より内容引用↓
→ANDPADを導入するほどの規模ではない事業者でも、売上に連動して管理工数や管理対象のデータ量が増えるので、売上に直結するマーケティング支援からそのまま自社プロダクトを導入できる綺麗な導線を設計でき、誰もが納得できる合理的な提案に繋がる。
5-3.ユーザー向けコンテンツ配信
有料会員向けサイト「ANDPAD ONE」をリリースし(2020年12月)、ANDPADの活用事例やケースをインタビュー形式で公開。また、リフォーム会社の集客戦略に関するセミナーやインタビュー記事など、経営課題に対して複数の切り口でノウハウをクローズドで提供している。(引用記事)
6.VCの評価ポイント
VCからの評価コメントを要約すると下記の3点。
7.今後の事業戦略
バリューチェーン別で生産性を改善するプロダクトを複数展開予定。
建設現場で発生するデータだけではなく、他業務工程でも発生するデータを蓄積し、業界課題である人材不足と生産性改善を実現できるプロダクトやサービスを今後も展開するだろう。
8.さいごに
ANDPADが実践した事はシンプルで、既に存在している競合サービスよりも、良いものを提供すること。競合の存在=顧客課題(ニーズ)が顕在化してる証明になるので、競合よりも良いサービスを適正価格で販売したことが、顧客の信頼獲得に繋がったと考えられる。
市場に大きな認知形成がされるまでに2~3年程かかったが、プロダクトの土台である”デジタル”が浸透していない”建設”市場だったことも所以であり、市場の成長(デジタル化の流れ)によってプロダクトの成長が促進されたとも考えられる。
最後に、ANDPADの競合サービスとして完全無料で利用できる建設施工管理アプリ「テラ施工管理」をTeraDXソリューションが2021年8月にリリース。ANDPADからスイッチングするケースもあるそうで、解約をどのように防止するかなど、今後着目していきたい。
9. Appendix
・参考記事一覧
Fast Grow 代表インタビュー①
Fast Grow 代表インタビュー②
組織構築に関するインタビュー
投資元VCとの対談
社員インタビュー①
社員インタビュー②
社員インタビュー③
AND PAD ONEリリースプレス
INITIAL 代表インタビュー
CFOインタビュー
Vpoe インタビュー
メディア記事
導入企業インタビュー
メディア記事
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