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通学路の魔力

学生時代の通学路には魔力があると思っている。
一人で登下校していると「変な賭け」をしてしまうという魔力が。

僕も昔はその魔力によくかかっていて、例えば「ひとつの小石を学校から家まで蹴って帰れたら幸運が訪れる」とか「拾った長い木の棒を地面に倒して、倒れた方の道から帰ったら明日の運気アップ」といった自作自演の「変な賭け」を下校の際にしてしまうことが多かった。

小学校時代、短期間だけだが朝の登校時に「変な賭け」を発動させてしまった時期があった。
登校の途中、赤、白、青の三色のタイルが惹かれたような道を通る際、「青色のタイルをずっと歩ければ、今日はラッキーな1日だもんね!」と勝手に心の中で賭けをして、青色のタイルだけを踏んで登校していた。
ある日、青色を踏み外してしまったことがあったのだが、自分で作った賭けごとなのに「青色を歩けなかったから、今日は運が悪いかも・・・」という思いが頭から離れず、いつもなら学校に着くやいなや賑やかに騒ぐゴン中山スタイルだったのに、その日は急に静観な態度をとって「私はサッカー日本代表で言ったら、井原正巳の重厚感を見習っていくんです、よろしくね」といった感じの質実剛健アジアの壁スタイルを気取ったりしていた。
「変な賭け」は無駄に自分への呪縛を与えてしまう。

高校時代も通学路で「変な賭け」をしたことがあった。
それは大学の合格発表を待つ期間のある日、一人で帰宅途中、砂利と土の敷かれた駐車場の前を通った時のことだった。
ふと、駐車場の地面を見ると、地面から肌色のキン消し(キン肉マン消しゴム)が露出しているのが見えた。
今、キン消しは復刻して人気もあるが、その頃キン消しは廃れていた時期で、久しぶりに見たキン消しに懐かしさを覚え、どんなキャラクター(超人)か確認しようと近づこうとした時、なぜかこんなことが頭をよぎった。

「正義超人なら合格、悪魔超人なら不合格」

受験の合否が気になってナーバスな状態だったからなのか、その時、無駄に浮かんだ「変な賭け」が頭から離れなくなってしまった。
「確認して悪魔超人だったらどうする・・・」
「ここで見ないで引き返せばこんな変な賭けに囚われることもない・・・」
「ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・」
進む足を止めてあれこれ考えた後、「まぁ、自分で勝手に考えたこんな賭けと、合否は関係あるわけないよな」「高校生にもなって、なにバカなことを考えてるんだ」と我に返り、キン消しにゆっくり近づいていった。
ただ、我に返っているにも関わらず、なぜか頭のどこかで「正義超人」であってくれ、という思いを微かに抱いていた。
そして、数秒後、地面から体が半分出ていたキャラクターに目を凝らした。

そのキャラクターは「サザエボン」だった。

地面に埋まっていたのはキン肉マンの超人ではなく、ひと昔前に一世を風靡したものの著作権問題で販売中止になったキャラクターグッズだった。
塗装が全て剥げていたそれをキン消しと見間違え、さらに、バカな「変な賭け」をした自分に呆れ、バカボンのパパのような表情でその場から去った。


ここまで読んでくださったお子様をお持ちの保護者の方々がいらっしゃいましたら、くれぐれもご注意ください。

お子様によっては通学路の魔力のせいで、授業中に情緒不安定になったり、駐車場に寄り道してしまう恐れがあります。

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